文庫化されたので小川洋子「博士の愛した数式」を読んだ。どーもぼくの最近の読書は結果的になのだが、出版社のパブにまんまと乗ってしまっているようだ。この小説もまもなく映画公開されるらしい。それで文庫化だったわけねと思ったときには、読み終わっていたのだった。
これは一種のメルヘンだ。家政婦組合や阪神タイガースという実社会に存在する小道具や装置がいろいろちりばめられているけれど、博士の住む離れは、童話の森のような異空間で、そこにこの親子は迷い込んでしまい、博士のあやつる数式という魔術にとらえられてしまうのだ。だから、ぼくたちも一緒になって数の不思議に驚き、日常にあふれている数を楽しめば、まるで世界は、数の妖精たちに囲まれているように見えてくるではないかいな。
さて、博士が愛したのは素数。自分と1以外に約数をもたない、いわば何者にも変身しない孤高の数字だが、これまでに発見された世界最大の素数は、781万6230桁の数であるとか、最近3になってしまった、なぜかオイラーの数式の右肩にのっかているΠの計算は、2061億5843万桁まで解明されているとかという知識を得ると、やっぱり私の愛したパイは、ブラウスのボタンの隙間から黒子が見えるあのパイ以外にないなとメルヘンの世界からステップ・アウトするのだった。
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