goo blog サービス終了のお知らせ 

ちゅう年マンデーフライデー

ライク・ア・ローリングストーンなブログマガジン「マンフラ」

ヴェンダース「PERFECT DAYS」を聴く

2024年01月20日 | 映画

映画のテーマはこもれび。komorebi。光と影のゆらぎ。名作と言ってよかろうヴェンダース監督「パーフェクト・デイズ」で役所広司演じる主人公平山が聴くカセットの音楽をYouTubeで集めてみた。

最後の朝日楼は、スナックのママ石川さゆりが客の求めに応じて、あがた森魚のギター伴奏で歌う浅川マキ作詞の朝日のあたる家。アニマルズ版は映画の冒頭で平山が車中で最初にかけるのがこの曲。朝日楼は浅川マキもよいが、ちあきなおみも絶品。亡くなった八代亜紀にはぜひ歌ってほしかった。映画のタイトルはルー・リードの曲から引用されているわけだが、とりわけラストでかかるニーナ・シモンには泣ける。ぜひ劇場の素晴らしい音響で。 

THE HOUSE OF THE RISING SUN  The Animals

「朝日のあたる家 The House of the Rising Sun」アニマルズ、The Animals (youtube.com)

PALE BLUE EYES  The Velvet Underground

Pale Blue Eyes (youtube.com)

THE DOCK OF THE BAY   Otis Redding

Otis Redding - (Sittin' On) The Dock Of The Bay (Official Music Video) (youtube.com)

REDONDO BEACH   Patti Smith

Redondo Beach (youtube.com)

(WALKIN’ THRU THE) SLEEPY CITY  The Rolling Stones
(35) [Walkin' Thru The] Sleepy City - YouTube

青い魚  Sachiko Kanenobu

Sanchiko Kanenobu - Aoi Sakana (Blue Fish) (youtube.com)

PERFECT DAY  Lou Reed

Lou Reed - Perfect Day (Official Audio) (youtube.com)

SUNNY AFTERNOON  The Kinks

The Kinks - Sunny Afternoon (1966) 4K (youtube.com)

BROWN EYED GIRL   Van Morrison

Van Morrison - Brown Eyed Girl (Official Audio) (youtube.com)

FEELING GOOD  Nina Simone

Nina Simone - Feeling Good (Official Video) (youtube.com)

朝日楼

Maki Asakawa 浅川マキ 「 朝日楼 (歌詞付) 」 (youtube.com)

ちあきなおみ 朝日のあたる家 Naomi Chiaki - House of The Rising Sun [Live] 1989 (youtube.com)

 


年末のどさくさに紛れて

2023年12月08日 | 映画

年末のどさくさに紛れて「ゴジラ―1.0」「首」を観た。

ゴジラは戦争で死ねなかった男たちによる戦没者の霊鎮めかね。

「首」、合戦シーンは風雲たけし城でお手の物。

秀吉、官兵衛、秀長のトリオ漫才が楽しいが、秀吉はほかの役者に

してほしかったな。たけしだけが化けられないのだよな~。

 


クソ暑いからマッド・ハイジで納涼大会

2023年07月31日 | 映画
クソ暑い休日、ならば暑気払いになるような映画をと新宿武蔵野館でR18指定の「マッド・ハイジ」を鑑賞。あの「アルプスの少女ハイジ」が成長して、恋人(黒人のペーター)や祖父(片目眼帯のおんじ)を殺した独裁者に復讐するという、エログロナンセンスなスイス製アクション映画。
監督はヨハネス・ハートマンという素性はよくわからないスイス人らしいが、明らかにタランティーノフリークで、このハイジも元ネタはタランティーノ経由の「さそり」だろう。復讐と女収容所での格闘、脱獄、変態的な収容所長(ロッテンマイヤーならぬロッテンワイラー)、暴力的な女囚などなど、ハイジはナミかと思いつつも、上映時間92分という適切な時間に収めたところはB級感たっぷり。マッターホルンを背景のアルプスの大自然に展開されるスプラッターは、思わず笑ってしまう。
何よりもスイスという国を徹底的におちょくっていて、永世中立国スイスと言った好感度イメージを粉砕してしまうのが面白い。1分遅刻しただけで時計の国に相応しくないと処刑されたり、ビクトリアノックスでは人は殺せないとか、何よりも独裁者が作るチーズしか食べることは許されないチーズ独裁国家スイスという設定に、これはチーズ嫌いな製作者が作ったに違いないと思った次第。
冒頭から情事を終えた裸のハイジとペーターのベッドでの会話から始まるあたりから期待大だったが、エロな部分はほとんどなくて、もっぱら血しぶきゆえの18禁映画でありました。ハイジとさそりを易々と合体させてしまう、こういういい加減さがまかり通るから映画は面白い。

 

タイトルはイマイチだがアルトマン「雨に濡れた舗道」はサイコスリラーの傑作

2023年06月04日 | 映画

ロバート・アルトマン監督の長編3作目1969年の「雨に濡れた舗道」を角川シネマ有楽町で鑑賞。日本語タイトルは最悪だが(原題はThat Cold day in the park)、タイトルからは想像できないサイコ・スリラーの傑作。というかアルトマン特有の変態的心理劇というべきか。ストーリーは、裕福な独身女性フランシスが家の窓から見える公園のベンチに雨の中ずぶ濡れになっている若者を見つけ、助けたのがきっかけで2人の間に奇妙な関係が生まれ、やがて女性の中に眠っていた狂気が目覚めていくというもの。
ありそうなお話なのだが、徐々に狂気へ至るフランシスの心の変化を、鏡や影、ドキュメンタリー的な手法などを駆使して展開していく。冒頭、ホームパーティに友人を招いていながら、窓の外の雨に濡れる若者が気になって仕方ないフランシスの、それを悟られまいとする無表情から、いずれ何かが起こるとは想像がつくのだが、サプライズ的な演出もことさらサスペンスフルな場面もなく、とにかくじわじわと怖さが染み出してくるような映画なのである。忘れられた傑作の一つだろう。
カメラは「イージー・ライダー」も手掛けたラズロ・コヴァック、主演のフランシスをサンディ・デニスが演じている。日本初上映の初期作品「イメージズ」、傑作「ロンググッドバイ」も上映中。


ジョニー・マーサーの曲がたっぷり聞けるイーストウッドの快作「真夜中のサバナ」

2023年05月31日 | 映画

今日はクリント・イーストウッドの93歳の誕生日。そんなわけで、イーストウッド監督作品で最も人気のなかったとも、失敗作とも言われるのですが、僕の大好きな映画の一つである「真夜中のサバナ」を。

イーストウッド監督作品としては20作目、あの「マディソン郡の橋」の後の作品で、本人が出演していないのは「バード」以来。そんなことより、舞台になっているジョージア州サバナは、作詞・作曲家として知られるジョニー・マーサーの生誕地。実際この映画でもマーサー邸が舞台になっているのですが、とにかくマーサーの曲がたっぷり聴けるというのが魅力。イーストウッドはマーサーのドキュメンタリーも作っているくらいで、この映画もマーサー愛に溢れたフィルムです。


ドン・シーゲル監督「殺人者たち」はナンシー・ウィルソンが歌うToo Little Timeとシェルビー・コブラの暴走の競演に酔う

2023年03月02日 | 映画

とある仕事がひと段落して、無性に映画館で映画が観たくなる。間違いなくこれぞ映画という映画が観たい。そうだ菊川のStrangerでドン・シーゲル特集をやっているではないか。時間を見れば「殺人者たち」(1964年作品)に間に合いそうだ。

全国広しといえどドン・シーゲルをまとめて観られる映画館なんてここしかない。リー・マービン、アンジー・ディキンソン、ジョン・カサヴェテス、ロナルド・レーガンというキャストを聞いただけでぞくぞくする。

冒頭、クローズアップの黒眼鏡に映る黒眼鏡の男リー・マービン。ずかずかと2人で盲人施設に入ってゆき、受付の老女を恫喝し、挙句におもいきり床に叩き落すという荒業。リー・マービンの相棒クルー・ギャラガーは、花瓶の花を抜いて水を机に意味もなく流し、呼び鈴をチンチンとこれも意味なく鳴らし続ける。その後2人は銃を取り出し、マービンは皮の鞄から、いかにも重たそうなサイレンサー付きのコルトを取り出す、二階へ上がり、お目当ての標的ジョン・カサヴェテスにこれでもかと銃弾を浴びせ、さっさと施設を後にする。この一連のシークエンスの無駄のない展開とアクションに、ああ、今日はこの映画にしてよかったと心底思うのだった。

そして殺人のあといきなり走る列車のショットに代わり、コンパートメントで向かい合う殺し屋二人に切り替わる。これもまた見事な展開だ。こんな塩梅にこの映画の魅力を語っているとキリがないのだが、映画的な拵えのすばらしさだけでなく、この映画はいろんな楽しみ方ができる点でも稀有な作品だ。

まず、政治家になる前のドナルド・レーガンが重要な悪役として出演していること。レーガン最後の長編映画と言われている。

レーガンとその情婦のアンジー・ディキンソン

また、レーサーのジョン・カサヴェテスがレースで乗る車が、1962年デビューして間もないシェルビー・コブラ260で、フォードの4.2ℓV8エンジン搭載の車の爆走が観られるのも楽しい。映画の中ではレース中の事故で炎上するのだが、この炎上シーンは、レース場で実際に起きた事故の映像だという。

さらに、カサヴェテスを色気で悪の道へ引きずり込むファム・ファタル、アンジー・ディキンソンが、カサヴェテスと2人で踊るナイトクラブの歌手が、ナンシー・ウィルソン。そこでピアノトリオをバックに歌っている曲が「Too Little Time」。ヘンリー・マンシーニが「グレンミラー物語」のテーマ曲として提供した曲で、映画のその後の展開を考えると、まさにつかの間のお楽しみではある。こういうところも泣かせます。ところで、ナンシーは生涯70枚以上のアルバムを残し、いわゆるスタンダードといわれる曲はもれなくアルバムにしているのではないかと、この曲を歌っているアルバムを検索してみたのだが、全くない。だから、ナンシーの歌は「殺人者たち」でしか聞けないのである。とても素敵なバラードなので、トロンボーンのビル・ワトラスとヘンリー・マンシーニ楽団の演奏とアニタ・カーシンガーズのコーラスをはっておこう。

Henry Mancini & Bill Watrous, 'Too Little Time' - Bing video

Henry Mancini & Bill Watrous, 'Too Little Time' - Bing video

 

ちなみにこの映画の音楽は、ジョニー・ウィリアム、のちの映画音楽の巨匠ジョン・ウィリアムズであります。

映画の終わり近くで、アンジーを連れてホテルから出てくる暗殺者ふたりが狙撃される俯瞰ショットに続き、ライフルのケースを肩にかけたレーガン、そしてレーガン亭でアンジーと落ち合う室内シーンから一気に爆走してくるリー・マービンのセダンの画面に切り替わる展開は素晴らしい。これこそ映画だと大満足の夜なのだった。

モノクロ三作は未見

札束をにぎったレーガン

 


レジェンドというならなぜ中島貞夫監督に撮らせないのか東映70周年のレジェバタの残念なわけ

2023年02月07日 | 映画

竹箒が路上の枯葉を掃くクローズアップのショットから始まり、やがてそれが何かを迎え入れるための城内へ続く道の清掃だったことがうかがえるロングショットに切り替わる。何かがやってくる気配に、城門の周辺ではしゃいでいた悪童たちが、道の向こうを見渡せる櫓へと走り出す。その先頭をリーダーと思しき男が、三層の櫓の階段を一気に駆け上がる。これをワンショットで捉えたカメラの動きに、何かが始まる期待感が高まる。城内に迎えたのは輿入れの帰蝶(濃姫)一行だが、ここから信長と帰蝶の初夜までのアクションは悪くない展開だ。とりわけカメラの芦澤明子のカメラワークはこの映画唯一の救いと言ってもいいだろう。このカメラあってこそ、綾瀬はるかの卓越したアクションも生かされていると言える。また、東映京都のセットづくりや美術はさすがだと思わされた。


だが、この映画の良いのはここまでで、この後本能寺の変まで続く、信長と帰蝶の30年のラブストーリーは、なぜこの二人が惹かれ合うのか明確な場面もない。足利将軍の案内役で京へ上った時、平民の格好で市中へ出かける二人が唯一夫婦らしい振る舞いで、この時信長が帰蝶に送った置き物がその後の二人を結び付けている証として示されるが、シンボルとしての求心力に欠ける。


摺の非人の少年を追いかけてその部落へ迷い込んだ末に、その老若男女を切りまくる二人とその後のまぐわいにどんな意味があったのか。信長を普通のヤンチャな男として描きたかったのだろう。聡明な帰蝶に対し、信長はただのうつけで、決断力もない暴君。それには木村拓哉の素がうってつけだったとしても、信長をそこまで引きづり下ろす意味が果たしてあったのだろうか。挙句にうつけが魔王へと変わり、その資格を失って光秀に討たれるという、よく分からぬ展開。


脚本は、大河ドラマ「どうする家康」と同じライターだが、歴史的に偉人と言われている人物を現代的な味付けでの悩める人として描き、それが聡明な女性の登場によって成長の階段を登っていくというのはどちらも同じだ。映画は帰蝶、大河はお市である。だが、どちらの作品もこの二人が一緒に登場することはない。この映画でもお市など全く存在しないかのように影も形もないのである。


もちろんフックションなのでどんなストーリーで描こうと勝手だが、一本の作品としての説得力は必要だろう。歴史の出来事をすっ飛ばしすぎたため、信長がなぜ魔王というまでになったのかわかるような場面がない。比叡山攻略の殺戮は結果であって、魔王が前提のふるまいだ。結局、信長と帰蝶のラブストーリーに絞ったため、だがその展開に極めて重要であろう歴史的出来事が端折られてしまった。だからなぜこの二人が惹かれ合うのかが一向に分からない。


そもそも東映は、何がしたかったのか。当代きってのスター二人の組み合わせならヒット間違いなしと踏んだのだろう。監督も脚本も旬の二人。だが、どう考えても映画ではないのだ。テレビの連続ドラマの作りなのだよ。それでもう少し作り込めばテレビとしては面白い作品になったかも知れぬ。


映画、せめて長くて2時間にでもまとめるつもりでスタートしていれば、こんな無様な作品にはならなかったのでは。さらに言えば、レジェンドというなら、時代劇に長けたあの中島貞夫監督がいるではないか。なぜ、このレジェンドに撮らせないのか。それこそ東映三角マークへの敬意というものだろう。


製作費20億と言うには、主役以外の配役はしょぼいし、戦国もので合戦シーンがないとは、一体どこに金を使ったのだろうと、突っ込みどころ満載の映画なのだった。それにしても木村拓哉は、撮影所育ちもしくは国際的に評価された監督の映画にメインで出ているのは「武士の一文」くらいしかない。そこがスターとは言え、この人に決定的に欠けている経験なのだ。まだまだ映画スターなどとは言えない存在なのだ。だからこそ中島貞夫監督に撮らせたかったのだが。

今年70歳になる身としては、東映映画とともに生きてきたと言ってもいいのだが、70年を祝う映画がこれでは、ちと寂しい。

こんなポチ袋がモギリのお姉さんから貰えた。


あのキツネは本物?CG? グリーン・ナイトの水先案内人

2022年12月07日 | 映画

デヴィッド・ロウリー監督「グリーン・ナイト」はミゾグチの「雨月物語」や「雪夫人絵図」の一場面を彷彿とさせる。とりわけ旅の途中で出会う、泉のなかの自分の首をひろってきてくれという女の幽霊と小屋から泉へ下っていく横移動のシーンなどはミゾグチそのものではないか。

それにしても途中から旅の水先案内人になるキツネの動きが素晴らしくて、これは本物なのかCGなのかと考えるのも面白い。丘の向こうの霧のようななかをゆっくりと動く女人の巨人も素晴らしい。冒頭、娼館で目覚めてからアーサー王の宴席に列席し、グリーンナイトが登場するまでのテンポの良いカメラワークが一気にファンタジーの世界へ観るものを引きずり込んでいく。あまり評判にならないが、シネコンで観られる最良の作品と思う。


バーバラ・ローデン監督「WANDA」は傑作

2022年08月03日 | 映画

バーバラ・ローデン監督「ワンダ」(1970年作品)を、渋谷のシアター・イメージフォーラムで鑑賞。ローデン監督はあのエリア・カザンの23歳年下の妻で、本作は、主演と監督をバーバラが務め、処女作にして遺作という伝説的な映画。というのも38歳でこの映画を作りその10年後、癌で48歳にして亡くなってしまったからだ。
16ミリで撮影し35ミリスタンダードサイズでの上映。ざらついた画面とドキュメンタリー風の手持ちカメラの生々しさ、それでいて映画の骨法をわきまえた無駄のないショットと話法は、音楽を一切使わないだけに観るものに緊張感をもたらす。70年代といえばアメリカン・ニューシネマがもてはやされたが、この傑作の前では、お遊びに過ぎないと言わざるを得ない。
酒を飲む他、子育てや家庭生活になじめないペンシルベニアの炭鉱の主婦ワンダが離婚を機に、偶然飛び込んだ酒場にいた小悪党のデニスと行動を共にし、犯罪に手を染めていくというロードムービー。運転はできるかと聞かれて、なんとかなる的な答えをしたワンダのドライビングシーンはドキドキだ。助手席のデニスに向かって話しかけるワンダを助手席からとらえてショットに、お願いだからワンダ前を向いてくれと呟いてしまうのだった。ちなみにこの運転のシーンは「勝手にしやがれ」のミシェルの運転シーンを思い浮かべてしまう。

それにしても泥沼のベトナム戦争の最中、厭戦気分が高まってきた時代のはずだが、「ワンダ」では不気味なほどその気分が感じられないのだった。傑作です。


成瀬巳喜男松竹時代のサイレント映画を観る

2022年06月28日 | 映画

松竹時代の成瀬巳喜男監督1933(昭和8)年のサイレント映画「夜ごとの夢」(64分)「君と別れて」(72分)を、池袋の新文芸坐で観る。「夜ごと~」は港町のカフェで働くシングルマザーが、息子を育てながら自立して生きていく困難さを描いたドラマ。「君と~」は、家族を養うため芸妓になった若い女性と先輩芸者の一人息子との恋と苦悩を描いたもの。

成瀬監督3年目の作品だが、すでに30本近い作品を撮っていて、「夜ごと~」では当時のトップ女優である栗島すみ子が主演を務めている。また、「君と~」の若い芸妓を演じた水久保澄子は、若いころの浅丘ルリ子を思わせるかわいらしさで、すっかりファンになってしまった。

両作品で成瀬監督は、様々な撮影技法を試しているかのようで、そのショットが何か生々しい高揚感をもって観るもの刺激してくるのである。「夜ごと~」の父親役斎藤達夫の強盗、逃亡から始まる後半のスピード感のある目まぐるしいカット割り、鏡、橋、水、階段といった成瀬的な主題の展開。「君と~」の電車内の座席に並んだ男女二人を正面からとらえたショットと、その二人を車外からとらえる切り返しの見事さ。光と影のドイツ表現主義的な使い方などなど、2本で2時間ちょっと。最近の映画は2時間を退屈に過ごすことも少なくないが、充実した映画体験だった。

今回の上映は、澤登翠、片岡一郎が弁士。また「夜ごと~」は古賀政男作曲「ほんとうにそうなら」が主題歌になっている。これは赤坂小梅のデビュー曲で、古賀初の三味線歌謡だった。もちろんサイレントなので実際に音は出ないわけだが、おそらく松竹とコロンビアのタイアップ企画だったのだろう。今回の上映では、タイトルのバックミュージックとしてこの歌が使われていたが、歌詞の内容も曲調も映画の内容には全く合わなかった。また、明治製菓もタイアップしているらしく「夜ごと~」では無職の父親の靴底の穴を子供が明治キャラメルの箱で繕う場面や、「君と~」では、電車の中で芸妓の娘と学生が明治チョコレートを分け合う場面があって、かなり露骨なプロモーションが展開されているのがおかしかった。(お菓子だけに)

サイレント映画に弁士がつくというのは日本の独特の文化で、今回は弁士50年のベテラン澤登翠と弟子の片岡が演じた。弁士もいわば伝統話芸として継承していくことはよいことだが、僕はサイレント映画を観るためには、むしろ不要という立場だ。

当日は、中央の席はほぼ満席で、年配の方が多かった。恐らく弁士の話芸を楽しみにしてきた方も多いだろう。しかし、どうしても弁士の口上に引っ張られるし、強制されるのが煩わしいとも感じた。無声で観たかったかな。