仁木英之『耶律徳光と述律(上・下)』(朝日文庫)を読む。


『朱温』『李嗣源』に続く五代十国の君主を描いた小説。
契丹族の国家・遼の二代皇帝となった耶律堯骨(徳光)が主人公です。
堯骨は遼の初代皇帝・耶律阿保機の二男に生まれ、
父の死後、長男で皇太子の兄に代わって帝位を継承します。
後に後晋の建国を支援して燕雲十六州を手に入れ、
さらに南進して後晋を滅ぼし、中原を手中に収めますが、
兵站が続かず帰還の途中病没しました。
『朱温』や『李嗣源』と同様、主人公の少年時代から始まり、
五代十国の興亡を描くというスタイルになっています。
創作が多い少年時代の話は小説として面白いのですが、
史実がベースになると出来事の説明だけで終わってしまい、
エピソードの寄せ集めのような印象を受けます。
それでも前作よりはマシになっているのですが。
『朱温』では李克用、『李嗣源』では李存勗という
主人公以外の人物の方が魅力的に描かれているのと同様、
この作品でも後晋の部将・劉知遠が「主役級」の扱いを受けています。
五代十国の時代を描くなら、馮道を主役にするか、
李克用―李存勗―劉知遠―柴栄のラインで描いた方がいいでしょう。
せっかく遼の初代皇帝・耶律阿保機の妻である
述律もタイトルに入れているのですから、述律を狂言回しにした
耶律阿保機・堯骨父子の二代にわたる建国のストーリーにする方が
話がわかりやすくなったように思います。
五代十国の時代を描こうという意欲は買いますが、
長編は荷が重いのではないか、というのが率直な感想です。
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