読書と追憶

主に読んだ本の備忘録です。

犬の散歩 4

2008-02-17 22:15:17 | 日記
 神社上の広場を下りると下には公園があって、ちょっとした遊具もある。子どもたちが時々遊んでいる。私が犬の散歩でそこを通り抜けるのは薄暗くなりかけている頃なので子どもの姿は見えない。そのあたりでしばらくウロウロするのだが、春あたりからブランコのそばにゴミが散乱しているのが目立つようになった。

 この公園は昔はただの空き地で、遊具もみんな壊れていたのを、氏子会や老人会が定期的に清掃整地し、昔壊れていた遊具もだんだんに修理されて公園らしくなってきたところだった。少しゴミが散乱しているだけで荒涼とした感じがするので、私は通り抜ける際に拾って帰ることにした。毎日拾った。ところがゴミはなくならない。それどころかまるで私を待ち構えているように大きな顔で派手に転がるようになった。ジュースの紙パック、おにぎり、サンドイッチ、ポテトチップス、アイス、土曜日にはお弁当のから。

 コノヤロー!誰が捨てているのだ!
 私はゴミを仕分けしながら捨てた人物を推測してみた。この品揃えからして女の子だ。(いちごミルクのアイスやオムライス弁当、野菜たっぷりサンドとヨーグルトドリンク、鶏五目おにぎりとポッキー)しかもお小遣いの額からして高校生以上。(小学生はこんなには買えない)両親共働きで多少放置気味。・・・うーん、このあいだブランコに座って楽しそうに話をしていた高校生くらいの女の子二人組があやしい。ちょっと!あなた方はここでゴミを捨てても次の日には跡形もなくなっているのををおかしいと思わないのですか?この公園はゴミが魔法のように消えてしまうとでも思っているのですか?そもそも、こんなのどかできれいな公園にゴミをぽいっと捨てることが平気なのですか?

 私は毎日毎日ゴミを拾い続けた。放置される袋は近所のコンビニのものなので帰り際そこに立ち寄ってそれらを店頭のゴミ箱に捨てる。「カエサルのものはカエサルに」
 わたしの無言の怒りが伝わったのか、ゴミはだんだん肩身が狭そうな表情をし始めた。徐々にブランコの後ろに寄り添うようになって、じりじり後退してゆき、ついにはサツキの茂みの中に隠れはじめた。ちょっとあなた方!サツキの剪定をしたことがありますか?
 そしてついにはブランコを離れ、藤棚の向こうの斜面の下に落とされるようになった。逃がすものか!私は犬を連れて斜面にしがみつきながら一つ残らず拾った。古くから放置されているゴミもついでに拾えるだけ拾った。もうこうなると執念だ。私は分別用に2、3枚の袋を準備して行き古い空き缶やビン、雨に晒された新聞紙なども拾い続けた。散歩だかなんだかわからない。夏になり、氏子会の清掃活動で斜面の藪も刈り取られ、「これでゴミ拾いもしやすくなった」と思っていたある日、突然ゴミが消えていた。
 やったー!ついに私の気迫が不作法なやつらを撃退した。だが、それは夏も盛りのことだったので単にブランコ周辺が雑談に適さなかっただけかもしれない。サツキの茂みは蚊の巣窟になっている。10分も座っていたら20か所は刺されるな。私は電撃ラケットを持ち歩いているから平気なのだが。

 秋風が吹いてくる頃、神社からの帰り道で二人の女の子たちが遊んでいるのを見かけた。石の鳥居の真下でぽんぽん小石を放っている。ムッ!あれか?遠目にもたいへん目立つ格好で、一言で言うならバービー人形みたいだ。茶色の巻き髪、ミニスカート、厚底のブーツ、長い脚。場違いだ。こんな田舎で、しかもこの神社で、何をやっているのか。鳥居の下で・・・。こいつら!
 「あのブランコのところでゴミをちらかしていたのはあなた方でしょ!」と私は問うて説教するつもりで近づいて行った。「あの・・・」
「あっ!かわいいー!」
 そのとたんに女の子たちがこちらに駆けてきて犬のまわりに寄った。「かわいいいぬー!」なんだか脱力するような声だ。犬はニヘラ~とした顔でしっぽを振りまくり、スキップするようにぴょんぴょん跳びはねた。「あららー」私もなんだかニヘラ~としてしまってまるで犬バカおばさんのようにニコニコしながら手を振って通り過ぎてしまった。振り返ると、女の子たちは石投げを再開していて、「今度は私ね」などと言いながら鳥居の上に小石を放り上げていた。それまで気づかなかったが、鳥居の上にはたくさんの小石が乗っかっていた。きっと「鳥居の上にうまく石が乗ったら願が叶う」という類のおまじないでもあるのだろう。くだらない。次の日やってみたが、全然乗っからなかった。

 バービーちゃんたちは春から夏までかかってやっと「公園にゴミを捨ててはいけない」ということを学習したようだ。やれやれひと安心・・・とはいかず、この頃からまた新手のゴミ捨てらー(私の造語)が現れた。どこまで続くぬかるみよ・・・。

 つづく

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