ちゅう年マンデーフライデー

ライク・ア・ローリングストーンなブログマガジン「マンフラ」

漫☆画太郎を読んで貸本マンガを思うこと

2007年09月10日 | 
 山田芳裕『へうげもの』第5巻(5服)、漫☆画太郎『世にも奇妙な漫☆画太郎1』、さいとう・たかを画『鬼平犯科帳』1、2巻を買って、シルヴァーナ・マンガーな休日。ついでに、唐突ながらペンネームを思いつき、雅島春日和(がとう・はるびより)とした。かのアルゼンチンの咆哮テナーマン、ガトー・バルビエリにちなんだ。

 マンガついでに、図書館で貸本マンガ史研究会編・著『貸本マンガRETURNS』(ポプラ社)を借りたので、自分の貸本屋体験を思い出しながら、ついでのついでに、大分前に買った文春文庫『幻の貸本マンガ大全集』を引っ張り出してきて読んだ。収録されているのは白土三平、さいとう・たかを、永島慎二、佐藤まさあき、楳図かずお、佐藤まさあき、滝田ゆう、平田弘史、小島剛夕など後の大看板から、無名作家の作品まで多彩。いずれも1960年前後の短編だが、改めて読んでみて驚いたのは、こま割や画面展開は、後の劇画に比べれば単調だが、プロットがしっかりしていることだった。現在のように作画と原作が分業化されていない時代、小説の模倣もあっただろうが、プロットに知恵を絞っていること、それをいかにマンガ(劇画)として表現するか、さまざまに挑戦していて、それぞれの作家の意気込みが感じられるのだ。ことに墨ベタの使い方など、画面構成にも映画の影響などが現れており、全体的にこの時代のマンガのレベルの高さがあって、いまのマンガがあると思うのだった。

 さて、貸本マンガ史研究会は、『季刊・貸本マンガ史研究』という研究誌も出していて、最新号には「追悼:佐藤まさあき」『追悼:永島慎二』などのタイトルが表紙を飾っていた。永島慎二が亡くなったのは新聞でも知ったし、映画化などがあって一時再評価もされたけれど、佐藤まさあきをしっかり追悼している雑誌などこの雑誌くらいではないか。そういう意味でとても貴重な活動ではないかと思うのだ。

 佐藤まさあきは、当時(昭和30年代後半)貸本マンガ界ではすでに大御所だったはず。『影』とか『街』などだったと思うが、そうしたか資本マンガ雑誌の看板を張っていたのではなかったか。体のバランスが悪く、決して絵がうまいとはいえない画風なので、僕は好きではなかったのだが、その強烈な暗い作風は一度見ると忘れられなかった。新東宝映画の天知茂的な暗さなのだ。

 僕の漫画体験として貸本屋の存在は大きなウエイトを占めている。『少年画報』『少年』『冒険王』などの月刊誌から『少年マガジン』『少年サンデー』『少年キング』などの漫画週刊誌へ移行する時代、ちょうど小学生のときだが、少年誌だけでは読めない多様な漫画を体験できたのは貸本屋のおかげだった。貸本マンガはかなり悪書としてバッシングされたようだが、マンガに寛大だった両親のおかげで、さすがにエロマンガは小学生に貸してくれなかったが、ずいぶんいろいろな作品を読んだ。

 僕が好きだったのは、さいとう・たかを「台風五郎シリーズ」、滝田ゆう「カックンおやじ」だ。台風五郎は、よくノートに模写したが、2シーターのスポーツカーを乗り回す日活アクション風の明るいキャラクターと絵のうまさに魅かれた。「カックン」は、笑いに由利徹的なちょっとお下劣なところがあって大好きだった。そのほか強烈だったのは平田弘史の残酷武士道マンガか。戦記マンガもたくさんあって、特攻隊マンガの残酷シーン(敵の攻撃でゼロ戦が炎上し、主人公の顔が燃えながら、肉が落ち、骸骨になりながら敵艦に突っ込む。その変化が現在のホラー映画のCG画像のように克明に変わっていくシーンがあった)が夢に出てきたことがあって、戦争には行きたくないという意志が芽生えたきっかけになった。

 僕がよく通っていたのは『だるま書房』という間口一間半、四畳半ほどの小さな本やで、人一人が通れるくらいの通路というか隙間以外は、壁面と真ん中の書架と平台にびっしり本が並んでいた。小学2年、自転車が乗れるようになったばかりだったので、家から自転車で5、6分の『だるま書房』へ毎日のように通った。たぶん3冊くらいしか借りられなかったはずだ。さらに理髪店にいくと、必ず旬を過ぎた『影』など、貸本屋でお払い箱になった貸本マンガが再利用されて散髪を待つ男性客に読まれていたものだ。人間の暗い面ばかり描いた貸本マンガのどこにそんなに魅了されたのか分からないが、素顔を見せられない月光仮面、親がいない赤胴鈴之助、人間になれない鉄腕アトム、あの頃のヒーローはみんな悲しさを背負っていたのだった。

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