「教義と聖約」の各章の前書きに出てくる「教会歴史」は、誰の手によって書かれたのだろうか。この「教会歴史」は7巻からなり、ジョセフ・スミスが書いた記録をB. H. ロバーツが編集したとされ、日本語に翻訳されていないので、翻訳を希望する声が時々聞こえてくる。(「教会歴史」の英文名: “History of the Church of Jesus Christ of Latter-day Saints,” ed. B. H. Roberts [Salt Lake City: Deseret News Press, 1902-1912])
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今年オックスフォード大学出版が出した「モルモニズム創設に関わる文書:主要な初期資料を分析する」の序文で、イエール大学のハリー・S・スタウト教授はデイーン・C・ジェシー(教会員で歴史学者)の貢献について、彼の発見(1971年発表)は革新的な意義を持つと書いている。それは、もう何十年もこの「教会歴史」が背表紙にもあるようにジョセフ・スミス自身が書き残した記録として扱われてきたが、実際は10人以上の書記や秘書の手によって書かれていることを明らかにしたからであった。(筆跡鑑定で判明。私も迫害や移動で波乱の生涯を送ったジョセフ・スミスが本当に書いたのだろうかと思ったことがあった。)
もちろん、「教会歴史」はジョセフ・スミスの日誌に基づいて、あるいは当時そばにいて直接目撃した人たちが記したもので、価値のある資料であることに違いはない。しかし、慎重に、精査の目で(批判的に)見る必要がある、と編者は言う。側近たちが時には10年以上も時間が経過した後に資料を編纂して、ジョセフ・スミスの自伝風に文(narrative)を綴ったからであった。
ところでついでに書けば、「教会歴史」には「教義と聖約」の本文が掲載されてあり、教義と聖約各章の見出しや前書きで参照部分の情報がほとんどカバーされていることも少なくない。また、古い本であるが「教義と聖約歴史小品集:教義と聖約を彩る歴史と人物」(インスティチュート個人学習コース)が「教会歴史」をかなり掲載していて情報の差を埋めてくれている。また、他の邦訳文献に紹介された説明から、時代背景など情報が補われており、「教会歴史」が翻訳されなくても特に困ることはない、と私は思っている。
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・[オックスフォード大学出版が出した本の原題: “Foundational Texts of Mormonism - - Examining Major Early Sources” edited by Mark Ashurst-McGee, Robin Scott Jensen, Sharalyn D. Howcroft, Oxford University Press, 2018 ]
なお、この書物はモルモン書の本文批評、聖書のジョセフ・スミス訳、教義と聖約の編纂史、ルーシー・マック・スミスの歴史再訪など12章からなり、重要な参考文献になると思われる。編者はLDS教会の歴史部門の専門家たちである。出版社の上記サイトで目次を見ることができる。
*序文を書いた Yale 大学の Harry S. Stout は、外交辞令の気配がするにしても、「アメリカで最も成功した新宗教」の生成期を、これまでにない視点で分析する意義を評価している。
・Dean C. Jessee の画期的とされる記事: Dean C. Jessee, “The Writing of Joseph Smith’s History,” BYU Studies 11 (Summer 1971)
大元の書物があったのですね。
恥ずかしながら考えたことも無かったです。
全巻、日本語で目にしたいですね。
もしかすると新たな発見があるかもしれませんね。
英語を勉強しましょうよ。