
本日紹介するのは我が郷里の画家、平福百穂が好んで描いた「峠路」の作品です。この峠は岩手県から秋田県に抜ける仙岩峠のことのようですが、平福百穂が故郷の角館に帰省する際に、頻繁に通った峠です。

峠路 平福百穂筆 その144
絹本水墨淡彩軸装 軸先象牙 共箱二重箱
作品サイズ:縦2140*横605 画サイズ:縦1240*横415


生誕120周年に発刊された画集に1933年(昭和8年)に描いた「峠路」(画集NO67 下記写真右)という作品が掲載されています。「淡墨とたっぷり含んだ筆を押し付けて紙を潤して表した、ぽってりした形の樹林の向こうに、丸木橋がかかり、渡ったすぐのところに、断崖に沿った急峻な山道となる。荷を背負った男が、背を屈めるようにして登っていく。岩は淡墨の浸潤と擦筆で描写し、渓流の石に一部胡粉を施している。」と説明(下記写真左参照)があります。


さらには他の画集には「春の峠路」という作品が掲載されています。こららの作品から、この作品の元となったのは郷里に帰省の際にいつも通る仙岩峠のスケッチに相違ないでしょう。今でも仙岩峠は難所のひとつのようです。登ったことはありませんが、なかなか面白そうなルートのようです。

この仙岩峠を題材にしたと思われる作品は平福百穂が好んで描いたと思われ、数多く遺されています。

俳画的な要素もあるような山水画となっています。本作品はその作品の中でも出来の良いものです。

大正期から昭和にかけて平福百穂を近代南画とも評される山水画の画風を確立していきますが、本作品の作風はそのものです。

この作風の山水画は平福百穂の代表的な作例として当時は珍重されたようですが、南画の衰退とともに現在ではあまり評価されていません。

表具、誂え共々、上等なものとなっています。

共箱の落款や印章は下記の写真のとおりですが、落款の書体からは晩年の昭和初期の作と推定されます。



このような近代南画の作品はいつかまた再評価されるようになるでしょうか。