日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
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◎本日の空想劇場「代償」

2014年09月23日 | ◎これまでの「OM君」
もうだめだ。
真夏の太陽が照りつける。
立っているだけでめまいがする。
日雇いのお金も底をついた。
住むところも追われ、所持金は32円。
ひもじい。
もう冷静な考えはおよばない。
水を飲もう。
ふらふらと公園に足を踏み入れる。
熱い。
景色が歪んで見える。
ベンチに座ろうと思ったが、老人が座っていた。
背広をきっちりと着込みうなだれて眠っている。
手提げ鞄が無造作に置かれている。
(盗ろう…)
そう俺の頭の中で声がささやいた。
老人の横に少し距離を置いて慎重に座る。
老人は微動だにしない。
(眠っているな…)
そっと鞄に手を伸ばす。
俺の心は決まっている。自分でも驚くほどスムーズに音を立てず鞄を手元に引き寄せた。
ごろごろと固まりが転がる感触があった。
鞄の中を見る。
そこには大量の札束があった。
目を大きく見開く。そして真っ直ぐ前を見たまま立ち上がり、足を踏み出す。
その直後、バタリと老人が前倒しで地面に倒れた。
(え…何?どうする)
パニックになる。
老人のか細い声が聞こえた。
「どうする?」
心臓が止まりそうだ。
人の気配は無い。
俺は足を止めず、後ろも見ず、歩きだした。
真っ直ぐ前を見たままだ。

1時間以上歩いた。
少し冷静になると鞄の重みがずっしりと肩にかかっている。
あのじいさん何だったんだろう。
いや今は、食い物だ。
1万円札を1枚抜き取り、牛丼屋に入った。
特盛り、大盛り、ビールを一瞬で平らげた。
ああ、なんてうまいんだ。
食欲が満たされ、罪悪感におそわれた。
しかし、もうやってしまったことだ。
そう自分に言い聞かせ、ビジネスホテルに泊まった。
何日ぶりに足を延ばして眠る。
泥の眠りをむさぼった。

朝、急いでニュースを見るためにテレビをつける。
あのじいさんの写真が画面一面にうつる。
女性キャスターが言った。
「…昨日、都内の公園で死亡が確認されました。山口忍さんは世界的に有名な作曲家で数々の名曲を世に残されました。死因は心筋梗塞で…」
あのじいさん死んだのか、俺のせいなのか…
そのとき青白い閃光とともに真っ黒い人型が現れた。
大きくひらいた口が話しだした。
「そうだ、おまえのせいでもあり、おまえのせいではない。くくく。
何を言っているか分からんな。
これはあの爺さんの賭だったんだよ。」
「おまえは、なんだ。何を言っている」
「質問は1こづつ言え。そうだな、俺はお前達の世界で言う所の悪魔だな」
「!!!」
「そしてあの爺さんは末期ガンだ。今日明日にも死ぬ運命だった。そんな瞬間にあの爺さんは俺を呼び出せた。当然こっちにしたら悪魔の契約で命を助けろと言うと思うじゃないか。ところが爺さんは違った。交渉してきやがった。おっと一方的にしゃべっているが話は分かるか?」
「いや、分からない」
「そうだろうな、ならもう少し俺の話を聞け。その爺さんはこう言った。悪魔と契約を交わすと魂は地獄に持って行かれる。魂を地獄に持って行かない賭をしたいと…
盗人は老人を助けるか、助けないか。まあそういう掛けだ」
「つまり助けなかったということか」
「そうだ」
悪魔の後ろからあの爺さんが現れた。
そして俺の体は爺さんにのっとられた。
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