漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

胴欲・土右衛門、⑤

2009年05月09日 | Weblog
きのうの続き。

殺しかねない土右衛門から、
引き剥がすように老婆を引き取った仏又六ですが、・・・さて。

尚、以下の文中の、
「高安」は地名。
 
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病苦の老婆を肩にかけ、
仏の慈悲者又六が、ようよう連れて我が家に寝させ、

肉親の母の如く 日々 介抱のおろそかならねば、
両三日経ちて 病人は 少し病苦も忘れけん、

又六に素性(すじょう)告げて、

「我は高安の近郷、
 五ヶ村ばかりの庄屋の母にて、十三ヵ年の長病(ながわずらい)、

 倅(せがれ)や嫁、
 子らや孫どもまで、大事に手かけくれ過ごせども、
 あたら医療に験(しるし)なき。

 そう云う折に今度の洪水、

 病苦に子細(しさい)も覚えねば、
 いつどのようにして長持へ這入れしかも知らず。

 どうして ここへ来た事ぞ。

 処がそなたのこの恩義、
 見も知らぬはずのこの婆を、
 実親(じつおや)のごとくに介抱(かいほう)たまわるその真心、

 その実心が肝まで沁みしか、
 この朝は、十余年、ついぞ覚えたこともなき婆の快さ。

 ここはまず国(いづく)にて、
 こなたの御名は何と申すぞ。
 わしの倅(せがれ)や子や孫どもは、水に流されて何国ぞ」と、過ぎ来し方の物語。

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真実込めた又六の、
介抱の甲斐あってか、一息ついた老母が語りだす。





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