漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

牢抜けの者の事 ③ 決行

2009年11月19日 | Weblog
きのうの続き。

文七ほか四人、
牢抜けの手筈を調え、後は好機を待つばかり、さて、・・・。

尚、以下の文中、
「皐月(さつき)」は五月、旧暦だから今の六月ごろ、梅雨のさ中。
「霖雨(りんう)」は、降り続く長雨。

「うみたる」は、熟みたる、果実が熟すようにやわらかくなること。

「牢屋構え」は、牢屋の外の囲い、塀など。

「拍子木(ひょうしぎ)」は、
 短い角材状の堅い木二本をを打ち合わせて、その音で合図や警戒に使う物。
 
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時しも皐月下旬なれば、
梅雨降りしきり、
三寸先も見えぬ暗き夜に、文七進んで件(くだん)の土間を掘りかくる、

牢中の土間なれば、
本来、突き固めて磐石の如しと言えども、
さすが霖雨の潤(うるお)いに、
地の少しうみたるを頼りに、段々と掘り広げて
ついには、
我が身の摺(す)り出る程に、平たき穴を掘り遂げれども、

牢屋構えの内外には、
番人ども、半時ごとに拍子木を打ち廻り打ち廻りいて、

ことに夜の短い時期なれば、
兎角する間には拍子木の音、喧(かしま)しく、
中々抜け出るすき間も無かりけれども、
わずかの暇(いとま)を盗みみて、

まず文七、真っ先に躍り出で、
残る者どもを一人づつ、その穴へ首を突っ込ませ、
「首だに通れば跡は自由なり」とて、
文七、外より、首をとらえて引きずり出す。

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抜け穴を掘ると云っても、
長いトンネルを掘ったのでなく、牢格子や壁板の下を掘ったようだ。

これなら、短時間で可能だろう、
ただし、見回りの目を盗みながらだから、簡単なはずはないが。




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