一瞬の間。
「やだ・・・もう」
私は苦笑うしかない。
彼は、まだ、昔の記憶に縛られて、
時折蘇る傷の痛みに震え、「現在」に怯えている。
そこから救い出す術を、私は持っているのだろうか。
「あのね、こんなこと言ったら、強がってると思われるかもしれへんけど」
目の前にいる彼は、無言のまま、私から目を逸らしたままだ。
「大げさでも、嘘でもなくて。
私、仕事をしてるときのあなたが大好きなの、ホントよ。
確かに、あなたに会う回数が少ないのは淋しいよ。
街中で、手をつないだり肩を抱いたりして歩いてる恋人同士なんか見たりすると、
正直、羨ましくて仕方ないときだってある。
お休みの日に、朝、カーテン開けて、いいお天気だったりしたら、
あなたとどこか行きたいなあって、そんなこと思ったりもする。
だけど、ね。 映画見たり、買い物したり、一緒の時間過ごすよりも、
仕事して、笑顔で楽しそうに輝いてるあなたを見ているほうが、
私にとっても幸せなんだって、思えるの。
こうして、たまにでも会えたら、私はあなたを独り占めできるんだよ?
最高に贅沢な時間が、私には許されてるんだよ。
それとも、もう、あなたは、ダメだって、思ってるの・・・?」
「ちゃう、ちゃうねん、逆や!
おまえじゃなかったら、俺は・・・!」
彼は慌てたように言い、逸らしていた視線を、私に戻した。
「だったら、それだけで十分だわ。
それ以外に必要なものなんて、ないもの。
それに、いっつも一緒にいるばっかりが幸せと違うって言ったの、
他の誰でもない、あなた、よ」
「うん、そう・・・やな」
彼の視線は、また、手にしたカップのあたりを彷徨う。
「まだ、私を信じられない?」
「いや、そんなことは・・・」
視線を下にしたまま、首を少し傾けて、小さく横に振る。
気恥ずかしい時の、彼の癖だ。
「大丈夫だから。
会う回数が少なければ少ないほど、もしかしたら、私たちは強く結ばれていくのかもしれないよ?
あなたが、しつこい、もうええわって言うまで、
離れてても、私はあなたの傍にいるから」
彼はまっすぐに私の目を見て、安心したように微笑った。
「なんや、くすぐったいな、こんな話」
「は? 最初におかしな話ふったんは、あなたの方やからね」
「すまん、どうかしとるな」
「何か、あった?」
「ちゃうちゃう、ちょこっと聞いてみたかっただけや。
淋しいんは・・・やっぱり、俺の方かもしれへん。
せやけど、もう大丈夫やわ。おまえの気持ち、わかったから」
「ほんなら良かった」
彼は、残っていたコーヒーを飲み干すと、席を立った。
「時間やから、行くわ。また、連絡する」
「うん、気をつけて。仕事、楽しんで来てね」
「ォん」
彼は、玄関先で振り向くと、そのまま、私を抱きしめて、耳元でささやいた。
「誰より・・・好きやから」
Fin.
続きで、あとがきです。
おつきあい、ありがとうございました。
個人的には、グラビアで、こちらを見据えたすばる君の、
じっと相手を射抜くような瞳が大スキです。
見つめられて、こちらも目を離せなくなる、見詰め合った感に、ドキドキします。
それだけに、ふっと視線を逸らしたときの、微妙な感情の揺れにドキリとさせられます。
このお話と、前の「群青・涙」は、勝手にタイトルシリーズと銘打った話たちです。
歌詞の内容とは全く関係なく、タイトルからだけ微妙にリンクしてる、そんなお話の集まりです。
ぼちぼち、やります。
また、良かったら、お付き合いください。
読んでいただいて、ありがとうございました。
「やだ・・・もう」
私は苦笑うしかない。
彼は、まだ、昔の記憶に縛られて、
時折蘇る傷の痛みに震え、「現在」に怯えている。
そこから救い出す術を、私は持っているのだろうか。
「あのね、こんなこと言ったら、強がってると思われるかもしれへんけど」
目の前にいる彼は、無言のまま、私から目を逸らしたままだ。
「大げさでも、嘘でもなくて。
私、仕事をしてるときのあなたが大好きなの、ホントよ。
確かに、あなたに会う回数が少ないのは淋しいよ。
街中で、手をつないだり肩を抱いたりして歩いてる恋人同士なんか見たりすると、
正直、羨ましくて仕方ないときだってある。
お休みの日に、朝、カーテン開けて、いいお天気だったりしたら、
あなたとどこか行きたいなあって、そんなこと思ったりもする。
だけど、ね。 映画見たり、買い物したり、一緒の時間過ごすよりも、
仕事して、笑顔で楽しそうに輝いてるあなたを見ているほうが、
私にとっても幸せなんだって、思えるの。
こうして、たまにでも会えたら、私はあなたを独り占めできるんだよ?
最高に贅沢な時間が、私には許されてるんだよ。
それとも、もう、あなたは、ダメだって、思ってるの・・・?」
「ちゃう、ちゃうねん、逆や!
おまえじゃなかったら、俺は・・・!」
彼は慌てたように言い、逸らしていた視線を、私に戻した。
「だったら、それだけで十分だわ。
それ以外に必要なものなんて、ないもの。
それに、いっつも一緒にいるばっかりが幸せと違うって言ったの、
他の誰でもない、あなた、よ」
「うん、そう・・・やな」
彼の視線は、また、手にしたカップのあたりを彷徨う。
「まだ、私を信じられない?」
「いや、そんなことは・・・」
視線を下にしたまま、首を少し傾けて、小さく横に振る。
気恥ずかしい時の、彼の癖だ。
「大丈夫だから。
会う回数が少なければ少ないほど、もしかしたら、私たちは強く結ばれていくのかもしれないよ?
あなたが、しつこい、もうええわって言うまで、
離れてても、私はあなたの傍にいるから」
彼はまっすぐに私の目を見て、安心したように微笑った。
「なんや、くすぐったいな、こんな話」
「は? 最初におかしな話ふったんは、あなたの方やからね」
「すまん、どうかしとるな」
「何か、あった?」
「ちゃうちゃう、ちょこっと聞いてみたかっただけや。
淋しいんは・・・やっぱり、俺の方かもしれへん。
せやけど、もう大丈夫やわ。おまえの気持ち、わかったから」
「ほんなら良かった」
彼は、残っていたコーヒーを飲み干すと、席を立った。
「時間やから、行くわ。また、連絡する」
「うん、気をつけて。仕事、楽しんで来てね」
「ォん」
彼は、玄関先で振り向くと、そのまま、私を抱きしめて、耳元でささやいた。
「誰より・・・好きやから」
Fin.
続きで、あとがきです。
おつきあい、ありがとうございました。
個人的には、グラビアで、こちらを見据えたすばる君の、
じっと相手を射抜くような瞳が大スキです。
見つめられて、こちらも目を離せなくなる、見詰め合った感に、ドキドキします。
それだけに、ふっと視線を逸らしたときの、微妙な感情の揺れにドキリとさせられます。
このお話と、前の「群青・涙」は、勝手にタイトルシリーズと銘打った話たちです。
歌詞の内容とは全く関係なく、タイトルからだけ微妙にリンクしてる、そんなお話の集まりです。
ぼちぼち、やります。
また、良かったら、お付き合いください。
読んでいただいて、ありがとうございました。