
中村左洲の描いた「鯛」の作品はかなりの数が出回っていますが、本日紹介する作品は「鯛の名人」として名高い中村左洲の作品の中でもかなりの秀作です。
ちなみに中村左洲には風景画に秀作が多いようです。もっとも評価が高いのは意外にも美人画ですね。

改装にて締め直しされた作品
游鯛図 その4 中村左洲筆 昭和15年 その14
絹本水墨着色印譜表具軸装 軸先骨 共箱
全体サイズ:縦2000*横490 画サイズ:縦430*横510


シミなどが目立ちますので、染み抜きが必要な作品となります。

作品のシミは湿気、雨漏り、虫の糞などが発生源となります。

表具の傷みは糊の剥離、折れシワに起因します。無理に箱に入れたり、しっかり締めて保存しないといけませんが、これには経験則が必要と思われます。意外に収納の下手な方が多いものです。

中村左洲の作品には鯛を描いた作品がかなりの数がありますが、依頼されて描いた作品も多く、多作なため、あえて言うなら「それほどいい作品とは言えないものがほとんど」です。

本作品はそのような作品の中で構図、鯛の表情・動きなどから群を抜いての佳作と言えます。なんでも鑑定団に評には「後ろ向きな鯛」は珍しいとか・・?? 実際は多くの作品に後ろ向きの鯛が描かれています。

鯛を描いた画家は多かれど、泳ぐ姿をこれほどうまく表現する画家はなかなかいないでしょう。今でこそ回転寿司のお店の生け簀?にてガラス越しの鯛を観察することはできても、中村左洲の時代の鯛を観察しながら描いたのは驚くべきことですね。

表具には印譜裂が使用されています。


これは非常に貴重なものですね。

共箱にて塗の二重箱の誂えとなっています。

落款には「昭和15年(1940年)卯月(4月)」とあり、中村左洲が66歳この頃の作品で、このように年季が記されている作品も貴重なものです。


痛みや汚れがあるので改装しますが、現況の表具材を再利用する「締め直し」の作業となります。
ところで本作品は1994年に桑名市博物館で開催された展示会に出品された作品のようです。

展示会に際して出版された小冊子には下記のような説明がありました。

代表的な作品は写真入りで紹介されていますが、その作品の中のひとつとして紹介されています。

中村左洲の佳作として当方で大切に保管しておきたい作品のひとつです。よって本作品は染み抜き・締め直し改装されています。


改装にて締め直しされた作品 游鯛図 その4 中村左洲筆 昭和15年
絹本水墨着色印譜表具軸装 軸先骨 共箱
全体サイズ:縦2000*横490 画サイズ:縦1100*横365
改装完了後 全体サイズ:縦1970*横488 画サイズ:縦1097*横363
2024年12月改装完了

シミなどはきれいに落ちます。写真では分かりかねますが、おどろくほどきれいになっています。

締め直しですので、印譜表具材もそのまま復元されています。

共箱には題字カバーを誂えています。

改装しても「縞直し」(元の表具材にて改装)ですので印譜裂などもそのまま再現されています。