うんどうエッセイ「猫なべの定点観測」

おもに運動に関して、気ままに話したいと思います。
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チームパシュートから見えてくるもの

2010年02月28日 | 五輪&パラリンピック
スピードスケートは27日、男女団体追い抜きが行われ、女子の日本は決勝でドイツに100分の2秒差で惜敗したが、スピードで女子初の銀メダルを獲得した。
 日本は前日の1回戦同様、田畑真紀、穂積雅子(ともにダイチ)、小平奈緒(相沢病院)の布陣で臨み、準決勝でポーランドを破って決勝進出。決勝では前半でドイツをリードしたが、わずかに逃げ切れなかった。
 男子の日本は順位決定戦でスウェーデンに敗れて8位に終わった。決勝では地元カナダが米国に勝って金メダルを獲得した。

〔時事通信 2010年2月28日の記事より・写真も〕


                              *  *  *  *  *

 
本当に惜しかったけど、よく頑張ってくれました

日本時間の早朝に行われた準決勝のポーランド戦。序盤は前半先行型の日本が優勢でしたが、レース終盤は後半追い上げ型のポーランドがジワジワと詰め寄り、結果的に0秒19差で勝利。決勝進出を果たした日本は、この時点で銀メダル以上を確定。同時に日本女子スピードスケート史上最高の成績も確定しました。両国の実力を考慮すれば順当な結果でしたが、後半のレース展開に一抹の不安を感じました。

そして、決勝の相手は2連覇を目指したドイツ。ドイツは準決勝の米国戦では、ベテランのアンニ・フリージンガーが疲労から遅れを取り、ゴール手前で転倒。まるで氷の上をヘッドスライディングしますが、辛うじて米国を振り切ります。爆笑シーンでしたが、今大会のドイツはまだスピードスケートで金メダルを獲得してなかったので、凄まじい執念を感じました。月並みな言い方ですが、これぞまさにゲルマン魂です!!

日本時間の7時17分に号砲が鳴った決勝レース。序盤は先行逃げ切り型の日本がリードを奪います。順調に差を広げた日本は、残り2周で1秒7ほどの大幅なリードを広げます。おそらくこの時点が最も日本が金メダルに近づいた瞬間だったのでしょう。ところが、その後は後半に強いドイツが猛然と追い上げます。対する日本は半周ごとに徐々にペースが落ちてきます。

そして、ほぼ同時と思われたゴールシーン。なんと0秒02と際どい差でドイツが日本を差しきり、前回のトリノ五輪に続いての連覇を達成。やはり、日本は3人で戦ってきたので体力の回復が出来てないようでした。一方、ドイツは今大会の3000mと5000mの銀メダリストのシュテファニー・ベッカートが後半のレースを引っ張ったのが勝因でしょうか。ただ、日本にとってこの銀メダル獲得は、日本女子スピードスケート史上最高成績となるので、大変な偉業です。なので胸を張って帰国してほしいです。



前回のトリノ五輪から採用されたチームパシュートですが、今大会の銀メダル獲得によってこの種目が世間一般に認知され、新鮮な面白さを感じたと思われます。4年前のトリノ五輪でロシアとの3位決定戦で転倒して負けた時は悔しさを感じましたが、同時に「このチームパシュートは日本人に向いている種目なのでは?」とも私は思いました。

チームパシュートは対戦型の種目とはいえ、ショートラックのリレーのように体がぶつかり合う種目ではありません。また、3人が先頭を入れ替えるタイミングや、誰を先頭で何周滑らせるかといったチームとしての戦略が重要です。なので、コンタクトプレーには弱いが、団結力と巧緻性に長けた日本人の気質に向いていると思ったからです。

3番目の選手のタイムを採用する訳ですから、平均的に選手層を厚くしつつ、選手間の連携の技術を高めていけば、突出した選手がいなくても世界と戦える種目です。競技は異なりますが、自転車の団体追い抜きレースでも日本はアテネ五輪で銀メダルを獲得した事があります。なので、強化のやり方によっては日本のメダル有望種目になると期待してました。

今回の日本女子の強みはそれぞれ選手のタイプが異なることです。女子はリンクを6周(2400m)滑るので、スタミナのある長距離の選手の存在は不可欠です。ただ、同じ長距離の選手を3人揃えてもレース展開が単調になり、ペースアップに対応出来ません。なので、短中距離や中長距離に得意の選手がいれば、様々なレース展開が可能です。

今回の日本は長距離の穂積雅子、中長距離の田畑真紀、短中距離の小平奈緒と高木美帆が名を連ねてましたので、長距離選手主体だったトリノ五輪より期待を持てました。これまで日本のスピードスケート陣は、男女とも500mしか通用できない「定説」がありましたが、今大会の日本女子は個人全5種目で入賞を果たしました。特に中距離の1500mで小平奈緒が5位に入賞したのは大きかったです。個々の能力をアップしたことにより、異なるタイプの選手を揃えることに成功しました。

そして、タイプの違う選手を操る司令塔の役割を担っていたのが、ベテランの田畑でした。田畑は、1回戦の韓国戦に完勝した後、緩みかけたチームの雰囲気を引き締めていたのは、4年前の苦い経験を教訓にしていたのでしょう。おそらく、田畑抜きでは今回の銀メダル獲得はありえなかったと思います。率先垂範となって若手を引っ張る田畑の存在は、まるで陸上の朝原宣治を彷彿します。

たしかに、今回の日本女子の銀メダル獲得は、強豪国のカナダとロシアの早期敗退といった幸運が作用したのは間違いないです。ただ、今回の日本は過去の苦い経験を教訓にして、適切な人材を揃えて十全な強化を行い、国際的にも実績を積み上げました。なので、運を味方にすれば確実にメダルを狙える地位にまで自力で登りつめたと思います。

田畑は今後の去就は不明ですが、現在のメンバーの穂積と小平は確実にソチ五輪では主力となるはずです。また、今回メンバー入り出来なかった穂積と小平と同い年の石沢志穂も主力となるでしょう。そして、今回レースに参加できなかった高木の成長も期待できます。なので、次のソチ五輪こそ日本女子初の金メダル獲得の期待が持てるのではと思います。ただ、箱根駅伝のランナーが本業を疎かにして駅伝に血眼になるように、スケートもチームパシュートありきで強化するのでなく、あくまでも個人戦を重視した上でチームパシュートの強化をしてほしいです。



一方、女子とは対照的に、今の日本男子は相当厳しい状況に追い込まれたと思います。メダル数では女子より1つ多いですが、通用したのは長島圭一郎(銀)と加藤条治(銅)がメダルを獲得した500mだけ。他の4種目は入賞者はゼロでしたから。男子は距離が長くなるにつれて、世界に通用しないような気がしました。今回のチームパシュートにしても、“8位入賞”と報道されてますが、実際はビリと言った方が正しい表現です。

日本男子は中距離と長距離選手を揃えましたけど、1回戦の米国と7位決定戦のスウェーデンにそれぞれ3秒近い大差を付けられての惨敗。全8周(3200m)のうち最初の2周ぐらいしか太刀打ちできませんでした。これは最短距離の500mでしか通用出来ない、日本男子の現状をよく表しております。傍から観ていて、よくこのチームが五輪出場権を獲得できたのかと思うほどの惨状です。中長距離が個々の能力で全く通用しない現状を鑑みれば、下手をすると次回のソチ五輪の出場権獲得すら出来ないような気がします。

ちなみに、今回のバンクーバー五輪のチームパシュートは、当初は男女混合の実施を検討されたそうです。結局見送られましたが、もし今回正式種目にあったとしても、男子が足を引っ張る今の日本だとメダルは全く期待できませんね。チームパシュートはソチ五輪以降はどのようになるのか分かりませんが、今回のように男女別で実施した方が日本にとっては有難いですね。

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