limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

ミスター DB 57

2018年10月17日 11時15分06秒 | 日記
迫りくる黒塗りのセダン。「誰が乗っているんだ?」ミスターJは不審そうに言う。やがて車は、ミスターJ達の車列の前に停まった。左後席のドアが開いて紳士が1人降り立った。「Y副社長!」ミスターJは慌てて車を降りようとするが、Y副社長は目と手で制した。「ミスターJ、まずはお礼を申し上げる。今日の日を迎えられたのは、君達のお陰に他ならない」Y副社長は感謝を込めて頭を下げた。「私共は“当然の事”をしたまでです」ミスターJも頭を下げた。「その“当然の事”に命懸けで立ち向かってくれた諸君が居るからこそ、私達も安心していられるのだ。今日は“忍び”でKとDBの末路を確かめに来た。ヤツらはZ病院内かね?」「はい!先程、乗り付けました。間もなく玄関に現れるかと」ミスターJは、F坊とリーダーに双眼鏡で監視する様に目で合図する。「抜かりは無い様だね。最後の仕上げにかかっているのだな。私は、玄関先へ移動して見届ける。では、宜しく頼む」Y副社長は、車に乗り込むとZ病院内へ進んだ。玄関に近い位置に車を着けると、捜査官らしき男が駆け寄って行く。暫くすると捜査官は車から離れて見えなくなった。「交渉成立か」ミスターJは小声で呟いた。「KとDBが来ました!何やら重たい荷物を抱えています」リーダーが報告する。「ZZZ入りの清涼飲料水だ。あれを県警の手に渡すのが、Aの役割だ。その後、彼女も脱出する手筈になっている。リーダー、後続の機動部隊の車両は?」「間もなく到着の予定です」「よし、暫くは静観しよう」ミスターJはシートの背もたれに深々と寄り掛かった。もう、待つだけだった。

KとDBは、Z病院の平面駐車場に乗り入れると、玄関に近い場所を選んで車を停めた。「さあ、着いた。DBトランクから“見舞い品”を出してくれ」Kはトランクを開けると車から降りて周囲を素早く伺う。不審な車や人影は見えない。「K、これなら担いで行けそうだ」DBがトランクを閉めながら言う。「鍵はかけないで行こう。万が一にも逃げる際に素早く乗り込めるようにな!」Kは用心を怠らない。「だが、ざっと見た感じでは誰も不審な者は居ない」DBは荷物を担ぎながら再度周囲を見渡すが、異変には気付きもしなかった。駐車場のそこかしこの車の中には、10名の捜査官が息を潜めてKとDBをずっと凝視しているのを!「さて、時刻も丁度いい。病棟へ向かうぞ!」Kは、DBを促すと玄関の方向へ歩き出した。2匹は執拗に周囲を確認するが、捜査官と鑑識は巧みに隠れて動きを凝視していた。2匹は何も気づかずにZ病院内へ消えた。向かう先は6階の閉鎖病棟だ。ロビーを突っ切り、一路エレベーターを目指す。院内に潜んでいた捜査官達も動き出す。2名は階段を登って6階を目指し、4名は他のエレベーターで6階を目指した。4名はエレベーターホールの物陰に潜み、一課長にメールを打った。“KとDB、6階へ向かう”と。N坊もKとDBの動きを確認すると、リモコンを操作した。“ピッ”と音を立てて、車のECUが切換えられた。そして、大胆にも物陰に潜んでいる捜査官の目の前に、ボストンバックを放り投げる。「何だ?これは?」捜査官がバックを開けると1枚のメモが入っていた。“KとDBの遺失物”と書かれていた。首を捻る捜査官を尻目に「よし!脱出だ!」N坊は救急口からZ病院を抜け出した。

“KとDB、6階へ向かう”とのメールを受け取った捜査一課長は、駐車場に潜んでいた捜査官達を呼び出した。「いいか、間もなく“証拠”が降りて来る。鑑識は北側の職員出入口付近で待機!他の者は、この正面玄関を固めろ!病院外へ出たら速、確保だ!W警部、鑑識に同行して“薬物反応”の有無を確認しろ!」「はい!」その時、一課長の携帯が震えた。「俺だ。何!みなとみらい地区の異臭事件の犯人は、KとDBだと?!防犯カメラの映像から確認したんだな?!そちらは、まだケリは付かないのか?ああ、そうだ。昨日、異臭事件があったコンビニ2件にも鑑識を差し向けろ!KとDBの犯行の疑いが濃い。手薄なのは分かっているが、出来るだけ証拠を集めるんだ!急げ!」一課長の表情が険しさを増した。そこへ院内に潜んでいた捜査官がボストンバックを手に現れた。一課長にメモが手渡された。「“KとDBの遺失物”だと?!」中身は首輪、リード、粘着テープ、鎖、ロープ・・・。「これは、捕縛の為の道具だな!誰が持ってきた?」「それが、誰かは見ていないんです」一課長には、閃くモノがあった。「“陰の軍団”か!何処までも援護するらしいな。よし!押収して置け」一課長はZ病院の周囲を見渡したが、不審な人影や車は見えなかった。「彼らは何処かで見守っているのか、こうしている今もKとDBの犯行を追っていると見える。銀座の事件と同じだ!」一課長はそう呟くと、“其の疾きこと風の如く・其の徐かなること林の如く”と心の中で復唱していた。「孫氏の兵法を知り操る者とは、何者なんだ?」

KとDBは、病棟の6階を目指して、エレベーターに乗った。¨見舞い品¨が重いので、交互に交代で持ち込んだ。「いよいよ、あの¨憎らしい小僧¨と最期の対面になる。DB、我が手で¨修行¨へ送り込めない無念さは分かるが、コイツで確実に始末出来る。感情的になるなよ!」「ああ、分かってる。見てろ¨ハリウッド¨並みの名演で、お涙を頂戴してみせる!」DBは、自信たっぷりに言い切った。「運命のカウントダウンだ!Yが失脚するのも時間の問題さ!」2匹は、6階へ降り立った。行く手を阻む3重のドアの前のインターフォンの呼び出しボタンをDBがプッシュした。「はい」若い看護師が答えた。「○△*□○の父と叔父ですが、A看護師さんをお願いします」DBが哀れっぽい声で言う。「○△*□○様のお父様と叔父様。只今、ロックを解除いたしますので、暫くお待ち下さい」若い看護士がそう言うと、¨カチャリ¨と音がして、左右にドアがスライドした。KとDBは、予定通り第一関門をクリアした。左手のドアからA看護士が早速迎えに出てきた。「○△*□○様のお父様と叔父様、お待ちしておりました。看護士のAでございます。先日は、失礼を致しまして申し訳ございませんでした。本日は、主治医の許可も得てございます。一昨日にご説明しました様に、¨接見室¨でのご面会となりますが、宜しくお願い致します」と深々と頭を下げる。「此方こそ、息子がお世話になりっぱなしで、申し訳ありません。まずは、これを預かって頂けますかな?」DBは担いで来た¨清涼飲料水¨をミセスAに差し出す。「こちらは?」「息子が欠かさず飲んでいた、¨清涼飲料水¨です。少しでも元気付けられればと思いまして、取り寄せた品です」DBは役に成りきって答えた。「故郷のお水ですか?それなら喜ばれると思いますよ!お預かりしましょう。すみません、台車を用意してまいります」ミセスAは台車を回すと、ペットボトルを受け取った。証拠品は直ぐ様、鑑識が押収する手筈になっていた。若い看護士が台車を病棟内へ持ち込むと、待機していた鑑識課員が¨非常用エレベーター¨の前に台車を移動させて、簡易検査キットで検査を開始した。ミセスAは、KとDBを¨第二接見室¨へ通した。「こちらでお待ち下さい。接見時間は15分です。申し訳ありませんが、この部屋のドアは内側からは開かない仕組みになっております。接見が終わりましたら、お手元の黄色のボタンを押して下さい。看護士がお迎えに参ります。私は、別の患者様のお世話に行きますので、これで失礼をしますが、優しくお声をかけてあげて下さい」「はい、そのつもりです」DBは柄にもなく下手に言う。「では、お待ち下さい」そう言うとミセスAは¨接見室¨のドアを密閉した。KとDBは¨彼¨を待った。「憎たらしい小僧のツラを拝むのも、これが最後だ」Kが小声で言う。「K、滅多な事を喋るな!聴かれたら最後だ!」DBがたしなめる。その時、病棟側から車椅子が入って来た。「父さん・・・」感激の対面式が始まった。

ミセスAは、¨接見室¨に2匹を押し込むと、素早く着替えにかかった。KとDBが対面式をしている間を縫って、彼女も鑑識課員と脱出する手筈になっていたからだ。「母さん、後ろのホックがハズレてますよ!」息子がホックを止めた。「貴方、大丈夫なの?¨接見室¨の細工は?」ミセスAは不安そうに聞く。「心配ご無用!¨彼¨そっくりの役者が演じてますから。我が友の実力は折り紙付きですよ。それより、早く下へ降りないと間に合いませんよ!」「そうね。じゃあまたね。父さんに宜しく」「ああ、母さんも無理しないで!」母子は非常用エレベーターで別れた。「鑑識さん、これを課長さんへ渡して下さい」ミセスAは、今朝リーダーから預かっていた封筒を差し出す。「何ですか?これは?」鑑識課員は怪訝そうな顔で受け取る。「“聞けば分かる”そう言って渡せば分かるわ!それより、もう直ぐ1階よ。職員出入口から貴方達は外へ出て!」“ゴツン”振動と音を立てて非常用エレベーターは1階へ着いた。ミセスAは鑑識課員達を職員出入口に誘導すると、守衛に「警察の方よ出口を開けて」と言った。守衛は鑑識課員達を外へ導いた。W警部と鑑識課本隊が出迎える。「簡易検査の結果は?!」「陽性反応が出ました!」「これで疑いの余地は無くなった!全員正面玄関へ戻れ!」W警部と鑑識課本隊が移動を開始するのを見届けると、ミセスAは、救急口へ向かった。「後は、捕まるだけね。ミスターJと合流しなきゃ」彼女は速足で院外へ逃れ、ミスターJの待つ車へ急いだ。

感激の対面は無事に終わった。Kが黄色いボタンを押すと、外から“接見室”のドアが開けられた。「如何でしたか?」若い看護師が聞く。DBは“本物の涙”を拭きながら「哀れな息子よ・・・」と肩を落とした。Kも目が真っ赤だった。「ご安心ください。私達が必ず元気を取り戻させます。気を落とさずにまたお出でになって下さい」とKとDBを慰めた。2匹は丁寧に頭を下げると、三重のドアを潜りエレベーターホールへ向かった。トイレと階段に潜んでいる捜査官達は息を殺して、エレベーターの到着を待った。2匹がエレベーターへ消えると4名の捜査官は2台目のエレベーターで2匹を追い、2名は階段を駆け下りた。エレベーター内では2匹の高笑いが炸裂していた。「DB!“本物の涙”まで流すとは、恐れ入ったよ!ははははははは!!」Kは腹筋が痛くなるまで笑った。「俺の演技を見たか!K!最高だったろう!ははははははは!!」DBは涙を拭って笑い転げる。エレベーターが1階へ着いた。「DB!正気に戻れ!成田に着いたら祝杯を挙げよう。今は落ち着いて出るのが肝心だ!」Kが笑いを堪えて言った。エレベーターのドアが開くと、2匹は足取りも軽く院内を進んだ。微かに笑みを浮かべてはいたが、その背後には既に厳重な網が張られていた。

N坊に続いてミセスAも脱出に成功し、ミスターJと合流していた。「A、首尾はどうだった?」「上々よ!簡易検査でも陽性反応が出たわ。KとDBもオシマイだわ」ミセスAの報告にミスターJは頷いた。「さて、警察の捕り物を確認するとするか」ミスターJ達は双眼鏡を手に、少し場所を移動してZ病院の正面玄関が遠望できるポイントへ向かった。フィナーレを飾る“大捕り物”は間もなく始まろうとしていた。

KとDBは、正面玄関から外へ出ようとしていた。だが、そこには大勢の男達が待ち受けていた。振り返ると、後方にも男達が網を絞る様に迫っていた。「K!DB!¨麻薬取締法違反¨及び¨殺人未遂¨の容疑で逮捕する!神妙に縛に付け!」捜査一課長が大声で罪状を告げた。「何を寝ぼけた事を抜かすか!?証拠があるのかな?我々は見舞いに来ただけだ。道をあけたまえ!」Kはとぼけに走る。「今、証拠と言ったな!身に覚えがあるのだろう!これを見るがいい!」一課長は、¨清涼飲料水¨のボトルを突き出した。KとDBの顔色が変わった。「よく見るがいい!この水に試薬を入れると、どうなるかを!」鑑識が簡易検査キットを使うと、無色透明だった水は見る見る内に、変色し青く染まった。薬物の陽性反応が出たのだ。「これでも、まだシラを切るつもりか?!お前達の犯行は全て分かっている!観念して投降しろ!」一課長に証拠を突き付けられた2匹は「クソ!」と言うと背中合わせになり、戦闘体制を取った。「強行突破だ!DB行くぞ!」「分かったK!さあ、最初に餌食になるのは誰だ?!」殺気立った空気が漂う中、2匹はジワジワと玄関から駐車場方向へ移動する。「かかれ!」一課長が叫ぶと30名対2匹の決死の闘いの火蓋が切られた。四方八方から襲いかかる捜査員達に対して、2匹は以外にも善戦を繰り広げた。殴られ足をすくわれ、捜査員達はアスファルトに叩き付けられる。親父パワー全開に対して、捜査員達は遠巻きに囲うしか無かった。だが、多勢に無勢である。突撃した捜査員の下から別の捜査員がタックルで下半身を狙うと、2匹の動きは封じ込められ、遂にアスファルトに顔を擦り付けられた。腕を返され手錠がかけられた。「午後3時55分、逮捕!」時間を取られた2匹は、抵抗虚しく逮捕されたのだ。「連行しろ!」一課長が命ずる。2匹は最期の抵抗を見せようと暴れたが、捜査員達に抑え込まれ、護送車へ押し込まれた。Z病院の玄関先には、捜査車両が回送されて来た。「W警部、俺は直ちに相模原の現場へ向かう。KとDBを県警本部へ連行して、直ちに取り調べにかかってくれ!」「了解しました!」捜査一課長は、足早にZ病院から相模原に向かった。「さあ、撤収だ!県警本部へもどるぞ!」W警部は、一課長に代わり指揮を執り始めた。その時「Wよ!」と背後から呼ばれた。「Y先輩!いらしておられましたか」黒塗りのセダンの後席の窓が半分空いていた。「ご苦労だった。無事に2人を逮捕出来た。私も安堵したよ」Y副社長は微かに微笑みを浮かべていた。「これからは、我々の領域です。先輩、後は任せて下さい!」「うむ、頼んだぞW警部!」そう言い残すと、黒塗りのセダンは走り出した。

「ほう、意外に善戦しておるな。まだ力は衰えておらん様だ」ミスターJは微笑みながら言った。「でも、多勢に無勢。時間の問題ですよ」リーダーが返した。やがて2匹の腕に手錠がかけられた。KとDBは無事に逮捕され、護送車に押し込まれた。「ふー、今回の作戦は無事に終結した。リーダー、機動部隊と遊撃隊に帰還命令を出せ!作戦は成功裏に終わったと伝えてくれ」ミスターJは双眼鏡を降ろすと、車両の方へ戻った。Z病院から黒塗りのセダンが出て来た。右後席から高々と腕が掲げられている。Y副社長が「感謝する」と叫んで走り去っていった。「ミスターJ、ヤツらはどれ位“臭いメシ”を喰らうんです?」F坊が聞く。「Kは、20年は娑婆に出られまい。DBは、不起訴になるだろう」「えっ!DBは何の罪にも問われないんですか?」N坊が愕然と言う。「刑事罰はな。だが、DBには、Y副社長からの“海外リゾート”への招待が待っている。日本の土を踏めるのは何時になるか分からんよ」ミスターJは静かに答えた。「“海外リゾート”なんて贅沢なモノに招待とは、DBには甘すぎです!」N坊は地団駄を踏んでいる。「DBに甘い贅沢などあるものか!実質的には海外に幽閉されるんだ。下手をすれば太陽の下にすら出る事はない!刑務所より過酷な現実が待って居る」ミスターJはN坊をなだめる様に言う。「さて、俺は“寄り道”へ行かせてもらいますよ。横須賀までぶっ飛びだ!」“スナイパー”が別れにやって来た。「真っ直ぐ帰らないのか?」F坊が聞く。「ああ、海兵隊の同期が横須賀基地に来日している。今晩、基地で一杯やる約束なんだ」「男同士で一杯かい?」N坊がちゃかすと「いーや、飛び切りの美人だ。だが、バズーカを平気でぶっ放す“猛者”だけどな!」「女コマンドか?!撃たれるなよ!」F坊もちゃかす。「じゃあ、また打ち上げでな」“スナイパー”は鼻歌を歌いながら車に乗り込み、エンジンを咆哮させると横須賀へ向かった。「さあ、我々も帰ろう!作戦は終わった」ミスターJ達は車に乗り込んだ。リーダーとミスターJを乗せた車を先頭にミセスAとN坊とF坊を乗せた車が続く。ミセスAは2人に祝福の口付けの雨を降らせていた。「さあ、帰りましょう!今夜はご馳走よ!」彼女は張り切っていた。「やり遂げた。これで“彼”に害を成す者達は2度と現れんだろう」ミスターJは静かに呟いた。

県警本部に連行されたKとDBは、厳しい取り調べを受けた。Kは不思議でたまらなかった。“何故だ!何故こんな事になったのだ?”黙秘を続けながらヤツは必死になって考えた。計画が漏洩する事は無いはずだった。“Xが裏切ったのか?いや、それは無い。では、誰が嗅ぎ付けたのだ?”目の前に示される証拠は、自身が消したはずのモノばかりだった。“誰が俺のパソコンを盗み出したのだ?第一、初期化して消したはずだぞ!”Kは内心驚きを隠せなかった。次から次へと“消したデーター”が広げられ、厳しい尋問が続く。“警察は完全に俺の尻尾を掴んでいる。何故だ?!”Kは自問自答をしながら黙秘し続けた。そして閃いた。“まさか、Yの陰が動いていたのか?!そうでなくては説明がつかない!しまった!Yにまたしても貶められるとは!!何たる不覚・・・”Kは臍を噛んだが、後の祭りだった。「麻薬取締法違反、殺人未遂、それに銃刀法違反で再逮捕する!」Kは翌日再逮捕され、連日厳しい取り調べが行われた。Kは一貫して黙秘を貫いたが、次々に上がって来る証拠には太刀打ち出来なかった。Kは起訴され、検察へ送られた。間もなく裁判にかけられる。「おい、何か言う事は無いのか?」DBも黙秘を貫いていた。「うーん、これではどうしようもありませんね。実行犯ではありますが、Kと違い直接的な証拠が挙がって来ません」W警部が唸った。「ヤツが喋らないなら、何か追い詰める手は無いか?」捜査一課長は、宙をあおいだ。「3件の“異臭事件”でも、証拠になりそうなモノは出ませんでした。Z病院の件でも、直接関わった形跡は、今の所見つかっていません」W警部も宙をあおぐ。「このままでは、起訴に持ち込めるか微妙だな。何とかして口を割らせるしかあるまい」一課長が苦り切った口調で言う。「あらゆる手を尽くして見ますが、保証はできません」W警部悔しそうに返す。「それでもやって見てくれ。真相を明らかにする為だ!」「はい」一課長とW警部は頑なに黙秘し続けるDBを隣室で見ながら、ため息交じりで言葉を交わした。取り調べは難航を極めた。

本山某氏は、最期の決戦の舞台に立っていた。既に青竜会の本部も落城し、残ったのは港湾部にある拠点のみになっていた。相模原が警察の手で押さえられた事が、青竜会の“命取り”になっていた。薬物のみならず武器弾薬までが、警察の手に落ちた事で組織は半ば壊滅してしまったのだ。港湾部の拠点に残った組員達は、僅かに残された武器を手に必死の抵抗を試みていた。「兄貴、逃げて下さい!俺達が最期の特攻をかけて血路を開きます!」傷だらけの組員が本山某氏に告げた。「いや、俺も加わる!お前達だけを置いて行く訳にはいかん!では、行くぞ!」迫りくる警察に本山某氏達は、最期の特攻を仕掛けた。壮絶な闘いの中、1人また1人と警察に組み伏せられていく。本山某氏も傷だらけになりながら奮戦を続けた。「本山!俺が相手だ。かかって来い!」声の主はG刑事だった。「この老いぼれが!」本山某氏は真正面からG刑事へ突っ込んだ。互いに組み合って地面を転がる。「おう、森よ!もういいんじゃねぇか?」G刑事が意外な言葉を発した。本山某氏が、はっとして動きを止める。他の組員達も大方制圧されていた。「顔は変わっても、声までは変えられねぇ。森よ、長かったな!」数年ぶりに聞く“本名”だった。「Gさん、約束を果たしに来たのか?」「ああ、お前に手錠をかけるのは、俺の仕事だったな。約束通り“逮捕”させて貰うぞ!」G刑事は手錠をかけた。「本部長が待ってる。一課長もお前さんの無事を心配してた。さあ、帰るぞ!森巡査部長殿!」本山某こと、本名、森重明巡査部長の長かった任務も終わりを告げた。この闘いを最期に青竜会は壊滅した。「Z病院へ連れていけ!怪我の手当をさせるんだ!」G刑事は指示を出した。「森、外科部長に話は通してある。元の顔に戻ってから、また会おう!」小声でG刑事は囁いた。「Gさん、ありがとう」パトカーはZ病院へ走り去っていった。

結果的にDBは「不起訴」となり、検察から釈放された。Kの裁判は近々始まる予定だ。DBは茫然としながら、街中に放り出された。「俺はこれからどうなるんだ?」DBは怯えていた。「DB、迎えに来たぞ」振り返ると、横浜本社の秘書課長がワンボックス車で来ていた。「Y副社長がお呼びだ。早く乗れ!」急かされて車に乗り込むと、横浜本社へ向かった。「すまんが、喉が渇いた。水をくれないか?」DBは飲み物を要求した。「ほれ、コーヒーだ。ゆっくりと飲むがいい」秘書課長は黒いコップを差し出す。中には“時限爆弾”が仕掛けられていた。飲み干したDBは、もう一杯を所望した。秘書課長は水筒毎、DBに手渡した。グビクビとコーヒーを飲み干すDB。やがて、水筒とコップがDBの手から転げ落ちた。意識は無い。「よし!落ちたぞ。支度にかかれ!」車は路肩に停車すると、車椅子にDBを移し目隠しとヘッドフォンが装着された。大音量で演歌が流れている。「予定通りだ。成田へ向かえ!」ワンボックス車は成田空港へひた走った。空港では、ベトナムへDBを移送する要員2名が待ち構えていた。秘書課長は彼らと共にベトナムへ飛んだ。“高級リゾート”へDBを送り込むためだ。航空機はベトナム、ハノイへ向けて離陸した。いつ帰れるとも知れぬ長い旅路が始まった。

「ミスター DB END」

*資料の整理、記憶の整理のため、「ミスター DB」は、一時休載します。次回からは「新 ミスター DB」として再開の予定です。