limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

ミスター DB ㊿

2018年10月02日 11時20分43秒 | 日記
時間は少し戻って、サウナの1フロア下の漢方薬局。KとDBは、美人のスタッフの応対に鼻の下を伸ばし切っていた。問診票に必要事項を記載して提出し、今は窓口で話している最中である。「とにかく、胃と腸に負担をかけてしまいましてね。調子が悪いんですよ」DBはデレデレになりながら、美人スタッフに訴える。「そうでございましたか。昨夜はどの程度お食事をなされましたか?」2匹は答えに窮した。△珍楼でドンチャン騒ぎをしたとは、とても言えたものではない。「△珍楼でフルコースを注文しましてな。少々食べ過ぎた嫌いがあります」Kが何とか誤魔化しにかかる。「油の濃い料理をお食べになられているのですね?お酒は?」「ビールの大瓶を各1本ぐらいです」DBも誤魔化しに走る。「承知いたしました。油の濃い料理にお酒を少しですね。普段と違うお食事を摂られている様でございますので、胃と腸に負担がかかってしまうのは、当然でございましょう。当店には、この様な症状を改善する生薬が揃っております。これから調合してお出ししますので、ソファーに座ってお待ちください」美人スタッフは笑顔で話を聞き終えると、奥へ消えた。「おい、DB!凄い所を知っているな。美人揃いじゃないか。お香の香りもいいし、居心地のいい空間だ」Kは、よだれを垂らさんばかりに表情を崩している。「1度だけ来た事があるが、ここの生薬はよく効く。K!よだれを拭け!」DBがたしなめる。「ああ、済まん。美人の宝庫なんでつい、垂れてしまう」Kはティシュで口元を拭った。程なくして、美人スタッフは、袋と水の入ったコップを持って現れた。「お待たせ致しました。胃の不快な症状を改善する生薬をご用意致しました。お食事の前にお飲みになって下さい。当面1日分でございますが、症状が改善されない場合は、速やかに病院を受診される事をお勧めします。今、お飲みになって行かれますか?」「ああ、そうしよう」2匹は早速、生薬を飲み込んだ。「繰り返しになりますが、出来るだけ速やかに病院での診察をお勧めします。お客様の状態を伺った限りでは、かなりの負担が胃と腸にかかっていると思われます。こちらでの処方には限界もございますので、お医者様にきちんと診断をしていただいて下さい」美人スタッフは、丁寧に医療機関での受診を勧めた。「分かりました。明日にでも病院へ行きますよ」DBはそう言ってコップを返した。「お会計はあちらでございます。どうぞお大事になさって下さい」美人スタッフはそう言うと、薬袋と明細をDBに手渡すと、一礼して下がって行った。「ほう、結構リーズナブルじゃないか」Kは明細を見て言った。「1日あれば胃と腸は落ち着く。“悪臭の素”は追い払ったんだ。生薬パワーで復活だ!」「だが、今晩は用心しなくちゃならない。食べ過ぎは厳禁だぞ!」DBが釘を刺す。2匹は、会計を済ませると、意気揚々とPホテルへ引き上げて行った。

ミスターJ一行は、中華街へ足を踏み入れようとしていた。煌めく光と人々の渦。華やかな雰囲気が街を包んでいた。ミスターJを中心に、左前をN坊が右前をF坊が固め、“スナイパー”は後方から全体を俯瞰する様に固めていた。「こうして見ると華やかだが、裏へ回れば青竜会の影がチラついているんだろうな」N坊が声を潜めて言う。「ああ、どこから何が出て来てもおかしくねぇ」F坊も言う。「前の2人は丸腰ですが、大丈夫なんですか?」“スナイパー”はミスターJに聞いた。「お前さん、あの2人が丸腰で前衛を務めると思っているのか?心配はいらん。ちゃんと武器は持っておる。機械屋兼電器屋らしいモノだがな」ミスターJは落ち着き払って言った。△珍楼までは何事も無く着いたが、入り口は何故か静まり返っていた。ウェイターが2人、頭を下げて客の入店を断っている。「申し訳ございません。本日は満席でございまして・・・」「何だと!俺に向かって帰れと言うのか?!兄貴に何て詫びを入れりゃあいいんだ?!フォンを呼んで来い!!俺のツラを拝めば気も変わるだろうよ!!」背広の左襟には、青竜会のバッチが光っている。ウェイターはあくまでも「満席」を繰り返して頭を下げているが、青竜会の若い組員は引き下がる気配が無い。そこへN坊が「予約した者だが、ジミー・フォンに“ミスターJが来た”と伝えてくれ」と言った。ウェイターの1人が「少々お待ちください」と言って店内へ声をかける。青竜会の若い組員が突っかかって来た。「何だ?!お前らは入店する気か?!」N坊が「予約は入れてあるぜ!」と突っぱねる。「俺達を差し置くとはいい根性だ!兄貴が聞いたらタダじゃすまねぇぞ!」と目の前を塞ぐように立ちはだかった。「N、F、騒がれるとマズイ!」ミスターJが小声で言うと「何をごちゃごちゃ言うとんのじゃこら!」と青竜会の若い組員が迫って来た。接触寸前にN坊とF坊の上着が翻り、バシッっと電流の青く弾ける光が躍った。前と後ろの両方から右手が叩き込まれたのだ。若い組員はゆっくりと崩れ落ちた。「成敗!」N坊とF坊は、素早く若い組員を物陰に引きずり込んでいく。「お前ら、殺してないだろな?」“スナイパー”は真顔で聞く。「大丈夫!」「出力絞ってあるし」N坊とF坊はビニールの紐で手を縛り上げつつ言った。股間の周囲には失禁の跡が広がっている。「朝まで沈没だよ」「このままにしといても、害は無い」N坊とF坊は“片付け”を済ませると口々に言った。「タダのスタンガンじゃないな!何本持ってるんだ?」“スナイパー”が聞くと「2本だけだよ。今、使ったのは威嚇用」「威嚇用と、とどめ用さ。俺達は機械屋兼電器屋さ。分解して出力を上げる悪いクセがあってね」N坊とF坊が説明する。「なるほど、丸腰ではありませんな。ミスターJ」“スナイパー”はあきれ顔で聞く。「ようやく分かった様だな。私の護衛役を務める以上、この位の武器は用意して来るのは当然じゃ」ミスターJは平然と言い、店の玄関をくぐった。「いらっしゃいませ!」店員達がズラリと並んで4人を迎えた。「3階へお進み下さい。ジミー・フォンが待っております」支配人が先頭に立ち階段へと誘う。4人は3階の奥まった部屋へと通された。「ミスターJ、いらっしゃいませ!」小柄な男が深々と頭を下げて、かしこまって出迎える。「フォン、今日は久しぶりに、美味いものを食いに来た。料理は任せる」ミスターJがピシリと言うと「はい、最高の料理をお持ちします」とジミー・フォンが返した。「前菜をお持ちしろ!」ジミー・フォンは冷や汗をハンカチで拭いながら、支配人に命じた。

Pホテルへの帰り道、KとDBは別のルートを選んで歩いていた。来た道を帰るのが最短ではあったが、悪臭漬けにしたコンビニの前を通るのは、流石にマズイと言う事になり、大きく迂回する事にしたのだ。だが、2匹の足取りは重かった。萎んだはずの腹が再び膨れ上がりつつあったのだ。しかも腸はキュルキュルと動き、絶え間なく尻からガスが噴射されていた。「クッソー、どう言う事だ!腸が暴れている。しかも臭いガスが止まらん!」Kは、いら立ち転がっていた空き缶を蹴飛ばした。バフンと言う鈍い爆音が響いた次の瞬間、後ろを歩いていたDBは猛烈に臭いガスにむせ返った。「クッ臭い!K・・・、大人しく歩いてくれ!しかし、この臭さは異様だ。もしかすると、まだ“異臭の素”が残っているか?」DBは自らも機関銃の様にガスを噴射しつつ呻いた。実際の処、“異臭の素”はまだ2匹の腸の中に居座っていて、生薬と反応し多量のガスを生成し続けていたのだ。これらを駆逐するには、食事を摂って排泄するしかなかったが、2匹は悪臭に対する恐怖心から、食事を摂ろうとしなかった。結果として、ガス地獄にハマってしまったと言う訳だった。「DB!またしても悪臭が漂う事態になったが、これをどう説明する?」Kは目を吊り上げて聞く。「汗からは臭気が漂っている訳ではない。むしろ腸の動きの方が怪しい。腸にまだ“異臭の素”が付着していて、さっき飲んだ生薬と反応しているとしたら、ガスが続く事は説明できないか?」DBはやや控えめに言う。「うむ、確かに腸まで洗浄した訳ではないから、多分間違いないだろうが、いつまで続くと思う?」Kは更に聞き込んで来る。「分からない。いつまで続くか見当も付かんよ」DBは機関銃の様にガスを噴射しながら言った。「DB!こうなればヤケクソだ!俺はコーラを飲むぞ!」と言うとKは、自販機からコーラのペットボトルを引きずり出して、グビクビと飲み始めた。DBは「K、それはヤバイ!止めてくれ・・・」と叫んだが、Kは一気に飲み干してしまった。Kの胃から腸に向かって、コーラの香料と炭酸ガスが流れ込む。Kの腸に巣くっていた“異臭の素”は直ぐさま反応を起こして、多量のガスを生成した。Kの顔は赤くなり、次第に青白くなり、ついには、血の気が失われた。「DB、腹の中で・・・ガスが・・・沸いている・・・、ベルトを・・・緩めてくれ」Kはロボットの様に喋ると、目を白黒させて痙攣を起こした。「言わんこっちゃない!」DBは素早くKのベルトを緩めると、周囲を見渡した。100m先にコンビニの看板を見つけると、Kを担いで全力で移動した。自身から噴射されるガスには目もくれずに、一気にコンビニのトイレを目指す。幸い、車椅子も入れるトイレが設置されていたので、そこへKを引きずり込んだ。「この際だ、やむを得ない」DBはKのズボンとトランクスを降ろすと、便座に座らせてハンカチで厳重に口元を覆った。ドカン!ドカン!ドカン!爆発の様な轟音が3発轟くと、ダダダダーっと機銃掃射の様な音が続いて響いた。Kは驚いて意識を回復したが、トイレ内には猛烈な悪臭が充満しており、臭さにむせ返り喘息患者のように咳き込んだ。DBもある程度は予知していたが、あまりの臭さに呼吸困難に陥りそうになった。そして緊張が切れた時、自らも猛烈な音を発してガスを放出してしまった。この臭過ぎるガスは、隙間からコンビニ店内へと漏れ出し、客を容赦なく悪臭地獄へと誘った。「キャー!!!」と言う女性たちの悲鳴と、人のバダバタと倒れる音が聞こえる。DBはKに「急げ!履くモノを履いたら、脱出する」と何とか言った。Kは大急ぎで身支度をすると、トイレの外の音に耳を澄ます。「よし、脱出だ!」2匹がトイレのドアを開けると、更に臭過ぎるガスが店内へ流れ出した。床には倒れて動けなくなっている人々が多数いた。店外では、女性客らしき人々が寄り集まり、警察へ通報を始めていた。「ヤバイ!直ぐに脱出せねば・・・」と言うDBにKは「裏口へ行け!表に出れば捕まってしまう!」と言い、カウンターを突っ切ると裏口からコンビニの外へと逃れた。三十六計逃げるに如かずで、また路地裏を必死に逃げ惑った。パトカーのサイレンが聞こえる。2匹はともかく決死の形相で逃走を続けた。

ジミー・フォンは焦っていた。ミスターJに提供される料理の監督や味見、盛り付けの仕方まで全てに目を光らせ、従業員の衣服や仕草に至るまで、細かく指示を出していた。ミスターJ一行は、料理に満足しつつ笑みも浮かべている。だが、いつどの様な形で災禍が降ってくるか分からないのだ。彼は、ミスターJの真意を計りかねていた。「“秘伝のエキス”の件か?青竜会との関係か?いずれにせよ、ヤバイ橋を渡るハメにならなければいいが・・・」フォンの頭の中では、あらゆる事を想定した“想定問答集”がパラパラと捲られていた。そして、極度の緊張から、冷や汗が止まらなくなっていた。「大丈夫ですか?顔色がお悪いように感じますが?」支配人が聞いている。「いや、大丈夫だ。今、どこまで進んでいる?」フォンは雑念を振り払うように言った。「もう直ぐメインディシュになりますが・・・、何か不都合でもございましたか?」「いや、それならばいい。失礼の無い様に慎重に進めてくれ」フォンは奥の部屋へ戻ると、水を飲み深呼吸した。鏡の前で襟を正して、再び客間と厨房の中間点へ戻る。「フォン様、お客様がお話があるとおっしゃっておられます」従業員が急ぎ足で知らせる。「うん、直ぐに行く」フォンはもう一度深呼吸をすると、軽やかな足取りで、ミスターJのテーブルの前に進んだ。「何か不都合でもございましたか?ミスターJ?」「おお、ジミー。今日の料理は、殊の外美味いぞ!見事だ。さて、訊ねておきたい案件がある」フォンは「いよいよ来たか」と心の中で呟くと、億尾にも出さずに「何をお聞きになりたいのでしょうか?」と惚けた。「まずは、3ヶ月前の事だ。ニカラグアの組織のトップを接待しているな?“秘伝のエキス”を大量にばら撒いて。誰がここへ連れて来た?」“見抜かれている”フォンは直感した。こうなると下手な抵抗は無駄だ。「青竜会の麻薬担当の上の方の人でした。“存分に食べさせろ”と言われまして、好きなだけ飲み食いさせて帰したまでです。“秘伝のエキス”は多少使いましたが・・・」「なるほど、“多少”とは家訓を破ってまで、ばら撒いたと言う事だな!」ミスターJの目が光る。「麻薬組織は許せません!青竜会の跋扈も!せめてもの抵抗です。みんな青竜会に食い尽くされてるんだ。それしか手は無いんですよ。ミスターJ」フォンは震えながらも言った。「だが、家訓を破ってまでする事か?親父さんが生きていたら、別の手を使っただろう。親父さんは言っていた“秘伝のエキスは、少量使うから秘伝なのだ”とな。使い過ぎればとんでもない事になるのは分かっておるだろう。ジミー、青竜会にはどの位の貸しがある?」「ざっと、2千万。この街全体なら、億単位になりますよ」フォンは改めて暗算して答えた。「かなりの額だな。赤字の店は?」「3分の1ぐらいでしょうか。ウチだってトントンなんですから」フォンは仕方なしに言う。ミスターJは更にたたみかける。「ジミー、相模原のNPO法人については、知っているか?青竜会が乗っ取りをかけた施設だ?」「理事長を始めとする幹部がどうなったかは知りません。ただ、信者12名を夜逃げする際にこの街へ託して行かれたので、2週間程匿ってから個別に自宅へ送り返しました。青竜会と信者は無関係でしたし、青竜会も煩く追及しなかったので帰せましたが・・・。理事長達は“名古屋へ逃げる”と言ってましたが、逃げ切れたかは確認できていません。携帯を変えた様です。処方箋薬の密売は、1部の幹部達が始めた事でした。資金繰りに行き詰った挙句の行動です。それを青竜会が嗅ぎつけた。始めは“利益を折半する”事で折り合ったのですが、青竜会がコカイン、ヘロイン、MSD、の密売に利用し始め、利益も独占する様になった。気付いた時には“外堀”を埋められて、逃げるしかなかった。いいお客さんでしたよ。やってる事は無茶苦茶でしたが、月に1度は食べに来てくれました。知ってるのはそこまでです」フォンは一気に喋った。「ふむ、信者達を匿って、送り返すとは。親父さん譲りの“義侠心”は健在の様だな」「チャかさないで下さい!当然の事をしたまでです」フォンは冷や汗をハンカチで拭う。「では、青竜会がZZZを扱いだした時期は?」「3ヶ月前、ニカラグアの組織のトップが来日してから。月に1度、海路で運んでいると聞いてます。警察も必死に追ってる様ですが、尻尾どころか陰すら掴んでいません。近々、またニカラグアから“商談”に来日する様です。その際の接待をまた、青竜会に押し付けられました」フォンはお手上げのジェスチャーをして見せる。「ジミー、どうして素直に喋る気になった?こうもスラスラと言われると気味が悪いくらいだ。何があった?」ミスターJは聞いた。「私達は、親父の代からの付き合いです。“見抜かれている”って直感しましたよ。そうなれば、嘘は通用しない。貴方が直接来たからには、何らかの証拠を知っているからでしょう?白を切ったところで何になります?青竜会についてもそうです。表も裏もガッチリ固められた以上、抵抗は無理だ。素直に白旗をあげたまでですよ。ミスターJ」フォンは大きくため息をついた。偽らざる本音だった。「そうか、そこまで分かっているなら、私は何も言わん。ジミー、後1ヶ月だけ辛抱しろ!そうすれば、この街もお前さんも昔の輝きを取り戻せるだろう。今頃、県警はシャカリキになって、青竜会を追い詰める算段をしているはずだ。私が保証する」ミスターJは真っ直ぐにフォンを見て言った。「分かりました。貴方がそう言われるなら、間違いはない。1ヶ月待ってみますよ。では、成功を祈って乾杯をしたのですが、受けていただけますか?」「ああ、喜んで受けよう」ミスターJが承諾すると、フォンは支配人を呼んでシャンパンを用意させた。「栄光を祝して!」フォンが音頭を取り、全員が祝杯を挙げた。「ジミー」ミスターJが手招きをした。「はい?」怪訝そうな顔でフォンがミスターJに近づく。部屋の隅へ連れて行くと「早く、嫁を取れ!この街のドンが独り身ではマズイ!」ミスターJが小声で言う。「分かってます!長老達からもせっつかれて、見合い写真の山が出来てます!これ以上、うず高く積まれるのはコリゴリです!」フォンは肩を竦めて地団駄を踏み、悔しがった。

悪臭事件の通報を受けた警察は、直ちに近隣の交番から警察官をコンビニへ派遣した。倒れていた人々も意識を回復し、事情聴取に応じた。「猛烈な悪臭が立ち込めて、意識をうしなったのですね。何か盗まれたモノはありますか?」警官達は片っ端から聞いて回ったが、盗まれた物品や私物は一切なかった。「防犯カメラの映像に逃走犯は映っているか?」「それが、どうも故障したらしく、犯人逃走の際の映像が出ないんだよ」担当していた警察官がぼやく。「男が、誰かを担ぎ込むのは確認できるが、その後、クラッシュしてやがる」「うーん、いまいち釈然としないな。とりあえずは押収するか」防犯カメラの映像は、ともかく押収する事になった。だが、どうも釈然としない事件だった。別の証言では「ガス爆発の様な音が3回と、機関銃を連射する様な音、車が衝突した時の様な音がした後に、猛烈に臭いガスが充満した。トイレも無傷なので爆発自体もあったのか分からない」となっていた。数時間前にも、別のコンビニで悪臭事件が起きているが、警察しとても関連性は見つけられなかった。「不可解だ。向こうは店が全滅する被害だが、こっちは無傷。被害もほぼない。どう解釈する?」出動した警察官達は悩んでしまった。「ともかく、本署へ連絡して、防犯カメラの映像を提出しよう。付近の警戒と聞き込みは、継続だな」警察官達は、2手に別れた。本署へ向かった警察官は、状況報告と唯一の証拠である防犯カメラの映像を提出しようとした。だが、本署はそれどころではなく、上へ下への大騒ぎになっていた。「悪臭事件?!とりあえず、そこに置いておけ!今はそれどころじゃないんだ!全員持ち場で待機しろって署長命令が出てる。お前さん達も早く帰って待機しろ!下手にウロチョロしてると署長から大目玉を喰らうぞ!」とどやし挙げられ、早々に引き上げるハメになった。「どーなってるんだ?」「分からん?ともかく引き上げよう」彼らは急ぎ交番へ引き返し、付近の警戒と聞き込みに当たっていた仲間達にも交番へ引き上げる様に伝えた。

物陰から物陰へ、夕闇が迫る中、KとDBは決死の形相で逃走を続けていた。警察当局が捜査を打ち切ったとも知らずに、2匹は怯えながら街を彷徨っていた。やがて、2匹は小さな公園へとへたり込んだ「ここは、どこだ?!」Kが喘ぎながら言う。DBも荒い息を抑えながら周囲を見る。「どうやらPホテルの北側へ出たらしい。あそこを見ろ」DBの指す先には、Pホテルが見えた。「やっと帰り付いたと言う訳か。臭いガスの噴出も治まったな。DB、夕飯は?」Kはぐしゃぐしゃになった髪を直している。「とてもそんな気分ではない。下手に食うと何が起こるか分からん」DBはズボンを履き直している。2匹ともヨレヨレになっており、暫く息を整えるのに時間を要した。「ともかく、ホテルへ帰ろう。もう“追いかけっこ”をする気力も無い」DBはKに進言した。「そうしよう。帰れるうちに帰らないと、永遠に戻れそうもない」Kはしょぼくれていた。コーラのせいで又しても悪臭騒ぎを起こしたのだ。この上は、Pホテルへ逃げ込む以外に選択肢は無かった。何とか身なりを整えると、2匹はPホテルへ向かって歩き出した。足取りは重く、気分も滅入っていた。時々、ブォーっとガスの噴出音が響く。「一時よりはマシだ」「爆発的な噴射は治まった」2匹は口々に言いつつ、Pホテルの玄関をくぐった。エレベーターに乗り、部屋へ雪崩れ込む。「ぐぇー、疲れた」ソファーに落ち着くと、お香の香りがした。「どうやら、部屋も消臭されてるらしいぞ。あそこを見ろ」DBは、脱ぎ捨ててあったはずの衣服が、クリーニングされて置かれているのに気付いた。「その様だな。だが、今は動けない。根が生えた」Kはしょんぼりと言う。暫し静寂が室内を包んだと思われた次の瞬間、猛烈な爆音が響き始めた。2匹は、すっかり体力を使い果たして眠りこけてしまったのだった。だが、2匹の腸はまだ動いており、険悪極まりない悪臭ガスを生成し続けていた。時折、ブォーっと音を立てて、悪臭ガスは噴出を続けていた。「うん?!何の音だ?」留守番を勝ち取ったリーダーは“耳”から聴こえる妙な音に首を傾げた。「お休みとは、呑気なものだ」2匹の奏でる爆音に嫌気が刺したリーダーは、ボリュームを絞るとコーヒーを片手に、窓辺に移動した。「ご無事だといいが・・・」中華街へ出向いたミスターJ達からは何の連絡も無い。「便りが無いのは、無事と言う事だろう」自らに言い聞かせるように、彼は外の明かりに見入っていた。

「ジミー、すっかりご馳走になった。悪かったな」ミスターJはフォンに言った。「とんでもない。また、いらして下さい。盛大に歓迎しますよ」ジミー・フォンはご機嫌そうに言った。△珍楼の玄関でミスターJ一行は、見送りを受けていた。「早く、嫁をな!」ミスターJが冷やかすと「それは・・・、自分で決めます!しかるべき時期に!」フォンは真っ赤になって反論する。「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」従業員一同の盛大な見送りを背に、ミスターJ一行はとっぷりと暮れた街へと歩き出した。その姿を物陰から4人の男達が見ていた。青竜会の組員達である。裏通りを先回りすると、4人はミスターJ一行の前に躍り出た。「誰だ!」「何のつもりだ!」N坊とF坊が誰何する。「青竜会のお出ましか?!」“スナイパー”が懐のパイソンに手をかける。「ちょいと付き合ってもらうぜ!」「大人しく着いてきな!」彼らも懐に手を入れている。「3人共、油断するな!」ミスターJにも緊張が走る。その時だった。「やめろ!客人に手荒い真似はするな!!下がれ!」5人目の男が現れた。「兄貴!今、しょっ引こうと・・・」と言った瞬間、若い組員が裏拳を喰らってひっくり返った。「俺の客人に手荒い真似は許さん!!お前らは、引っ込んでろ!!」“兄貴”と呼ばれた男からは、ただならぬオーラが発せられていた。「へい、事務所へ戻ります」裏拳を喰らった組員を抱き起すと、4人は煙のように消えて行った。「ミスターJ、少しお時間をいただけますかな?」“兄貴”が誰何した。「ああ、付き合おうじゃないか!3人共、矛を収めろ」N坊とF坊と“スナイパー”が手を収めた。“兄貴”は、近くの中華料理店の最上階へミスターJ一行を案内した。「手荒な連中が失礼を致しました。ここは、誰にも聴かれる心配の無い部屋です」“兄貴”が言う。「貴方は何者です?!ただの青竜会の幹部ではありませんな!」ミスターJは言い切った。「流石にお見通しですか?やはり、貴方もただの陰ではなさそうだ」“兄貴”は笑い出した。「確かめておきたい事があります。それも早急に!」兄貴”は急に真剣な顔つきになった。「まさかとは思いますが、もしや・・・」ミスターJは何かを察した様だった。いったい、彼は何者なのか?