環境法令ウオッチング

2006年7月から2007年12月までの環境法令情報・行政情報・判例情報を掲載。

感覚の衝突をどう克服するか 『環境の街作り検討会』報告書骨子案と『陰翳礼讃』

2006-11-15 07:37:28 | 環境行政一般
2006年11月15日 
 環境省は、14日、『環境の街作り検討会』の資料として、報告書骨子案を公表しました。『環境の街作り検討会』は、地球環境問題への対応・価値観の多様化に伴う社会構造の変化・国際化の進展といった国内外を取り巻く環境問題と、高度成長期に形成された第一世代の都市から環境共生型の第二世代の都市に再編していく時期に来ている「まちづくり」について、両者を複合的に捉え、①熱、②光、③かおり、④音、といった4つの視点から「まちづくり」により環境を改善するための基本的方向、具体の環境事業等について検討しよう、というものです。
 同報告書骨子案では、環境共生型の第二世代の都市に再編していくためには、①都市住民のニーズが量から質に転換していること(モノがある程度充足されている現在では、「ゆたかさ」、文化的な環境、風格や安心といった精神的要素を含んだ広い意味での生活の質の向上が求められている)、②現在の都市活動が地球温暖化をはじめとした新たなタイプの広域な環境問題の大きな原因の一つとなっている現状を受け、都市内のみならず都市外を含めた広い範囲での環境への影響に配慮することが求められていること、に注目することが必要であるとしています。そのうえで、従来のヒートアイランド・過剰照明・悪臭・騒音といった負の環境を、適温・光・かおり・音といった積極的な環境づくりへと転換していくことの重要性を示唆しています。
 公害問題のように、原因-結果、加害-被害といった相対的な関係性の構造をもつ問題の場合には、最低限の環境水準を確保するといったナショナルミニマムの保全水準を見出すことが第1義的に重要となります。一方で、同報告書骨子案が提唱する「第二世代の街作り」のように、高度化・多様化したニーズに対応する、あるいは複雑な環境問題に対応する必要がある場合には、一律の指標や水準を見出すことが難しくなります。たとえば、かおり1つとってみても、その良し悪しの感じ方は個人によって異なるため、社会的なコンセンサスを得ることは、相当困難なことのように思えます。
 負の環境を転換させ、新たな都市環境を創造しようという試みには大いに賛同できるものがありますが、いざ実行していくとなると、経済的な利害関係だけでなく感覚の衝突も生じることとなり、結構、大変なことであろうと思います。そのため、同報告書骨子案では、専門家の育成や環境教育の重視など、長期的な視点から本事業の設計が描かれています。この点が成功の鍵といえるでしょうか。

 余談ですが、同報告書骨子案を読んでいて、故・谷崎潤一郎氏の『陰翳礼讃』を思い出しました。「太陽の光線の這入りにくい座敷の外側へ、土庇を出したり縁側を附けたりして一層日光を遠のける。そして室内へは、庭からの反射が障子を通してほの明るく忍び込むやうにする。われわれの座敷の美の要素は、此の間接の鈍い光線に外ならない。」など、『陰翳礼讃』は、今でも建築家や照明関係の職業につく方で必読の書とされている人が多いと聞きます。
 『陰翳礼讃』が書かれた昭和8年頃の環境を考えてみると、冷暖房装置などはまださほど普及してなく、電気による照明は電球のみ、騒音・悪臭も社会問題とされるまでには至っていなかったと思います。現代と比べれば、だいぶ不自由な時代であったと思いますが、それでも谷崎潤一郎氏は、『陰翳礼讃』のなかでロウソクの灯火や日本家屋が生み出すそれ以前の時代の陰影などの風情を懐かしんでいます。
 もしも、谷崎潤一郎氏が『環境の街作り検討会』に参画されていたら、果たしてどのような意見をのべられたでしょうか? 想像するだけで楽しく思えてきます。しかし、詩人で明治大学教授の飯島耕一氏が東京新聞の『回流』に書かれた『明るい部屋 快適な街』(1994年3月6日)では、谷崎潤一郎氏の別の面が紹介されています。谷崎潤一郎夫人によると、『陰翳礼讃は、あくまで、あの人の夢だったんですよ』とのことで、谷崎潤一郎氏が自宅を建てる時に『陰翳礼讃』を読み込んだ建築家に対し、『これではだめだ。小説を書くには海から光が入る明るい部屋でないといけない』と、やり直しを命じたとのエピソードが紹介されています。

【官報ウオッチング】
新しい情報はありません。

【行政情報ウオッチング】
環境省
中央環境審議会 瀬戸内海部会(第5回)の開催について
中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会浄化槽専門委員会第21回会合の開催について
小笠原諸島の世界自然遺産候補地地域連絡会議等の設置について
若林環境大臣の気候変動枠組条約第12回締約国会議(COP12)及び京都議定書第2回締約国会合(COP/MOP2)の閣僚級会合への出席について
平成18年度第2回「ジフェニルアルシン酸に係る健康影響等についての臨床検討会」の開催について
クマ類出没対応マニュアル(暫定版)について

経済産業省
「製品安全対策に係る総点検結果とりまとめ」を受けた液化石油ガス保安規則の一部を改正する省令等に対する意見募集

厚生労働省
第11回石綿に係る疾病の業務上外に関する検討会議事概要
第14回石綿に係る疾病の業務上外に関する検討会開催について

東京都
水道事業 二酸化炭素排出量削減の共同研究相手を公募

【判例情報ウオッチング】
新しい情報はありません。

ISO14001
◆「環境法令管理室」に「11月6日から11月12日までに公布された主な環境法令一覧」をアップしました/2006.11.11
◆「環境法令管理室」に「11月6日から11月12日までに発表された改正予定法令一覧」をアップしました/2006.11.11