週末には久方ぶりに刀剣に手入れ・・。当方の蒐集作品ではなく、先祖伝来の品々であり、ものが物騒なだけに時間に追われていない時にじっくりととりかかります。ときおりメンテしているのでちょっと油をつけて拭く程度の手入れで済みました。
さて本日の作品紹介です。
下村観山は、岡倉天心が日本美術院を茨城県北部の五浦海岸へ移した際、横山大観、菱田春草、木村武山とともに同地へ移住し画業を深め、近代日本絵画の礎を築いた日本画家のひとりです。今でもファンの多い画家ですが、それゆえ真作の入手には手こずる画家の一人でもあります。
乕渓三笑 下村観山筆
絹本水墨軸装 軸先象牙 共箱二重箱
全体サイズ:横730*縦2290 画サイズ:横520*縦1360
画題はよくご存じの「虎渓三笑」です。本ブログでも梶野玄山の作品にてこの画題は紹介されています。
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虎渓三笑:話が佳境に入り夢中で話し込んでいると、思わず時の経つのも忘れ、自分たちのいる場所もわからなくなってしまうことがあります。意気投合して、談笑するのを楽しむということわざです。出典は「盧山記」。
儒、仏、道の三賢者が一同に合して話をしたところ、お互いにつきない興味を感じ、すっかり夢中になってしまったという故事です。
中国での浄土教の開祖である慧遠法師は来客を送る際、精舎の下の虎渓という谷川のところで足をとめ、そこを渡ることをしない戒律を守っていました。
ところが詩人の陶淵明と動家の大家である陸修静が来訪して、三者でそれぞれの専門分野について話し合ったとき、さすがに興が乗じて、慧遠法師は思わず「安呉禁足の掟」に従わず、虎渓を越えてしまい、虎のほえる声を開いて、初めてそれに気づいて、三人とも大笑いをしたとのことです。
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この故事は史実として疑問とする説がありますが,三人が談笑して歩く姿と谷川の水の流れは、中国,日本の画題として好まれ,多くの作品があります。
箱の誂え、表具ともに申し分ありませんね。
箱書や落款の書体、印章にも違和感がありません。こららの事柄は直感ですぐに判断できることが蒐集する者には不可欠です。
作品中は白文朱方印「観山」が押印されており、この印章の資料は手元にはありませんので後学(珍しい印章?)としますが、箱裏の印章はよく押印される見慣れた印章であり、資料は下記写真右となりますが、上の箱裏印章と一致すると考えてよさそうです。
とくに蒐集している画家ではありませんが、蒐集対象としては面白い画家の一人であり、近代日本画家の草分け的存在です。ただし贋作が多いので要注意・・。
いい作品には掛け軸も刀剣も日本人は昔からいい誂えをしており、そこには日本の文化そのものがあります。掛け軸をかび臭いとか、刀剣を物騒とか忌み嫌うように申す人は本当の魅力に触れたことがないように思います。