環境法令ウオッチング

2006年7月から2007年12月までの環境法令情報・行政情報・判例情報を掲載。

国会の議論から① 石綿による健康被害の救済に関する法律の検証議論

2006-11-04 09:29:40 | 健康被害
2006年11月4日 
 第165回臨時国会が開催中です。本国会では、環境関連法令の制定・改廃は予定されておりません。衆参環境委員会では、現在、環境保全の基本施策に関する件について調査が実施されております。そこで本日から、不定期連載という形で、衆参環境委員会での議論のなかから主だったものを検討していきたいと思います。

石綿による健康被害の救済に関する法律の検証―10月27日衆議院環境委員会】
 衆議院環境委員会において、民主党の末松義規代議士が先の通常国会で制定された『石綿による健康被害の救済に関する法律』の改善すべき3点を以下の通り指摘しました。
①特別遺族弔慰金等の申請期間(3年)の周知不足及び期限延長の是非
②未申請のまま死亡した場合の救済措置の創設
③申請から認定までの標準処理期間の設定

1.特別遺族弔慰金等の申請期間(3年)の周知不足及び期限延長の是非
 特別遺族弔慰金等の申請期間に対し、若林環境大臣は、過去に制定された公害健康被害補償制度の療養費・遺族補償費、労災保険の医療費給付金・療養費、犯罪被害者給付金制度の遺族給付金の支出を引き合いに出し、『死亡したときから2年』が諸制度における一般的な仕組みになっていることに言及。そのうえで、石綿による健康被害の救済に関する法律においては、石綿健康被害の特異性にかんがみ、周知徹底を図るにしても様々な調査が必要であるとの観点から、請求期限を3年と設定したのが立法趣旨である旨、回答いたしました。
 これに対し、末松代議士は『これはもう少し年限を延ばして、5年とかそういう形にすべきではないか』と提言しています。もちろん、期限の利益は長ければ長いほど有利であることは当然ですが、相当因果関係の検証など、時間が経過すればするほど困難になっていくことも事実です。民法の不法行為による損害賠償請求権の期間が『被害者またはその法定代理人が損害及び加害者を知ったときから3年(第724条)』であるとこから判断すると、石綿による健康被害の救済に関する法律における期間延長は評価できるものであるといえます。
 一方、周知徹底について若林環境大臣は『その周知徹底が十分じゃないじゃないかというような御意見もございますでしょう。しかし、どのようなことをしてきたかということを若干申し上げますと、広報活動として、ポスターやチラシは約百万枚を医療機関や介護施設、自治体保健所、都道府県労働局等に配布をいたしました。また、新聞、テレビ、雑誌及びラジオ等も活用して、このような制度が設けられた旨を広報いたしております。さらに、尼崎とか泉南市などの重点の地域、石綿の製造、加工などに関連をいたしました、被害が予想される、既に発生しているような地域、重点地域については、その地域のリビング誌などに全五段抜きの広告を掲載したり、新聞の折り込みをしましたりということで、周知徹底に努めているところでございます。』と回答しています。
 期限の利益の前提として、周知徹底は大前提です。本問題のみならず、難解な法令を全ての国民が等しく理解していくためには、法教育の充実など、さらに上流からの施策を考慮する必要があります。この点については、政府に対していっそうの努力を期待したい点であると思います。

2.未申請のまま死亡した場合の救済措置の創設
 質問者である末松代議士は、石綿による健康被害の救済に関する法律の最大の問題点として、『法律施行後に、生きている間に手続がされないと一切の権利がなくなる、こういう構造になっております。このために、自分が例えば中皮腫とかあるいは肺がんとかかかっていることを知らずにこの申請をしなかったという人が、結局救済できない』ことを掲げ、そのための新たな措置の創設を求めました。これに対し、若林大臣は、本法のしくみとして、医療負担の給付をするということが制度の骨格になっているという生前申請を基本とした制度設計にふれたうえで、広報周知の徹底及び現場窓口における柔軟な対応を展開していること説明。これまでのところ、生前の申請ができずに判定を受ける機会を失ったというような事例はない、回答いたしました。
 石綿による健康被害の救済に関する法律においては、亡くなられた方の弔慰金も、特別葬祭料などを含めて出すよう設計されています(第19条以下)。立法趣旨とすれば、医療行為による救済が第一義であることは当然であり、さらに特別遺族弔慰金等による2重構造による救済措置が盛り込まれていることは、評価できる点であるといえます。しかし、末松代議士の指摘通り、未申請のまま死亡した場合の問題点は議論すべきであると思います。その前提としては、やはり、さきほどふれたように根本的は周知・理解が不可欠であり、この徹底がなされていれば、未申請という事態を未然に防止することも可能でしょう。

3.申請から認定までの標準処理期間の設定
 最後の争点は、認定までの期間について、行政手続法上の標準期間を設定すべきではないか、というものです。これに対し、若林大臣は、『実務を担当しております独立行政法人環境再生保全機構によりますと、幅広い救済を図るという観点から、CTの画像、病理検査結果など必要書類がそろっていない場合でも受け付けた上で、機構が個別に医療機関から必要書類を取り寄せるなど、個別の事情に応じた柔軟な対応を決めておりますので、そういう個別の患者対応ということに重点を置いておる観点から、むしろ、標準処理期間というのを決めますと、今のように、医療機関の方が十分でないまま受け付けて、それからだんだんと資料を補充していくというようなケースの場合は相当の期間がかかってくるわけでございますので、現時点で標準処理期間を定めるということは困難だというふうに現場の方の機構からは聞いております』と回答しています。迅速な対応はもちろん必要なものでありますが、健康被害の救済にあっては、適性な検査がなされなければかえって被害者の利益を失してしまう可能性もあり、慎重な議論が求められる課題であると思います。なお、若林環境大臣は、先行する労災保険(6カ月)、医療品副作用救済制度(8カ月)、犯罪被害者給付金制度(1年)、についてそれぞれ標準処理期間が決められていることに言及し、『今直ちに標準を定めるほど事例が集約されておりませんので、1カ月、2カ月という期間は設定できませんけれども、そのような委員の御意見というものをしっかり受けとめて、現場での迅速な処理のさらに一層の推進を図ってまいりたいと思います』と、今後の含みを残す回答をしています。

<参考 加藤公一代議士(民主党)の質問への上田博三環境省総合環境政策局環境保健部長の回答> 
『申請は3月20日から始まったわけですが、3月の下旬の10日間で約1,000名の方が申請されました。この申請の中で、療養中の方とそれから特別遺族弔慰金、こういう二つに分かれるわけでございますが、それぞれについて数値を申し上げます。
 3月中におきまして、療養中の方の申請は501件でございました。このうち421件については、認定等の事務処理が行われた、あるいは申請そのものが取り下げられたものがございます。残りは80件でございますが、この残っている80件の内訳ですが、現在機構の方から申請者等に不足資料の提出を依頼しているものが65件ございます。また、近日中に判定の申し出がなされるもの、これは環境省の方で処理をいたしますけれども、これは15件ということでございます。
 また一方、特別遺族弔慰金に係る請求につきましては、3月中に483件の申請がございましたが、このうち420件について、認定もしくは不認定の決定がなされ、または請求の取り下げが行われております。残りの63件でございますが、この内訳については、現在機構の方で、これは死亡診断書がなかなか、医療機関からも時間がたっていて出ないというようなこともございまして、法務局等へ個別に死亡診断書の照会を機構側から行っている、こういう手続の途中にあるものが56件、また、近日中に環境省の方に判定の申し出がなされる予定のものは7件という状況でございます。』

【官報ウオッチング】
新しい情報はありません。

【行政情報ウオッチング】
新しい情報はありません。

【判例情報ウオッチング】
新しい情報はありません。

ISO14001
◆「環境法令管理室」に「テーマ別環境法令主要改正解説」を追加しました/2006.10.28
◆「環境法令管理室」に「10月23日から10月29日までに公布された主な環境法令一覧」をアップしました/2006.10.28
◆「環境法令管理室」に「10月23日から10月29日までに発表された改正予定法令一覧」をアップしました/2006.10.28