漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

犬医者の事・②

2009年09月15日 | Weblog
きのうの続き。

大坂でしくじって江戸へ流れ着き、
今はしがない番太生活の平助ですが、
ひょんなことから、成功へのチャンスをつかみます。

時は、元禄、
将軍様はかの有名な徳川綱吉公、
家康を初め歴代将軍の苦心もあって、
この時期の「将軍さまの権力」は絶大な物となっていた。

しかも、綱吉公は、
周囲をイエスマンで固めていましたから、何でも思い通り。

つまり、綱吉の時代は、
たった一人の人間が支配する、「専制独裁国家」の如き感があった。

その独裁者の出した「生類憐みの令」は、威力絶大、
人々は、野犬でさえ、「お犬様」と恐れねばならぬ事態となった。

そう云う時代、
町の雑事に励む、平助の身近で一つの難問が起こる。

尚、以下の文中、

「某所(ぼうしょ)」は、ある所、
「町役(ちょうやく)」は、町内を自治する組織の役員。

「平癒(へいゆ)」は、病気が全快すること。
  
  ~~~~~~~~~~~~~~~

しかる処に、
某所の犬、わずらい狂うにより、
医師を頼めども、常の医師はこれを治療せず、町役ども大いに困惑す。

平助、これを見て、さまざまに思案し、
「われ治療してみたし」と申し出ずれば、町役ども相談し承諾す。

すなわち、平助、調剤して病犬に用いるに、たちまち平癒す。

  ~~~~~~~~~~~~~~~~


「某所」とあるから、
誰かの飼い犬か、もしくは、町預かりの犬、

いずれにしても、
病気の犬を放置しておくことは、「将軍様の御触れ」に逆らうことになる。

云わば「国家命令の反逆罪」。

あわてて、医者をさがせど、療治に応じる医者などいない。

それはそうです、
お犬様などにうっかり手を出し、
首尾よく治れば良し、
もし、死ぬような事でも有れば、生類虐待の重罪に問われかねない。

しかも、「相手は、たかが犬」、

わずかな治療費で、
そんな危ない橋を渡ろうとする医者など居るはずがないのです。

処が、その時、
番太の平助が、何を思ったか、治療を申し出た。

町役にすれば、「渡りに船」、

もし、お犬様のご容態が悪くなれば、
「自分たちは手を尽くしたのだが、平助が治療を間違えた」と責任逃れができるのですから。

もちろん平助には平助の考えがあったでしょう、

このまま番太を続けても、一生、最下層の生活、
ここは一番、誰もが嫌うことを受け負って、うまく行けば一儲け、

悪くして、犬が死ぬようなことがあっても、また何処かへ逃げるだけ。

失うものなどない平助、大勝負に出たのですが、
なんとこれが大成功、犬は全快、

周囲もホッとして平助を褒め称え、見直したろうことは疑いない。




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