漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

「狐を化かした男」その後半

2011年10月02日 | ものがたり

きのうの続き。

「狐を化かした男」その後半。

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その節、又市の申しそうろうは、

「汝を くすべ殺しそうろても益なし、

 いま、汝が美しき女に化け居りそうらわば、
 これより島原の遊郭に連れ行き、女郎に売るなれば、

 そなたは三日の間、女に化け続け居り申すべし」と申し聞かせ、

そのまま島原に連れ行き、
金子三百両にて売り申しそうろうて、まかり帰りそうろうよし。

又市、帰りて女房・子共に申し付けそうろうは、

「何方(いずかた)より、いかようのこと申し来たりそうろうても、
 主人又市は、四・五日以前より宮参り致しそうろうよしに申しそうらえ」と申し付け、

すぐに又市は、何処(いすこ)となくまかり出でそうろうよし。

しかる処に、かの狐、
一両日はおとなしく黙り居りそうらえども、
以後はものかげに入りそうろうては、ひたすら泣き申しそうろうに付き、

廓の者ども、色々と申し聞かし、
なだめすかしそうらえば、ようように機嫌を直しそうろうよし。

おりふし、三日目の夜、
せっちんに参りそうろうて、 (せっちん→トイレ)

そのまま、 
なんと申しそうろうても、せっちんより出で申さずそうろうゆえ、

無理にもせっちんの戸を開け、
見そうらえば、半分 狐になりかけた女、そのまま逃げ出でしそうろうよし。

それゆえに廓の者ども、
「にっくきは又一なり」と申しそうろうて、

又市の所へまいり、
とやかくと右の分けを申しそうらえば、

又市、しらじらとして、

「いんや、我らはその四・五日以前より宮参りいたし居り、
 中々、さようなることは存ぜぬことにてそうろう」などと申しそうらえば、

廓の者ども、
「さては、あの時の又市と申しそうろうも、狐にてそうらわん」

などと申しそうろうて、口惜しがりそうろうよし。

又市はその分にて相済みそうろうゆえ、
その後も、何の差しさわりもこれなく暮らしそうろうよし。

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