limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 19

2019年04月29日 18時13分29秒 | 日記
翌日の朝のホームルーム後、「うぬ!またしてもか!しかも、西岡を“脅迫”して引き込むとは!アイツの性根はとことん腐り切っておるらしいな!Y、どこで気付いた?」中島先生の顔が見る間に憤怒の表情に変わる。「有賀から手紙を見せられた時です。筆跡で気付きました。そこから推理を組み立てて、辿り着いた次第です!」僕はあくまでも冷静に言った。「それで、ばら撒かれた手紙はどの程度回収した?」「全部で26通です。本来、倍はあった推察しますが、当事者が処分した分は推計出来ませんので、正確な数量の把握は出来ませんでした」「西岡は誰が説得した?」「笠原と小川の両名です。“罪状は問わない”と言って聞き出しました。黒幕からの手紙もその際に押収した物です」「女子に聞かせて、しかも“罪状は問わない”との殺し文句か!Y、策を考えたのはお前だな?危ない橋を渡りおって!だが、そのお陰で事実が白日の下に曝された。3期生を利用して“撹乱”を仕掛け、その隙を縫って勢力を拡大させる戦術か。万が一の場合は、西岡が一身に背負う構図だったのだろう。どこまでも抜け目の無い策を組んだつもりが、お前に看破されるとは菊地も考えてはおらんだろう。西岡の件を知っているのは、山岡と笠原と小川にお前だけだな?」「はい、概要はまだ秘してあります。大枠を知り得ているのは、私を含む15名程に過ぎません」「相変わらず手回しがいい。水面下で動いて大半の連中は知り得ていない。そちらは及第点だな。少し待て」と言うと先生は受話器を手に内線で話始めた。「はい、ではこれから」と言って内線を切ると先生は「Y、これから校長室へ同行しろ!事の次第をお前からも聴取したいそうだ!」「えっ!しかし、授業が始まりますが・・・」と言うと「心配は無用だ。校長が自らお前を指名したんだ!他に文句は言わせん。では、これから向かうぞ!付いて来い!」どう言う風の吹き回しか?は分からないが、僕は校長室へと連行される事になった。宮澤校長の前に立つのはこれが初めてである。しかも校長室で直接の接見だ。校長が何を意図しているのか?それはどう考えても思いつかなかった。校長室へ入ると、宮沢校長はデスクの前に進み出る様に手招きをして、中島先生から事の次第を聞き始めた。時折僕が補足説明をして、大枠の説明は終わった。校長は手紙に眼を落としながら終始頷いていた。「Y君、君は今回の処分をどうすべきだと思うかね?遠慮はいらん。君が思う通りに言いたまえ」と処分の中身をいきなり問われた。腹案は考えていたが、果たして通るのか?一か八かの賭けにでるしか無かった。「では、遠慮なく言わせていただきます。菊地は“無期限の停学”に。西岡は“始末書”の提出と1週間の自宅謹慎を執行猶予で」僕は思うところを言った。「何故“執行猶予”を付ける?」校長は切り返して来る。「菊地の“思惑”を外すためです。彼女は恐らく西岡にも重い処分がなされると読んでいるはずです。そこへ接近して“徒党”を組む事を画策するでしょう。相手の意図が見え隠れする以上、そこへ乗るのは得策ではありません。それに、西岡もある意味“被害者”でもあります。情状酌量の余地は認めるべきだと私は考えます」僕は臆する事なく言い切った。「中島先生、君の意見は?」校長は先生にも意見を求めた。「私個人としては、今、Yが言った意見に賛成です。しかし、一職員としては“執行猶予”は認めるべきでは無いと考えます」先生は職員としての見解も示した。「ふむ、どちらも一理あるな。Y君、君は生まれてくるのが遅すぎた。もう10年早く生まれていれば、3期生の担任を任せられたかも知れないな。君の内申書を見た時の衝撃は今でも忘れられない。記入欄から続く事5ページ。添付文書にびっしりと君の“業績”が記載されていた。あれだけの記入は、過去にも私が知る限り例が無い。そして今日、君から直接意見を聴取して改めて思ったよ。“最高の秘書官”と言う表現に偽りはなかった。処分については職員会議にもかけなくてはならんが、大筋で君の意見を尊重しようと思う。中島先生、彼の見識は高いし間違ってはおらんな。だから、今回の件も看破したのだろう。唯一残念なのは“生徒”である事だ。私の秘書官にしたいくらいだよ。Y君、中島先生とクラス並びに2期生を頼む。2期生が礎を更に確かなものに出来るように努力しなさい!」「はい!確かにお引き受けしました!」僕は深々と礼をした。「下がって宜しい。これを教科担任に渡しなさい。授業に遅れても咎めは受けなくて済む」校長は“遅延理由書”と書かれた紙を手渡してくれた。「失礼しました!」と言って校長室を出るとドッと疲れが襲い掛かって来た。中島先生と校長はまだ何かを協議している様だった。僕はとにかく教室へと戻った。授業には半分遅れでの到着となったが、先生からの咎めは無かった。

1時間目の授業は半ば分からずに終わった。「さち、悪いけどいの授業のノート写させて!」「それはいいけど、Y、授業さぼって何処に行ってたのよ?」と聞かれる。「後で説明するよ。とにかく何をやったのか全く分からない。写しておかなくては差し障りがデカイ」僕は必死にノートを写しにかかった。「参謀長、忙しいのは分かるが、首尾はどうだったのだ?」長官と千里と千秋が押し掛けて来る。「職員会議の結果待ちですよ。こちらの思惑は伝えてありますから、校長が乗るか否かですね」と顔を上げずに言う。こっちはそれどころでは無かった。「まさかとは思うが、校長と“直接交渉”に及んだと言うのか?」長官が期待を込めて言って来る。「ええ、やるだけはやって来ました。腹の内は読めませんが、恐らく悪い方向には行かないでしょう」「だとすると、昼若しくは放課後には結果が出るのだな?“執行猶予”の有無は?」尚も長官は切り込んで来る。「長官、気になるのは分かりますが、ノートを取らせて下さい!こっちも大事なんですよ!」僕は憤然と言い返した。「ああ、済まない。どうしても結果が気になって仕方が無いのだ。千里も千秋も同じだ。後1つだけ答えてくれ。“執行猶予”の件は提起したのか?」「無論、言ってありますよ!すみませんがノートを取らせて下さい!」僕は3人を追い出しにかかる。「長官、お邪魔するは止めましょう。参謀長の学ぶ権利を奪う事は出来ないでしょう?」千里が僕の剣幕を見て引きにかかる。「大変済まぬが、もう1つだけ答えてくれ。黒幕の処分はどう進言した?」長官は尚も粘ろうとする。「長官!ノートを取らせて下さい!!僕にも学習する権利はあるはずですよね?!」さすがに僕も切れた。「長官!もういいでしょう?最善の策は取ってくれたんです。ひとまず引き上げましょうよ。参謀長だって学生なんですから」と千秋が粘る長官を連行して行った。「やれやれ、こっちにだって授業を受ける権利はあるんだ!あれやこれやとほじくり返すのは後にしろってんだ!」僕はむかっ腹を立てていた。「あれは無いでしょ?!如何に気になるからって言っても学習の邪魔をするのは“本分を忘れた”としか思えないわ!」と堀ちゃんも憤然として言う。「Y、落ち着け。次は地理の時間。遅れを取り返す余裕はある!」さちがみんなのノートを差し出しながら言う。「ありがとう。ならば、最初から順を追って見返すとするか!」さちの言葉でようやく僕は我に返れた。

昼休みに入ると、僕は弁当箱を持って生物準備室へ逃げ込んだ。「Y君どうしたのよ?」明美先生が何事かと聞いて来る。「煩い連中にたかられてましてね。緊急避難ってとこですよ」思わずボヤキが口を突いて出る。「山岡と笠原と小川か?確かに煩い連中だな。Y、校長が押し切ったぞ!公式発表は明日になるが、大筋でお前の言い分が通った。“執行猶予”も含めてな!校長は“生徒にして置くのが実に惜しい”と言っておった。安心しろ!後始末は我々の領域だ。お前達も個々に始末にかかればいい!」中島先生が緊急職員会議の内容を話してくれた。「そうですか。まさか僕の言い分が通るとは意外です」「意外では無いぞ!妥当な線だ。西岡を救済する手はワシも思案していた。処分は免れんが“執行猶予”を付けて反省を促すとは“傷を付けずに矛を収めさせる”には最善の策だろう。お前の真骨頂が実を結んだ訳だからな。ワシも面目を保てたし、西岡も後ろ暗い事を気にせずに済む。Y、西岡の今後の身の振り方を頼んだぞ!既に策は浮かんでいるはずだろう?」「はい、大きな手術にはなりますが、傷を残さずに片付けるつもりです」僕はある程度の目算を立てていた。ドアがノックされ長官が押し掛けて来た。「山岡、ノーコメントだ!明日の公式発表を待て!」先生が釘を刺す。「そこを何とかしていただけませんか?クラスにとっても一大事。今後の策も勘案せねばなりません!」長官は粘り出した。「これは、校長の判断だ。Yも本件の処分決定の関係者であるから“箝口令”を申し渡してある。済まんが明日まで待ってくれ」と言われて長官は肩を落とした。「参謀長、どうしてもダメなのか?」「校長の命ですからね。違背は許されません。明日まで待って下さい」僕は諭す様に返した。「具体的な事が分からねば今後の道筋も付けられん。頼む!口外は控えるから少しだけ聞かせてくれぬか?」「山岡、ノーコメントだ!泣き落としには乗らんぞ!」先生が追い打ちを掛ける。「事は校長の手の内に乗った。お前達の手の内には既にない。1つだけ言って置くが、お前達なりに始末にかかれ!3期生との融和の促進。2期生内の動揺の終息。これだけでも結構な仕事だ。今から至急手を回せ。菊地と西岡の件は、明日になれば公表するし、見解も示す。その前にすべき仕事にかかれ!」長官の表情が少し変わった。「分かりました。そちらはお任せ下さい。参謀長、明日は“事情聴取”に応じてくれよ!」と言うと長官は引き上げた。「確かに煩いな。アイツらを巻くのは容易ではない」先生もゲンナリとしていた。僕はアールグレーを飲み干した。

翌朝、昇降口近くの掲示板に、予告通り関係者の処分内容と学校側の“見解”が貼りだされていた。
“1年6組 菊地美夏。右の者、無期限の停学処分を科す。”“5月より復学予定であったが、学生の本分を見失い過ちを繰り返したため、再度の無期限停学処分を科すものである。学生の本分は勉学に励み、友情と団結を育み、有意義な学生生活を送る事にある。右の物は、これら全てに違背したため今回の処分を科すものである。学校長 宮沢〇〇”
西岡さんの件は、貼り出されていなかった。どうやら、本人に直接通知して公にはせず、反省を促し後顧の憂いを拡散させない判断らしかった。「Y、また“無期限停学”だけどさ、どうして“退学”にしないのよ?」道子が聞いて来た。「“退学”にしない理由か?“学籍”を残すためさ。迂闊に“退学”にでもすれば、街宣活動に手を染めかねないし、こちらから文句も言えなくなる。その点、“無期限停学”なら籍は残っているから、学校側としても文句も言えるし活動を制限する事も出来る。前にも言ったけど“無期限”だから下手な話5年でも10年でも“停学”のまま。自分から言い出さない限りは、“退学”にせずに閉じ込める。真綿で首を絞める様にジワジワと効いて来るから、返ってダメージは大きくなる」「そう言う話か。3期生としての“復学”の芽も消えたのかな?」「多分、そうだろうな。今度ばかりは“付け焼刃”で誤魔化せないし、何を言っても学校側が折れる要素は無くなった。4期生としての“復学”の芽も消えただろうよ」「参謀長、西岡さんの件はどうなったのだ?!何も公表されておらん!約定を違えるつもりか!」長官が憤怒の表情を露わにしていた。「公にしない理由を考えて下さい!何のための“執行猶予”です?ここで公にすれば、彼女は常に後ろ暗い生活を送るハメになるじゃありませんか!校長の配慮ですよ。“反省を促して今後の学生生活に影響が及ばぬ様に配慮する”彼女もある意味に措いては“犠牲者”なんですから、傷口に塩を塗り込む様な真似をするはずがありません!」「うぬ、そこまで読んでの判断か!昨日、校長とやり取りしたのはそれか?」「2人の処分内容を直接問われましたよ。菊地はご覧通り“無期限停学”ですが、西岡さんについては、“始末書の提出と執行猶予付きの1~2週間の自宅謹慎”と答えてあります。大筋で校長も合意しましたから、西岡さんについては担任からの通知に留める方向でしょう。そうしないと、残りの時間を全て失いかねませんから」「うむ、上出来だ!これで後顧の憂いは無くなったな。菊地が戻る道は崩落したも同然。我々が去っても彼女は影響力を行使できないばかりか閉門同然の身だ。我々は安心して元の生活に戻れる。参謀長、ご苦労だったな。校長とのやり取りは厳しかったろう?だが、何とか乗り切った。K査問委員会でもいい報告が上げられそうだ!」長官が握手を求めた。僕等は固く手を握り合った。「長官、今後の方策ですが、旧菊地グループに対する風当たりを弱めるためにも、“完全解体”を進めなくてなりません。特に西岡さんをどう遇するか?目下の課題はそこにありませんか?」「それが最も頭の痛いところじゃ。参謀長、腹案は?」「西岡さんは今井さんのグループに転属させましょう。他の人員もバラバラにして所属先を変えて分散させれば、目立たなくなりますし、風当たりも弱まると思いますが、大手術になるのが課題です。誰に“執刀”させます?」「この手の手術の執刀医は千秋しかおらん。確かに難しい術だが、成功すれば我々は更に揺るがぬ体制を手に出来る。参謀長が西岡さんを引き取ってくれるなら、千秋も存分に腕を振るえるだろう。方向性はその線で決まりだな。西岡さんの任務は“K情報”だろう?」「ええ、対外的な総合情報担当として任に当たらせるつもりです。特に左側、原田の懐を探るには格好の人材かと」「他の旧メンバーにもその任に付かせようじゃないか!我々の最も弱い部分を補強しつつ体制を改めるにはそれしかない」「では、本件もK査問委員会に提案しますよ。今日は忙しくなりそうですね!」「嵐は過ぎ去った。後片づけも容易ではないが、今まで以上に我々も強くなるだろう」こうして、年初の大問題は幕を閉じた。菊地嬢は“閉門同然”となり、完全に封じ込められたのだ。

それから2週間後、久しぶりに“大根坂”の登頂に成功した僕は、昇降口の水道で顔を洗い直していた。「今年度の初登頂に成功か。まずは幸先がいい」と息を整えるべく座り込んだ。「Y-、ご苦労、そしておはようー!」中島ちゃん達7名がやって来た。「参謀長、ポカリです」石川がボトルを差し出す。「済まん。どうやら馴染んできた様だな」他の6名がニヤける。石川も加わった事で朝と夕方の登下校風景も変わって来た。中島ちゃんが最も変わった1人だろう。あれ程怖がっていた石川と、肩を並べて歩く姿が自然になっていた。徐々にではあるが、2人の距離は縮まりつつある。これは好ましい傾向だった。僕達2期生が年初の“大事件”をどうにか乗り切って、3期生とも徐々に交流を深める事に成功したのは、ここ1週間くらいからである。石川も中島ちゃんと堀ちゃんの“護衛”を買って出るほどだった。僕等は彼に信頼を置く様になっていた。昇降口で左右に別れると「昼までのお別れだね!」と堀ちゃんが中島ちゃんに言う。「アイツ、ちゃんとやってるのかな?」彼女は何度も東校舎を振返る。「ブルブル震えてたのはもう昔か?」と僕が問うと「うん、何か自分が恥ずかしい。アイツ、段々とYに似て来た気がする」と返して来る。「僕はまだまだ追い越された意識は無いが、いずれ彼も追いついて来るだろう。簡単には抜かされるつもりは無いけどさ」と教室の机に鞄を置くと窓辺に立つ。「そりゃそうよ。Yの境地に立つとしたら10年は早いよ!」と言うと中島ちゃんは背中から僕の胸元へ滑り込んで来る。「あー、また取られた!1分後に交代だよ!」と堀ちゃんがむくれる。さちは僕のネックレスを外すと新たなペンダントを付け加える。「あたしの鈴をこれからも増やすぞ!」と言ってネックレスを戻した。小さなペンダントは3つになった。「さち、チェーンが切れそうだよ!そろそろ買い替えなきゃならない」とぼやくと「もっとしっかりとしたヤツを買え!ダブルにすればなお宜しい」と言ってチェーンを増やせとせがむ。「絡まったら始末に負えん。太めのロングを探すのが大変だが考えて置くか?」と言うと「あたしが探して見るよ。ちょっと長さを測らせて!」と言うと雪枝が目の前にやって来る。「雪枝!今度はあたしの番だよ!早くして!」と堀ちゃんが眼を吊り上げる。「はい、はい、ちょっと待ってねー」と雪枝がネックレスを外しにかかる。「相変わらず良く続くものだわ。Yを好き放題にして遊んでられる時間がこのまま続けばいいけど」と道子が少し離れた場所から見つつ言う。「今度こそ、平和が訪れるぜ!それは間違いねぇ!」竹ちゃんが確信を込めて言う。クラスの女子の“再編手術”は千秋が大ナタを振るって断行した。今は旧菊地グループについてあれこれと言う者も居なくなった。「中島先輩!」石川が息を切らせてやって来る。「アンタどうしたのよ?」中島ちゃんが廊下に出た。2人はノートを見ながら何やら言い合っている。「Y、ちょっとお願い」僕に中島ちゃんが声をかける。堀ちゃんとくっ付いたまま廊下へ出ると「平城京と平安京の間にあった都の跡はどこだっけ?」と言うので「長岡京だよ。最も完成前に遺棄されてるが」と答えると「これより前は、藤原京ですよね?もっと前は転々と変わってますが」と石川が言うので「藤原京以前は、あっちこっちに移転ばかりだったからな。年代を追って覚えてくしか無いぞ。要所を押さえて置けばテストで失点しなくて済む」とアドバイスをしてやる。「Y、真理ちゃんが呼んでるよー!」雪枝が飛んでくる。「おー、直ぐに行く。石川、悪いが後は堀ちゃん達に聞いてくれ」と言うと教室の教壇前へ急ぐ。真理子さんからも世界史の質問が飛んで来た。西岡さんも居る。「フビライの日本遠征の第一陣は、高麗に造船を命じた船が主力ですよ。第二陣は旧南宋と高麗の部隊の混成軍。いずれも失敗してますが、フビライは後に第三陣の派遣も検討はしてますね」と説明にかかる。「Yがこう言う忙しさの中に居るとホッとする。本来はこう言う場面でこそアイツの真骨頂は出る。あたし達の役目は“Yを戦いの場へ送らない事”かもね」道子がしみじみと言う。「そうだな、この雰囲気を壊さねぇようにしなくちゃ!参謀長としての任務は“お預け”にしてやらねぇと」竹ちゃんが道子に返す。間もなくホームルームの時間だ。時がゆっくりと流れているかのようだった。

その日の放課後、僕の元へ石川が尋ねて来た。表情がキリリと引き締まっていて、重大な決意を持って来たのは間違いないと即座に察しがついた。僕はさちに声をかけて「生物準備室に居る」と告げて彼を招き入れた。「参謀長!是が非でもお願いしたい事があります!」石川が決死の形相で訴えに来た。大体の想像は察しが付いたが「どうした?」とトボケて見る。「僕は、やはり中島先輩と付き合いたいです!何卒ご許可をお願いします!」と言うと頭を下げた。「竹内と同じ事を言うな。それは、中島本人に言うべきセリフだろう?何故、私に許可を求める?」僕はトボケ続けた。「竹内先輩から聞きました。¨まず、参謀長の許可を取れ!¨と。中島先輩の¨保護者¨である参謀長の許可が無ければダメだとお聞きました。そうでなくては、¨かっさらってはならん!¨と。どうかご許可をお願いします!」「うーん、竹ちゃんも余計な事を教えるな。まず、言って置くが、当人同士が認め合うなら、私は基本的に¨干渉はしない¨し任務さえ認めるなら許可云々も無い。恋愛に関しては、私は口出ししない事にしている。中島が¨線を引いたら¨それを踏み越える真似はしないよ。だが、石川よ。中島の気持ちをどうするつもりだ?そして、お前さんの心は揺るがないのか?中島の心の内は複雑だぞ!」「それは分かっています。簡単な事では無い事も。でも、僕は中島先輩しか考えられません!共に歩んで行きたいんです!」石川の心は定まった様だった。「石川、昨年の内に彼女は¨大きく変わった¨新たに羽化した蝶の様にな。彼女のノートを見て何を感じた?」僕は相変わらずトボケまくる。「文字が変わりました。それにノートの取り方も独特に変化してます。参謀長、先輩に何があったんです?」「中島は、僕のノートを見て¨文字の書き方¨を大きく変えた。今では¨自己のスタイル¨を確立した。取り方はみんなのやり方を参考に変化させた。約10ヶ月かけて地道な努力を積み重ねたのだよ。外見は変わらないが、内面は180度の大転換を成し遂げた。昔の中島はもう居ないのだ。彼女は言っていた。¨あたしと石川では釣り合わない¨とな。クラスの中にも3期生全体からも¨声がかかる¨程の眉目秀麗なお前さんが何故彼女を選んだ?」僕は逆に聞き返した。「先輩はシャイで人見知りもありますが、誰より負けない¨努力¨を積み重ねて居ました。“努力は人を裏切らない”。僕が常々中島先輩から言われた言葉です。どんな逆境にあっても常に前を見て、人一倍の努力を積み重ねる。そんな人柄に僕は惹かれました。外見は関係ありません!要は“人として尊敬できるか”じゃありませんか?参謀長もそうですよね?先の“事件”での筆跡鑑定の結果を“何の迷いもなく中島先輩に任せて、結果についても一切疑いを持たなかった”。中島先輩を心から信頼している何よりの証拠ですよね?」と石川は切り返して来た。やはり、タダ者では無い。「そうだ。あらゆる文字や下足跡(ゲソこん)の鑑定に措いて、彼女の右に出る者は居ない。だから、私も全幅の信頼を置いている。お前さんの言う通り、彼女の努力が結実した結果“誰も届かない境地”に立ったのだ。中島は自らの居場所を見いだし、生きがいを得たのだよ。外見は関係無い。心から信頼が置けるか?人としての思いやりがあるか?それを私も判断基準としている。そして、石川、お前さんもそうだが“心から信を置けるか?”“思いやりの心はあるか?”の判断基準は満たしておる。まだ、成長の余地はあるが、中島を思う気持ちに揺るぎは無いだろう?どんなに見た目が綺麗でも“中身が無ければただの飾り”にしかならない。中島を選んだお前さんなら、これ以上話さなくても分かるだろう?ただ、本人の意思を尊重する事だけは忘れんでくれ!」僕は“許可する”とは敢えて言わなかった。石川の気持ちに揺らぎが無いならば、僕は干渉するのは避けたかったし、中島ちゃんの“意向”を尊重したかった。多分、返事は決まっているはず。それならば、当人達に委ねるのが筋だった。「では、参謀長、僕は中島先輩に聞きに行きます!ただし、先輩の意思は尊重します。宜しいですか?」「宜しいも何も、本人から聞け!まずはお前さんの正直な気持ちをぶつけてな!」僕は石川の背を思いっ切り叩いた。“行け!男らしく颯爽と!”眼で合図すると、石川は軽く頷いて部屋を出て行った。しばらくの沈黙の後に「やれやれ、手のかかる連中だ」と呟きながら部屋を出ようとすると、中島ちゃんが飛び込んで来た。顔が赤らんでいる。「Y-、どうしよう。石川が、あたしと付き合いたいって言うのよ。どうすればいい?」道子の時と全く同じだった。「それで、中島ちゃんとしては、どうしたい訳かな?」僕は優しく聞き返した。「石川は、眉目秀麗で人気のある子よ。彼にはもっと相応しい相手が居ると思うのよ。だから・・・」「まさか“あたしとは釣り合わない”って言うのかな?」僕がセリフを引き取ると黙して彼女は頷いた。「アイツには別の“中島好美”が見えてるんだろうな。さっきアイツ何て言ったと思う?“外見ではなく心だ”って言ったよ。人を見る目は間違ってない。中島ちゃんはどう思う?」「あたし怖いの。石川と肩を並べて歩くのが。だから・・・、」と言うと彼女は後ろ向きになって僕の胸元へ潜り込んだ。「Y、助けて!あたしはYにだけ甘えて居たいの!他は嫌なの!」彼女は震えながら訴えて来た。

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