三島は癖になる。あのくどいデコラティブな文体が、また誘うのである。で、今度は「愛の渇き」。そういいながら、本編より新潮文庫の吉田健一の解説が名文でいい。「名文」に出会えるのは最近少ないだけに、この文庫は“買い”だ。
後半、終幕の殺人に向かって堕ちていく、その虚無の疾走感に主人公の悦子は悦びを感じている。だから、名前が悦子。「美徳のよろめき」は、貞節を捨てるから節子。名前は平凡だけど、みんな凡庸と退屈が嫌いな女たちなんだよね。でも、なぜ、女主人公なのか。ボディビルでマッチョになった三島が、女のこころと身体を借りて愛だとか罪だとか幸福だとか虚無だとかを語っているというのは、気持ちわりーっていえばキモイ。それは別にして、遺作の「豊饒の海」4部作みたいなくどさや、破綻はないし、三島作品の中ではまとまりがよくて比較的あっさり味(これでも)だと思うけどなー「愛の渇き」は。
映画にもなった。浅丘ルリ子で。(助監督が藤田敏八だったはず)この頃から、ルリ子は魔性の女っぽい役をやるようになったんじゃないかな。横尾のポスターにヌードで描かれたり、「愛の化石」なんて歌をうたってヒットしていたぞ。
そんなわけで、あの頃のルリ子の大きな瞳とめくれた唇とストレートの長い髪をときどき思い出しながら(この小説にはじゃまだけど)読んだ「愛の渇き」なのだった。