漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

犬医者の事・③

2009年09月16日 | Weblog
きのうの続き。

誰もが「腫れ物に触るように」していた、病犬を、全快させた兵助、
さぁ、この噂はたちまち町の噂に、
評判が評判を呼んで、あっと云う間に江戸中へと広まって行く。
  
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このこと、近辺の評判となりて、

「犬の患いは、医者も請け負わぬ。

 また、捨て置けば、
 生類をなおざりと、お咎(とが)めありて、
 当惑する処に、

 これぞ、幸いなり」 と、

ここかしこより、平助を頼み来たり。

次第に繁盛するまま、
すなわち、町内に大屋敷を構え、
「今川平助」と名乗りて、弟子たち数多(あまた)召し置き、

乗物にて、江戸中を往来す。

後には、御城へ召されて、
御犬を預かり、治療するに、治らすと云う事なし。

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「犬医者は需要があるのに供給がない」、
たちまち注文殺到、きのうまでのしがない番太が、
今日は、カゴに乗って江戸城に出入りする身となった。

なお、上記の文中、
「乗物」は、いわゆる「カゴ」のこと、
「乗物」は、かごの中でも、武家が乗るような高級な物を云う。

従って、乗り口に窓付きの御座を垂らした簡易な町カゴではない。

「乗物」とあるからには、
供に弟子が二・三人、そこへまだ、薬持ちが付くと云う豪華版だったろう。

江戸時代、乗物は、身分によって厳しく区別されていたから、
乗物に乗れるだけでステータスは高い。

きのうまでの番太が、今日は乗物で供を連れて行く、
「成り上がり」とは、まさにこのこと、平助の得意や思うべし。





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