道後本館わき出る魅力
春の行楽シーズンを控え、松山市の道後温泉本館がにぎわっている。市が昨春、周辺に石畳を敷くなどして雰囲気を一新させたのに加え、今月半ばには、近くの山に本館を見下ろす休憩所も整備予定で、さらに魅力が増しそうだ。明治時代から人々に愛されてきた本館の“裏側”をのぞいてみた。(山村英隆)
◆オンセン忍者屋敷?◆
本館南側にある「冠山」には、17の源泉からくみ上げた1日2000トンの湯を本館やホテルなど約40か所に送り出す分湯場がある。中はパイプが縦横に巡り、まるで迷路のよう。
本館も、分湯場に負けない複雑な造りだ。
1894年の完成後、増改築が繰り返されたためで、休憩所の畳の下には浴場へ続く使われていない階段、屋上には職員も年1回の「源泉祭」の時しか訪れないというほこらが、人知れずたたずんでいる。市道後温泉事務所の田内宏幸所長(60)は「まるで忍者屋敷みたいでしょ」と笑う。
◆オンセン真っ赤な空間◆
ドン、ドン、ドン――。環境庁(現・環境省)の「日本の音風景100選」に選ばれた刻太鼓(ときだいこ)の迫力のある音が午前6時、正午、午後6時の1日3回、湯の町に響き渡る。太鼓がつり下げられた「振鷺閣(しんろかく)」に、特別に入れてもらった。完成当時は最先端技術だった赤いガラスが四方にはめ込まれ、外から見た優美な姿とは違い、内部はおどろおどろしい真っ赤な空間だ。
実は、ここで欠かせないのがラジオ。時報に合わせて太鼓を打ち鳴らす。担当の高橋美也子さん(53)は「スポーツ中継の延長で時報が流れないときは困ります。正午に12回打つときは、数を間違えないよう集中します」と話す。
◆オンセン謎のでこぼこ鏡◆
本館1階には不思議な鏡がある。縦1・5メートル、横1・2メートル。表面が波打ち、前に立つと宇宙人のように顔がのっぺりしたり、足や胴が伸びたり縮んだり。戦前からあると言われ、ザクロの汁で磨いたことなどから「ザクロ口の折り鏡」と呼ばれている。家族で訪れた徳島市の幼稚園児小杉佑晴君(4)は「鏡からちょっと離れてみたら、顔がびよーんとなって面白かったよ」と楽しんでいた。
◆オンセン輝き「再発見」◆
皇族専用の風呂「又新殿(ゆうしんでん)」の控室のふすまは長年、空気にさらされ、鮮やかだったはずの銀箔(ぎんぱく)やシラサギの絵は酸化してすっかり黒ずんでいる。しかし、ふすまを横に動かすと、光り輝く銀の下地に鮮やかなシラサギが描かれたもう1枚が下から現れた。
この“2枚目”のふすまは今年に入って「再発見」され、職員でも存在を知らない人が多いとか。田内所長は「さすが皇族を迎える部屋のふすまだなと、価値観が変わりました」。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます