昨年のリオ五輪に続く「メダル」を目指した男子4×100mリレー。日本は1走・多田修平(関学大)、2走・飯塚翔太(ミズノ)、3走・桐生祥秀(東洋大)、4走・藤光謙司(ゼンリン)というオーダーで臨み、38秒04で3位に入り、銅メダルを獲得した。大会9日目(8月12日)にして、日本勢に今大会初のメダルをもたらした4継チームだが、その舞台裏には数々のドラマが交錯していた。

大会6日目(8月9日)の男子200mでサニブラウン・ハキーム(東京陸会)が準決勝突破を決めたとき、日本陸連短距離担当の苅部俊二・五輪強化コーチの頭のなかには、1走・サニブラウン、2走・飯塚、3走・桐生、4走・ケンブリッジ飛鳥(Nike)というオーダーが固まりつつあった。

「200mの準決勝が終わったとき、ハキームは『いけるかな』という感じがあったんです。本番の前日にリレー練習をやってみて、良ければ起用する方針でした。1走にするか、アンカーにするかは確定してなかったんですけど、1走が有力でしたね。しかし、翌日の200m決勝でああいうかたちになって、起用するのは難しいと判断しました」

 大会7日目(8月10日)の男子200m決勝でサニブラウンは右ハムストリングスに痛みが出て、後半に失速。史上最年少で男子200mのファイナルに進出した19歳のリレー起用をあきらめ、多田の1走を決めた。そして、大会9日目(12日)の10時55分から行われた男子4×100mリレー予選(1組)には、1走・多田、2走・飯塚、3走・桐生、4走・ケンブリッジというオーダーで出場。アメリカ、イギリスに続く38秒21の3位で予選を通過するも、苅部コーチは決勝で「メダル」を狙うべく“手術”を決断した。

「今回はメダルを獲りにいきたいと思っていたので、予選からメダルを狙えるメンバーで臨みました。でも、予選のタイムは6番目で、上位のジャマイカ、アメリカ、イギリスとはタイム差がありました。何か手を施さないと、メダルには届かない。足長(バトンパスの距離)をいじることはもちろん、メンバーを変えることも我々の選択でした。予選のレースを見て、4走・ケンブリッジがバトンに不安があり、リオ五輪と比べて走りも精彩を欠いていました。相当悩みましたけど、チェンジすることにしました」

 新たにアンカーに抜擢されたのが31歳の藤光だった。