久住昌之(原作)谷口ジロー(作画)『文庫版 孤独のグルメ』(扶桑社文庫)を読む。
扶桑社の『月刊PANJA』誌上で1994年から1996年にかけて
不定期連載していた作品を単行本化したものです。
『月刊PANJA』は週刊『SPA!』の月刊誌版のような雑誌で、
94年から96年まで発行されていました。
「飯テロ」という言葉を生み出した深夜ドラマ「孤独のグルメ」の原作です。
孤独のグルメ
主人公の井之頭五郎は個人で貿易商を営む独身の壮年男性。
下戸で甘党、愛煙家です。
こうした属性は、他のグルメ漫画との差別化で設定されました。
ドラマ版ではゴローさんが出先で実在のお店に入り、
そこの料理に舌鼓を打つのが基本的なストーリー。
実在のお店で撮影されますが、店員や客は役者が演じています。
ドラマではありますが、実在のお店を紹介するグルメ番組です。
酒飲み向けに原作者が登場するミニコーナー
「ふらっとQUSUMI」があるくらいグルメ情報番組として徹底しています。
【ドラマ24】孤独のグルメ Season7 #11
この原作版、特にドラマ化以前の作品を収録した文庫版は、少し趣が異なります。
ドラマ版に登場するのは実在のお店なので「ハズレ」はありませんが、
文庫版ではコンビニで惣菜を買い込んだり、「ハズレ」の店が登場します。
ドラマ版は空腹感をもよおす終わり方ですが、文庫版はペーソスあふれる読後感。
文庫版のストーリー上の縛りは「ゴローさんが何かを食べる」ことだけ。
食事の内容よりは、ゴローさんのモノローグによる心象描写に魅力を感じます。
「グルメ」の要素よりも「孤独」の方が濃い作風です。
ゆえに、家庭とも会社組織とも無縁な独身の輸入雑貨商、という
ゴローさんの基本設定が生きているのでしょう。
家庭にも組織にも縛られない生き方を選んだゴローさんが安らぎを見出すのは、
食欲という生物としての基本的な欲求を満たすときだけ。
そんな不器用で狷介なところのある中年男性の哀感が、
バブル崩壊後の変わりゆく街の風景とあいまって、巧みに表現されています。
90年代の作品なので、ゴローさんが新幹線の座席で喫煙していたり、
秋葉原が電気街だけの街として描写されていたりと、
時代を感じさせる描写もあります。
雑誌に連載されていれば、これだけを目当てに買いたくなるような漫画です。
作画の谷口ジロー氏が亡くなられたので、雑誌に登場することはなくなりましたが。
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