漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

【狐を化かした男】その前半

2011年10月01日 | ものがたり

江戸代の噂話を集めた書物にある話。
【狐を化かした男】その前半
   
  ~~~~~~~~~~~

京都、四条あたりに住まう馬方に、又市と申す者これ有りそうろう。

又市ある夜、
木幡のあたりを通りそうろう節、 (木幡→こばた→京都市の南、当時は淋しい村里)

いかにも麗しき女人まいりそうろて申すには、

「わたくし、これより京都へと参るべくそうろうが、
 もはや くたびれ申しそうろう間、
 その馬にお乗せくだされまじくそうろうや」と、申しそうろう処に、

又市、存じ当たりは、

「かねがね、この木幡あたりには、
 性悪の狐、化け出で、人をだましそうろう間、これこそ、かの狐にてそうらわん」

とて分別(ふんべつ)致し、

「いかにも乗せ申すべくそうろう間、乗りたまえ」と申しそうろう。

かの女、
「かたじけなし」と申しそうろうて、乗り申しそうろう処に、

又市、申しそうろうは、

「夜中にてもあり、
 女生(にょしょう)のことにてもそうろう間、
 落ちそうろうて怪我でも致しては如何(いかが)と思われる間、

 少々、痛みそうろう分には堪忍(かんにん)致されそうらえ」

と申しそうろうて、
荷物縄にて 確とくくり付け、まかり帰り行きそうろう由(よし)。

やがて住み家の前を通りそうらえば、
女房・子共を呼び出し、

「ヤアヤア、松葉を出だしそうらえ、
 狐を連れ来たりそうろう間くすべ殺し申すべし、皆々寄りて、くすべよ、くすべよ」

と申しそうらえて、

ひたすら くすべ申しそうらえば、
女、ことの外、嫌がり申しそうろうに付き、

又市、申しそうろうは、

「おのれ、このままくすべ殺す筈にてそうろう、
 しかしながら、汝(なんじ)が正体をあらわしそうらえば別なり」と申しそうらえば、

麗しき女は果たして狐に戻りそうろう。

 





コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。