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ウォン・カーウァイ『2046』

2008-01-20 01:22:58 | 映画
『2046』 2046
(香港/中国/フランス/ドイツ、2004、129min)

 監督・製作・脚本:ウォン・カーウァイ
 撮影:クリストファー・ドイル、クワン・プンリョン、ライ・イウファイ
 美術・編集:、ウィリアム・チョン

 出演:トニー・レオン
     コン・リー、フェイ・ウォン、チャン・ツィイー
     カーリナ・ラウ、マギー・チャン 他


 『花様年華』の最後に、スー・リーチェン(マギー・チャン)との記憶をアンコール・ワットに永遠に封じ込めようとしたチャウだが、しかし永遠なるものに封じ込まれたのはチャウ自身の魂であり、過去の囚われ人となったチャウのその後を描いたのがこの作品ということになる。1966年、シンガポールでギャンブルの泥沼にはまっていたところを助けてくれたスー・リーチェン(コン・リー)という女賭博師と別れ、チャウは香港に戻ってくる。ここからのストーリーの軸となるのは四つのクリスマス・イヴ。

 1966年 シンガポールにいた頃、知り合ったルル(=ミミ)と再会する。
 1967年 隣室(2046号室)に住むバイ・リンとの仲が深まっていく。
 1968年 ホテルの支配人の娘、ジンウェンにプレゼントをする。
 1969年 スー・リーチェン(コン・リー)との再会を期してシンガポールに向かう。

 新聞のコラムと三文小説を書きながら、チャウは刹那的な快楽の中に生きている。ルルはオリエンタル・ホテルの2046号室に住んでいたが、チャウがそこに訪ねていったとき、すでに惨殺されていた。チャウは再び2046号室を借りようとするが、改装の必要のため、その隣の2047号室を借りることにする。ここで彼は『2046』という、ゴダールの『アルファビル』を思い起こさせるようなSF小説を書きはじめ、この執筆中の小説がエピソードとして挟み込まれていく。小説に描かれた“2046”は人々が失われた「愛」-「記憶」を取り戻しに行く場所だが、主人公はそこから戻ってきてしまう。そして帰路、アンドロイドの乗務員に恋をするが、彼女はその愛を拒絶する。

 2046号室からはジンウェンの日本語の独り言が聞こえてくるようになる。日本人との叶わぬ恋に精神に変調をきたし、ジンウェンは一旦チャウの前から姿を消し、2046号室には若いバイ・リンが越してくる。飲み友達からはじまり、一晩10ドルの関係へと進んでいくなかでバイ・リンはチャウとの恒常的な関係を求めるが、チャウはその思いに応えようとせず、バイ・リンはチャウの元を去る。入れ替わるようにジンウェンが戻ってくる。ジンウェンと日本人の恋人との関係の媒介者となりながら、二人で武侠小説を書くことで親密になっていくチャウだが、心惹かれていくようになったとき、ジンウェンは日本へと旅立ち、日本人青年と結婚する。チャウもスー・リーチェン(コン・リー)に会いに行くが、彼女の行方は知れない。1年半後、今度はバイ・リンと再会するが、それ以上の進展があるわけでもない。

 ここでの4人の女性との関係は、彼が書く小説『2046』同様、ハッピーエンドとはならない。つまるところ、それらはかつてのスー・リーチェン(マギー・チャン)との関係の反復に過ぎず、彼は自らを愛から隔てられた者と自己規定して臨むか、あるいは関係を「愛の代替品」と見なしてしまうからだった。したがって、映画『2046』はこうしたスー・リーチェン(マギー・チャン)との愛の記憶をめぐる物語であるといえる。そして、チャウは4人の女性との関係を通じて、かつてスー・リーチェン(コン・リー)に言った「君が過去から解放されたら、いつでも訪ねてきてくれ」という言葉が実は自分自身に向けられた言葉であったことに気づくまでの物語なのだった。したがって劇中の小説『2046』もまた未来を舞台とし、主人公を日本人青年としながらも、そこにチャウ自身が色濃く投影され、彼自身の過去を志向する。

 それと同時に、この映画は政治的なものも含意しているように思う。1967年の対英暴動の映像がインサートされるのもそのあらわれだろう。そして、そうした見方は昨日の記事で、ある程度まとめておいた。付け加えるとするなら、シンガポールで出会ったルルとの関係は、香港が辿ることはなかった同じ植民地=自由港としてのシンガポール的な可能性、日本へと去るジンウェンとの関係は香港から見た可能性としての日本が投影されているのかも知れない。限定を伴うバイ・リンとの関係は、あるいは2046年までの期限付きの体制、または「本来ない場所」としての香港そのものなのかも知れない。そして、未来の見通しも、答えも見えないまま宙吊りにされた閉塞感と遮蔽物で狭く区切られ続ける画面の呼応。






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