地獄といえば、赤鬼や青鬼がおって、罪人を臼で搗いたり、油で煮たりして、
おそろしいところだと聞いておったが、入ってみると、どうしてどうして、
こざっぱりした洋間で、真ん中にテーブルがあって、白いテーブルクロスが
かけてあり、その上に、中華料理のように丼や鉢にいっぱい御馳走が盛ってある。
地獄というけれども、いかすじゃないかと思いながらよく見ますと、
まわりの椅子に腰掛けているが、みんな骨と皮に痩せこけてしまって、
眼はくぼみ、真っ蒼な顔をして、お互いに何か言い争って喧嘩をしています。
これは地獄だ、御馳走を目の前の見ながら、あんなに痩せて喧嘩せんならん、なぜあの御馳走をとって食べんのだろうと思ってとく見ると、左の手が椅子にしばってある。
ははあ、人間というものは、一編坐り心地のいい椅子に腰をかかると、死んでも
離さんとみえる。
代議士だの大臣だのという椅子は、なかなか離したがらんはずだ。
右手はと見ると、匙がしばってある。
ははあ、食い気も離さんとみえるな。
あの匙で御馳走をすくって食べたらと思ってよく見ますと、その匙が馬鹿に長い、
6尺もある。
手を伸ばして、好きな御馳走をすくって食べようといたしますが、匙が長くて
口が届かない。
みんな御馳走を背中にかぶってしまって、そして、お前が悪い、貴さまが気がきかんと喧嘩しておりのです。
なるほどこれは地獄だ、さぞかし苦しいことであろうと同情しながら、しばらく行きますと、極楽館というのがありますから、これこれ儂が行くところはここだ、よく見ておこうと思って中へ入ります。
【いよいよ本題です察しの良い方はすでにお解りだと思います。
続きは次回に】