気まぐれ20面相

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文学少女シリーズ 「文学少女と神に臨む作家 下」 感想  「遠子先輩へ」

2012年08月20日 | 小説感想



親愛なる<遠子先輩>へ

あなたはとてもひどい人だ。

あなたは自分の理想のために心葉くんの生き方を固定し
決して後戻りできない道を選ばせてしまいました。
心葉くんはもう逃げられないし
決して逃げもしないのでしょう。

これからの心葉くんは
理不尽な世界の中で、遠子先輩からもらったすべてを武器に
自分の想いを 理想を書き続けることになります。
でもそれには遠子先輩からもらったものだけでは全然足りない。
だからこそ遠子先輩は心葉くんを突き放したのでしたね。
一人で立ち上がれる人間にするために
そして揺るぎない作品を書かせるために。

そう、心葉くんには遠子先輩以外にも
自分自身の武器を育て上げる必要があります。
そうでなければこの世界で戦うことなどできない。
そしてそれをするという事は
段々と「化物」になっていく事でもあります。
金や地位、名誉では決して手に入らないモノを追い求め
一般の価値観からは大きくはずれ、人々から否定されようと
自分の理想だけを追求する存在に
まるで叶子さんのように一人きりで狭き門をくぐっていく存在に
なるのでしょう。

遠子先輩もまた同じです。
正直、心葉くんの小説を食べなかった時は
「なんてバカなことを」と思いました。
あれを食べていれば遠子先輩は普遍的な幸せを
手に入れられたのに…
心葉くんは遠子先輩だけの作家であり続けて
毎日、甘い話を書いて、時に辛い話を織り交ぜたりして笑いあう
平穏の中での喜びを手に入れられたのに…と
なんとも歯がゆい気持ちでした。
心葉くんの思いがやっと遠子先輩にむけられ
遠子先輩だけのために書き上げた小説だったせいもあったのでしょう。
本当にショックでした。

けど遠子先輩がそうした理由を知った時
「私が"文学少女"だからよ」と言った時
すべてを納得するしかなかった。
ああ、この人もまた、ただの読み手ではなかったんだと、
自分のわがままを貫いて進み
すぐそばに幸せが転がってくるのに
「ほしいのはそれじゃない」と蹴っ飛ばして
さらに理想へと足を進める馬鹿げた存在だと。
遠子先輩が枠組みに納まらない愚か者だと再認識し
うれしかったけど
やっぱりこの道を選んでほしくはなかったな…

遠子先輩と心葉くんが、どれほどの覚悟をもって
狭き門をくぐる事を選んだのかは想像するしかないけれど
ここからが本当に厳しい戦いになります。

美羽が言っていたように読者は作家を裏切ります。
井上ミウが読者に捨てられることもあるでしょう。
逆に作家が読者を裏切ることもあります。
井上ミウが読者の理想と違うものを書き上げる時も来ると思います。
そのことは心葉くんを成長させ
すべてを客観的に見渡し
どんなひどい話も書きつくせる作家へと成長させるのかもしれません。
けど、人物に入り込み、主観的にそれを見渡した時、
登場人物の心情を深く知りすぎてしまった時に
自分のしてきたことの酷さに絶望し
「自分は決して幸せになってはいけない」と病んでいくのかもしれません。
遠子先輩もそんな心葉くんを作り出してしまった責任感から
小説の怖さを知り
文学少女の読み方を失い、本を食べられなくなる日がくるかもしれません。

しかしそれでも諦めを殺し続け、進み続けたのなら
違う門をくぐっていった二人は
道の途中でばったり再開し
手を取り合う日が来るのかもしれません。
けどそれはゴールではなく
更に高みに行くためのスタートでしかないのでしょう。

残念ながらオレの道はあなた達の道と繋がることはないけれど
遠子先輩が語ってきた「想像」
次元の壁をぶち抜いてオレの中に深く打ち込まれてます。
それはとても「屈強」で「心地いい」モノであり
正直、このままにしておきたい大切なものですが
そうも言ってられません。
ここで満足したら俺は
遠子先輩に殺された事になります。
なので、絶対にぶち抜いて、オレ色に染め上げて投げ返しますんで
覚悟しておいてください。

さて、心葉くんは遠子先輩へありったけの愛情と感謝をこめて
「忘れません」といいましたね。
けどオレは、そんなピュアでもないし、いいヤツでもないので
二人が絶対に後戻りできないよう追い風となって
この言葉を送ります。

「いってらっしゃい」              了



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