都議会自民党は2年余り前の東京都知事選で舛添要一氏を推した経緯もあり、「本人の顔を立てたい」と自発的な辞職を促してきた。都議会閉会の前日になって「舛添降ろし」に踏み切った背景には、想定を超える舛添氏の頑迷さと世論の反発があった。

涙で「リオのため」

 「子供のことを思えば、1カ月前も、今でも辞めたいと思っている」

 「ここまで耐えてきたのは、リオ五輪で東京を笑いものにしたくないから。どうか東京の名誉を守ってもらいたい」

 14日午後5時45分すぎ、議会運営委員会の理事会で舛添氏は涙で言葉を詰まらせていた。

 舛添氏が「思いを語りたい」と希望して設けられた発言の機会。辞職か議会解散に伴う選挙が8月のリオデジャネイロ五輪に重なる事態を避けるべきだとの独自の理屈を展開し、9月の都議会定例会に「身柄を託したい」と懇願した。自民に“三下り半”を突きつけられ、追い込まれた舛添氏の姿があった。

 その数時間前、都議会の川井重勇議長(自民)は「辞職するよう説得する役割を果たしたい」との決意を他党の幹事長に語り、舛添氏との面談に臨んだ。川井議長は懸命に辞職の道を説いたが、舛添氏は首を縦に振らなかった。

 そして午後2時半に始まった議運理事会。舛添氏は「ご迷惑をおかけしました」と陳謝する一方、続投へのけじめと位置づける自身の給与全額返納と副知事人事の2議案を説明し、硬い表情で退室した。その席上で公明党や各野党の都議が不信任決議案提出を表明した後、自民の都議は切り出した。「不信任決議案を出す用意がある」。自民がかじを切った瞬間だった。

及び腰に苦情殺到

 「政治とカネ」の問題で猪瀬直樹・前知事が辞職して実施された都知事選で舛添氏を推した自民は当初、追及に及び腰だった。「騒動が大きくなれば支援したことが批判され、参院選に影響が出てくる」(自民都議)との懸念があった。

 また、仮に舛添氏が辞職した場合には、次期知事の任期満了に伴う選挙が2020年の東京五輪・パラリンピックの時期に重なるため、避けるべきだとの慎重論も根強かった。

 しかし、疑惑が連日のように報道される中、自民都議らの事務所に「なぜ舛添氏を知事にしたのか」などの苦情が殺到。自民は今月開会の都議会の一般質問で「身を切る覚悟」を求め、舛添氏から給与削減の言質を引き出したが、なお「舛添氏を擁護している」との批判がついて回った。

 そうした中、公明の不信任決議案提出方針が13日に表面化したことで、自民にも一気に辞職論が拡大。「『辞めさせる』のではなく『自ら辞める』という形で舛添氏の顔を立てるため、ぎりぎりまで説得に動くことにした」(自民都連関係者)

 不信任決議案が可決されれば、辞職か議会解散かは舛添氏に委ねられる。自民都議は「全面戦争だ」と声を荒らげるが、自民内にはなお、不信任カードを突きつけつつ辞職を促そうという思惑もある。

 別の都議は舛添氏のかたくなさに「常人では考えられない思考回路だ」と嘆いた。