環境法令ウオッチング

2006年7月から2007年12月までの環境法令情報・行政情報・判例情報を掲載。

公害問題における不法行為の時効・除斥期間 ①終わらぬ水俣病問題 法は思いを超えるか

2006-11-27 08:15:24 | 健康被害
2006年11月27日 
 混乱が続く水俣病訴訟をめぐり、週末、次のようなニュースがありました。本日から数回にわたり公害問題における不法行為の時効・除斥期間について考察していきます。

1.民法における不法行為の時効・除斥期間
『熊本、鹿児島両県の水俣病認定申請者1,000人以上が原告となり国と熊本県、原因企業チッソに損害賠償を求めている訴訟で、チッソが「既に時効が成立している」と主張する準備書面を提出していることが24日、分かった。水俣病に関する損害賠償請求訴訟で国、県は時効を主張してきたが、チッソは1973(昭和48)年に敗訴した一次訴訟で時効論が却下されて以来、取り下げていた。原告弁護団は「水俣病の被害は長期にわたり今も継続しているのに、時間経過を理由に賠償責任を逃れようとする姿勢は許されない」と反発している。
 準備書面は、①原告の多くは1995年の政治決着前から感覚障害を自覚しており、症状を知ってから消滅時効期間の3年以上を経過している、②原告の症状が、提訴から20年前の1985年10月3日以前に発生していた場合、損害賠償請求権がなくなる除斥期間が経過している、と主張している。
 その上で、仮に加害行為と損害との因果関係など損害賠償請求権の要件が認められた場合でも、「消滅時効の完成と除斥期間の経過により、請求権は消滅している」と指摘。「和解の余地はない」と争う姿勢を明確にしている(熊本日日新聞 2006年11月25日朝刊 久間孝志)』

 民法第724条では、『不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為のときから20年を経過したときも、同様とする』としており、今回の準備書面による主張は、この点を争点としたものであるといえます。
 時効については、熊本水俣病第一次訴訟判決において、「原告らが認定を受けてから3年以上経過している」とするチッソ側の主張を、「損害は継続的に発生しており、消滅時効が進行するという解釈は到底とり得ない」として退けたうえで確定(一方、国と県は東京訴訟や関西訴訟などの国賠訴訟で時効論を主張、一部が認容)している経緯があります。

2.なぜ、チッソは時効・除斥期間にこだわるのか
 上記のような司法判断があるにも関わらす、それでもなお、チッソ側が時効にこだわる背景を、熊本日日新聞の記事は次のように伝えています。

『チッソ総務人事部も「汗をかいて1万人以上と和解した事実がある。その10年後に突然、相次ぎ提訴された」と現行訴訟への戸惑いを隠さず、「最高裁判決でも除斥期間の経過が一部認められた。本来、当事者が主張しなくても裁判所が判断することだが、あえて争点として申し上げた」と説明する。
 チッソ幹部は、新たな政治決着を模索する与党関係者にも裁判での決着を望む意向を伝えており、争う姿勢を前面に打ち出しつつある(熊本日日新聞 2006年11月25日朝刊 亀井宏二)』

 チッソ側があくまで裁判での決着を望むのは、時効による明確な区切りをつけ、水俣病問題を終結させたい、との思いがあるからでしょう。事件発生から50年以上が経過し、チッソの内部にも当時の加害に直接携わった人はほとんど存在しないなかで、企業としてのリスクマネジメントを考えれば、これはこれでありうる判断であるといえます。しかし、被害者の側からすれば、チッソが存在する限り、時とともに思いが薄れることはあっても消えることはありません。その思いをどう捉え、どう行動するか、企業経営にとっては、とても難しい問題です。
 ホラー作家スティーヴン・キングの作品に『痩せゆく男』という小説があります。旺盛すぎる食欲のため、超肥満体である弁護士が、ある夜、不謹慎な運転でジプシーの老女をひき殺すという事件を起こします。ところが彼は、警察を抱き込んで、裁判では無罪を勝ち取ります。怒ったジプシーの長老は彼の頬に触れつぶやきます。「痩せてゆく・・・」と。翌日から弁護士は物凄い勢いで痩せはじめ、135Kgあった身体は骨と皮だけになってしまいます。自分に「呪い」がかけられている事に気付いた弁護士は、マフィアの助けを借りてジプシーの長老に戦いを挑みますが、自分よりも大切なものを失う結果となり、最後は自滅への道を歩んでいくことになります。
 もちろん、チッソがこの弁護士と同様であるとは言いませんが、将来に対して再び禍根を残したことも事実でしょう。この点、熊本日日新聞の記事は、『「決して水俣病の原因企業であることを否定するわけではないし、補償責任を放棄するわけでもない」と強調するチッソ。しかし原告への疑念があるとしても、実質審理の前に時間の経過を理由に責任を逃れようとする手法は、容易には理解を得られないだろう。(熊本日日新聞 2006年11月25日朝刊亀井宏二)』と結んでいます。

※明日は、これまで出された判例から、不法行為をめぐる時効・除斥期間の起算点の考え方を考察する予定です。

官報ウオッチング
〔政令〕
特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律施行令の一部を改正する政令(政令第363号/平成13年政令第396号の一部改正)
1 報告の徴収
 都道府県知事は、①第一種特定製品整備者に対しフロン類の回収の委託又は引渡しの実施の状況について、②第一種特定製品廃棄等実施者に対しフロン類の引渡しの実施の状況等について、③第一種フロン類引渡受託者に対し法第19条の3第4項に規定するフロン類の引渡しの再委託について承諾する旨を記載した書面の保存に関する事項等について、④第一種フロン類回収業者に対し新たに引取証明書の交付並びに引取証明書の写しの保存及び送付に関する事項について、報告を求めることができることとする。
2.立入検査
 都道府県知事は、①第一種特定製品整備者の事務所又は事業所に立ち入り、その整備に係る第一種特定製品及び関係帳簿書類を、②第一種特定製品廃棄等実施者の事務所又は事業所に立ち入り、その廃棄又は譲渡に係る第一種特定製品及び関係帳簿書類を、③第一種フロン類引渡受託者の事務所又は事業所に立ち入り、関係帳簿書類を、検査することができることとする。
施行日:平成19年10月1日

容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令(政令第364号)
 容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律の一部を改正する法律附則第一条第二号に掲げる規定(下記の1から4)の施行期日は、平成18年12月1日とする。
1 目的、基本方針、国及び地方公共団体の責務等に、容器包装廃棄物の排出の抑制の促進に関する事項を加える(第1条、第3条等関係)。
2 「容器包装」に、容器及び包装自体が有償であるものが含まれることが明確となるよう、定義規定を改める(第2条第1項及び第2項関係)。
3 「分別収集された容器包装廃棄物の再商品化のための円滑な引渡しその他の適正な処理に関する事項」を基本方針に定める事項に追加する(第3条第2項関係)。
4 再商品化の義務を果たさない特定事業者に対する罰則を「50万円以下の罰金」から「100万円以下の罰金」に引き上げる(第46条関係)。

容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律施行令の一部を改正する政令(政令第365号/平成7年政令第411号の一部改正)
1 プラスチック製容器包装の再商品化手法の追加
 容器リサイクル法では、燃料以外の製品への再商品化を原則としており、燃料として利用される製品については、政令で定めるものに限定している。この燃料として利用される製品に、ペットボトル以外のプラスチック製容器包装に係る分別基準適合物を圧縮又は破砕することにより均質にし、かつ、一定の形状に成形したもの(固形燃料等)を追加する。
2 事業者に対する排出の抑制を促進するための措置に関する規定
[1] 指定容器包装利用事業者の業種
 改正後の容器リサイクル法においては、容器包装の使用の合理化を行うことが特に必要な業種を政令で指定し、これに属する事業者(指定容器包装利用事業者)の容器包装廃棄物の排出抑制の促進に関する判断の基準となるべき事項を主務大臣が定めることとしている。
 この指定容器包装利用事業者の業種として、「各種商品小売業、飲食料品小売業、織物・衣服・身の回り品小売業、自動車部分品・附属品小売業、家具・じゅう器・機械器具小売業、医薬品・化粧品小売業、書籍・文房具小売業、スポーツ用品・がん具・娯楽用品・楽器小売業及びたばこ・喫煙具専門小売業」を指定する。
[2] 容器包装多量利用事業者の要件
 改正後の容器リサイクル法においては、容器包装の使用量が政令で定める要件に該当する「容器包装多量利用事業者」に対し、容器包装の使用量及び取組の実施状況に係る定期報告を義務付けることとしている。この容器包装多量利用事業者の要件として、「当該年度の前年度における容器包装の使用量が50トン以上であること」を定める。
[3] その他
 このほか、容器包装多量利用事業者に対する命令に際し主務大臣が意見を聴く審議会等、容器包装多量利用事業者に対する報告徴収事項、地方支分部局に対する権限の委任等所要の規定を整備する。
施行日:平成19年4月1日

【行政情報ウオッチング】
環境省
国立・国定公園の指定及び管理運営に関する検討会管理運営分科会(第1回)議事要旨

国土交通省
基準緩和自動車の認定要領の一部改正に係るパブリック・コメントの募集について
冬柴大臣会見要旨(平成18年11月24日河川行政についてコメントあり)


【判例情報ウオッチング】
新しい情報はありません。

ISO14001
◆「環境法令管理室」に「11月20日から11月26日までに公布された主な環境法令一覧」をアップしました/2006.11.25
◆「環境法令管理室」に「11月20日から11月26日までに発表された改正予定法令一覧」をアップしました/2006.11.25