以前のように、全部引っ張りまくってたほうが、
そこそこヒットも出るんじゃないかなんて、
ちょっとそんな乱暴なことまで考えてしまうくらい、
ついこの間までの坂本のスイングは精彩を欠いていた。
プルヒッターに徹していても、
坂本はそこそこ成績を維持できていたろう。
今季の坂本を見ながら、そんなことをふと思い浮かべ、
何年か前に自分が書いた坂本の記事を思い出した。
それまで殆どの安打を左方向に飛ばしていた坂本の打球が、
右方向にも飛び始めたと感じたのが、その記事を書いた2012年だった。
2012年は坂本が最多安打を長野と分けたシーズンである。
前年の2011年は、あの飛ばないボールで多くの打者が苦しんだシーズンだ。
坂本もその年は本塁打、打率と前年を下回って全体的に成績を落とした。
ジャイアンツでは、小笠原、ラミレスも極端に本塁打数が落ち込み、
ある意味、彼らの転換期ともなったシーズンでもある。
ファンにとっても印象深いシーズンになった。
前述したように、坂本はその翌年、見事に盛り返して好成績を残す。
引っ張り専門だった打撃に、幅が出始めたシーズンだった。
しかしその翌シーズンはWBCや故障の影響などもあって成績はやや低迷。
勝負強さとチーム内での存在感が増す一方で、昨年も前年から連続して成績が上がらず、
個人成績としては不本意なシーズンが続いている。
ただ、そんな中にあっても、打球の飛ぶ方向は以前よりも広角になっている。
ここぞの勝負強さが年々増しているのも坂本の凄みだ。
冒頭で書いたようにプルヒッターに徹していてもそこそこの成績は維持できていたように思えるが、
あえてバッティングスタイルの幅を広げ、高みを目指すところは、
ジャイアンツ生え抜きのスター選手という自覚と責任感、
さらに彼の向上心の成せるところだろう。
そんな思いで今季前半の坂本の打席を眺めていると、
反復する凡打の山すら、壁を越えるための足場固めに見えてくる。
坂本の目には、自分が向かうべくビジョンがしっかり見えているのだろうか。
以前、徳光さんが 「坂本はジャイアンツのジーターになれる」と力説していたことがあった。
そんな話をふられた松井秀喜が、いくらなんでもといった表情を浮かべながらも、
「彼にはそれくらいの高みを目指しジャイアンツを引っ張っていって欲しい」 と、
そんなニュアンスの言葉で応じていたのを思い出す。
徳光さんの思いには、当然、坂本生涯ジャイアンツが前提にあるだろう。
そう考えればあながち大袈裟な表現でもないように聞こえる。
原監督のアドバイスで構えたときのバットの角度をやや寝かすように修正したと、
解説者がそう紹介し始めた試合くらいから、坂本にアタリが出始めた。
それが功を奏したのかどうかは知らないが、
つい最近までまったくいいアタリが出そうになかったスイングも、
打ち始めるとバットの出がスムーズに見えてくる。
結果が出ているのだから、実際は振れてきているのだろう。
あえて高い壁をこしらえてそこに挑もうとしている坂本の姿勢。
2014年に記録した25歳5カ月での通算1000安打達成は、
NPB史上3番目のスピードで、セ・リーグ史上最年少の記録になった。
それでも、先の、さらにその先にある大打者としての高みを見据え、
坂本はイバラの道を選ぶ。
ここ何年かのモガキは、そんな坂本だからこそ挑める、
大きなチャレンジだ。
小さな波に飲まれながら、それをことどとく渡りきる若きプリンスは、
この高くて大きな壁をもいつしか飛び越えるのだろうか。
坂本勇人ならやってくれそうな気がする。
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