ジル もう一度抱きしめたい

ジル

母は、あなたの最後の最後まで、見届けましたよ

あなたのこときれる瞬間も

硬くなっていく様子も

徐々に体温が低くなり冷たくなっていくことも

総て逐一感じました

救急病院から午前3時位帰ってきた残り少ないあの最後夜も

冷たくなったあなたと一緒の床で寝ました

いつものように

個展の会期2日目、それをすっぽかして、（お越しくださいました皆様方誠に申し訳ありませんでした）

殆ど寝ずにあなたのお葬式を滞りなくやりとげました

棺を春の花一杯にしたくて、花屋に走り回りました

あなたのゆかりの方々にお電話してお見送りをお願いしました（お忙しい中突然のことなのに駆けつけていただきありがとうございました）

焼却炉に入る最後の最後の瞬間まで、冷たいあなたの顔に別れのキスを何度も何度もしました

4歳8ヶ月で、元飼い主の事情により棄てられたあなたの運命

その愛の渇望から来る、人間不信故の激しいリアクションも

“ナゼあなたがそうなるのか”

母は十二分に理解できていました

だから、あなたが何をしでかしても、決して叱らるつもりはありませんでした

ジル　あなたが、母のわたくしの、無限で永遠の“愛”を認めてくれるまで

犬に詳しい友人や家人のアドバイスやクレームにはいっさい耳を貸しませんでした

能力において、もも（柴）や武蔵（ラブラドール）より遥かに上回っているジル（ワイマラナー）でした

家中のことごとくのドアーもこじ開け

もちろん冷蔵庫も（新しい取っ手のないのに取り替えました）

玄関の重い木のドアーさえも見事に突破

だけど　だけど　昨年の秋ぐらいからでしょうか

あなたからの母に対する他のワンコにはない、ジルらしい愛情表現も示してくれるようになってきていました

それをしみじみ感じて母はとても嬉く思ったことでした

それはあなたと母しか分からない関係でした

それだけに、突然その素晴しい関係が断ち切れたこと

とても　とても　とても　残念でなりません

どうして、この掛け替えのない関係が終わってしまったのか

あまりに密度の濃いあなたと母との関係が

そうさせたのでしょうか


ジル　帰っておいで


もう一度抱きしめたい


愛しいジル