8月が近づくとなんだかもやもやする…
暑いからじゃなくて、経験したこともない戦争を思い出すような気になる
戦争や紛争に関する本はよく読んで、おじいちゃんの戦争体験も聞いて育ったから、
それらと想像力が相成って、なんだか過去のこととは思えないし、未来のことのような気もするし、
わたしがドイツにいたりアフリカにいたりカンボジアにいたり朝鮮にいたり、沖縄にいたりしたような気もする
ぼやぼやと頭にもやがかかって、今エアコンの中にいてアイスを食べてたりする自分が偽物のような、変な気がするのだ
この本は、新田次郎の奥さんでもある藤原ていさんが、戦後一年をかけて、夫も頼る人もいない中たったひとりで、
5歳と3歳と生後一か月の赤子を抱いて、命を削りながら、決死の覚悟で満州から引き揚げてきた体験を記したものである
大人でさえばたばたと死んでいったこの死の行軍を、出産したばかりの女が、まだまともに歩けない幼児を背中と両手に抱えて…
わたしたちはこのように生き抜くことができるものだろうか?それとも、ただ子を持つ女はこうまで強いのだろうか?
引き揚げはトラウマになるような話が多く聞かれるから、読む前は嫌だなと思っていた
多くの戦争の話は私をトラウマの海に沈めたし、五木寛之さんの話なんかはいまだに心臓が痛い
でも、彼女たちをでこっそり支えたり助けたりしたのは、日本人よりも、当時朝鮮の人々やロシアの兵士たちだった
そして、もう力尽き倒れた彼女と子どもたちを、神様の如くさっそうと現れて救い上げたのは、アメリカ軍だった
戦争というものは、ひとりひとりまったく違う仕打ちを受ける 生きるのか、死ぬのかはバカみたいな賭け事の一瞬の運だ
犯され殺され、存在の一粒も残されないで闇に消える命もあるし、慈悲のかけらもない人間が生き残ったりもする
安穏としていられない世の中に、安穏としているわたしたち、暑さにぼーっとしている場合ではないのに…