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ギスラン・クロケーについてのメモ

2009-07-30 20:59:25 | 映画
 「ロシュフォールの恋人たち」の冒頭から双子の姉妹の歌までの一連の流れはこれからはじまる映画への期待を否応なく高められる見事なオープニングだ。その期待感はいうまでもなくミシェル・ルグランの見事なスコアによってもたらされる。しかし、その期待感の絶頂は、滑らかに移動しつつ群舞を捉えたあと脚立をもって祭りの準備に取り掛かったエティエンヌ(ジョージ・チャキリス)らを追っていくカメラがどこからか聴こえてくるピアノの音を辿るように上昇し、そのまま祭りで踊る少女たちのレッスンをする姉妹の部屋の窓から滑りこんでくところにある。撮影監督は「ロバと王女」でもドゥミとコンビを組んでいるアントワープ出身のギスラン・クロケー。クレーンも用いた数々のダンス・シーンでのカメラ・ワークが印象深い。

 クロケーといえば、アラン・レネの「世界のすべての記憶」について書いた記事で、パリ国立図書館内を自在に動き回るカメラの魅力について書いたことがある。レネというと、サッシャ・ヴィエルニーの夢魔的な移動撮影が印象深いが、クロケーはそのヴィエルニーとともに「夜と霧」に参加していた。

 ところでクロケーは「ロシュフォールの恋人たち」の前後にはブレッソンの「バルタザールどこへ行く」と「少女ムシェット」に参加している。(ドゥミは「ブローニュの森の貴婦人たち」の作家への敬意を公言しているが)まったく肌合いが異なるといってよいふたりの映画監督の要求にクロケーは的確に応えている。81年に亡くなったクロケーはその晩年、ポランスキーの 「テス」でアカデミー賞も受賞している。この作品がクロケーの仕事ではもっともポピュラーなものだろう。ただし、その代表的仕事は50年代後半から70年代初頭に集中している。ベッケルの「穴」、マルの「鬼火」もクロケーだった。

 また、このころクロケーのアシスタントをしていたのがエマニュエル・マシュエル。「ロシュフォールの恋人たち」にも参加している。ブレッソンの「ラルジャン」でその名を記憶し、近年ではペドロ・コスタの「溶岩の家」や「骨」、そしてマノエル・ド・オリヴェイラの「クレーヴの奥方」、「永遠の語らい」など一連の作品でも印象深い名カメラマン。特典ディスクにはヴァルダによる「ジャック・ドゥミの世界」というドキュメンタリーが入っており、そこでインタビューに答えている。




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