はがきのおくりもの

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二者択一を疑う

2014年07月24日 | 昔話や童話などを用いた校長講話

 目標と目的を定め、目標を達成するための方策を考え、その方策を実行していくやり方は有効な方法である。だから、生徒たちに身につけてもらいたいと思った。
 しかし、目標を追うやり方に限界があることも、生徒たちには知ってもらいたい。
 限界とは、未熟なときの自分が目標や目的を設定するしかないところにある。目標や目的は、そのときの自分が想像しうる範囲内であり、成長したときの自分が望む目標や目的とは限らない。成長したとき、それまでの目標や目的を捨てたくなることはままあることである。したがって、自分が定めた目標や目的をあきらめない強さとともに、当初の目標や目的に縛られない柔軟さも必要となる。
 目標と目的を定め、それを達成しようとする。すると、目標を達成する方法が見つからなかったり、どうしても方策をやり遂げられなかったりして、苦悩する。思い切り苦悩すると、それまでの目標や目的を捨て、新たな目標や目的に飛び込む踏ん切りをつけることができる可能性が高い。また、必死に目標を追っていると、こっちの目的や目標もいいよと、別の道を教えてくれる人に出会う可能性も高い。
 そうした可能性をつかむ柔軟性をいかに身につけるか。
 この問題意識は、目標を追うやり方に挑戦した先に生まれる。一方で、目標を追うやり方を挑戦する前に生まれる問題意識もある。
 目標を追うやり方を採用しないという選択はあり得ないのか。
 これらの問題意識から、「ウサギとカメ」から得た教訓を疑う講話を試みた。全日制の卒業式で試みた話を紹介しよう。「ウサギとカメ」の話をした後の展開である。

 

 私は、目標や目的を自覚することが大切である、という命題は本当に正しいのかと、「ウサギとカメ」の解釈の前提を疑ってみたくなりました。
 自分のことを振り返ってみますと、大学へ行こう、教師になろう、バスケットボール部を県大会で勝たせたい、クラス通信を出そう、などとその時々で小さな目標はありました。しかし、それらの目的を明確に自覚していたかというと、していませんでした。私が管理職への道を選んだのは、明確な目標や目的があってのことではなく、あるすごい人がいて、そのすごい人と一緒に仕事ができたら面白そうだと思ったからです。
 人には、遠くを見て、大きな目標や目的を掲げて挑戦する「トリ型人間」と、近くを見て、小さな目標を見つけては一段ずつ登っていく「アリ型人間」とがいるのではないでしょうか。私は「アリ型人間」でやってきました。しかも、上る階段を探すときに、目標や目的で階段を選ぶよりも、すごい人がいる方の階段を選んだのです。その方がワクワクした人生を送れるような予感がしたのです。ですから、必ずしも明確な目標や目的を持っている必要はないと考えています。「すごい」と感じる自分の感性と、それを大事にする自分の意志を信じたいと思っています。
 目標や目的を自覚することが大切である、という前提を疑って、必ずしも明確な目標や目的を持っている必要はない、というふうに話を展開してきました。しかし、私の主張も疑ってみてください。正解を教えてもらおうという心の癖は捨てましょう。正解があるかどうかもわからないのですから、皆さん一人一人が考えるしかありません。
 ただし、考える際に、注意してほしいことがあります。それは、目標や目的を自覚することが大切であると考えるか、あるいは必ずしも明確な目標や目的を持っている必要はないと考えるか、という二者択一でどちらかを選んで終わりという安易な道を選ばないでくださいということです。
 なぜ、目標や目的を自覚することが大切だと考えたのか、次に、なぜ、必ずしも明確な目標や目的を持っている必要はないと考えたのか、この二つのなぜという問いのどちらにも答えることのできる答えを見つけてください。前提を疑い、二者択一を疑ったうえで、自ら問いを設定し、自ら答えを提案できる人になってください。

 

 

 「目標や目的を自覚することが大切である」と話した後、それをひっくり返して「必ずしも明確な目標や目的を持っている必要はない」とし、さらにひっくり返して「目標や目的を自覚することが大切であると考えるか、あるいは必ずしも明確な目標や目的を持っている必要はないと考えるか、という二者択一を疑え」と展開した。
 全力を尽くして目標を追う情熱と、自分の定めた目標を疑う冷静さを身につけるために、二者択一を疑う方法を生徒たちに示した。
 教訓とは、いつも一面的な物言いである。どの教訓をどの場面で用いるかは、自分で判断しなければならない。
 柔軟な判断力と根本から疑う姿勢を持たなければ、どんな教訓も役に立たない。ときに教訓は人を振り回し、縛り、蟻地獄へ引きずり込む。心してつき合う必要がある。


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