前書きです。
新曲の、一番最後。すばる君のセリフ。
「もう一回聞いて、もう一回」
に、反応したら、こんなお話になってしまいました。
月のもの
の最中に書いたのが、敗因か?
いや、そもそも勝ち負けじゃないんだけども。
UPしようかしまいか、散々悩んで、
「ええーい、なるようになるて」というナス様に後押しされました。
なんて、ヒナティブ
続きで、本編です。
俺の腕の中で、彼女が跳ねた。
不規則な息と、漏れる、かすかな声。
うっすらと香る彼女の香水に混じった、欲望の匂い。
ときおり魅せる獣の表情が、俺を捕らえて放さない。
俺の鼓動と彼女の鼓動が重なって、たしかなリズムを刻み始める。
ここにも、音は、溢れてる。
如何様にも姿を変え、
俺にまとわりつく姿態が奏でるのは、
本能に忠実な、音の群れ。
快感を追い求めるだけの、素直で、飾りのない音たち。
バラバラな、ただの音の集まりが繋がりだして、メロディラインが出来上がる頃、
俺の身体を、銀色の閃光が貫く。
あとに残る休符。
やがて、闇が俺を包む。
ゆっくりと堕ちていく静寂。
夢とうつつとの狭間で、確かなものは、
腕に抱いたやわらかな感触と、俺を受け止めるぬくもり。
やすらぎ・・・とは、ちがう。
だけど、
こんなのも、嫌いじゃない。
どれくらいの時間が過ぎたのか、
頬に触る彼女の髪が、揺れた。
腕がふいに軽くなる。
空気が動いて、香りが立つ。
目を開けた俺の目に映るのは、
白いシーツさえまとわない、生まれたままの、細いシルエット。
「まだ、時間はある?」
「ああ、たぶん」
応えた俺に、彼女は、微笑んだ。
「シャワー、浴びる?」
「う~ん・・・」
「煙草? なにか飲む?」
俺は体を起こして、ベッドから離れようとする彼女を引き戻す。
「なあ、もう一回」
肩を抱いて、耳元でささやく。
「もう一回だけ、しよ」
ゥふッ・・・
声には出さずに、彼女が恥ずかしそうに微笑った。
まるで、まだなにも知らない少女のように。
せやけど、次の瞬間、俺を見上げた彼女の表情が、
妖しい力で、俺を虜にする。
「本気?」
紅をひかなくても赤い唇が、闇の中で、すうっと、俺自身に近づく。
瞬く間に波がたち、渦が巻く。
抑えきれずに湧き上がる・・・感情? 欲情・・・?
ぽつん、とひとつ音がする。
ひとつ、また、ひとつ。
バラバラな音が、俺の耳に聞こえてくる。
不確かなメロディが、やがて俺の身体を支配し、
鎖のように、それらは俺を縛っていく。
俺は逆らいもせず、それを受け入れる。
この一瞬があるから、
離れられない、離したくない。
不自由さも、また、二人でいることの証だと、分かってはいる。
それすら楽しむことが、二人ならできる、と。
なのに、いつも一緒は、荷が重い。
会えるときに会えるだけでいい。
そんな関係・・・無責任、か?
それを、愛と呼ぶんは・・・無理がある、か?
せやったら、愛って、なんや?
答えは、あるんか?
「ここに私がいるわ。それが答えよ」
俺を抱き、包み、癒しながら、
途切れたメロディの代わりに、聞こえた彼女の言葉。
見上げた、彼女の瞳。
ええんやな、それで。
間違ってないんやな。
ついて来いよ。
おまえの、たった一人のヒーローになってやる。
俺は一気に、高みを目指し駆け上る。
刻んだリズムに、弾ける音、音、音。
脳裏の五線譜は、音符の羅列。
俺の声が、そこにノッた時が、完成の瞬間。
まだ、だ。
もう少し、もう、あと、一音。
俺は、足りない音を探し続ける旅に出る。
Fin.