南太平洋に浮かぶデイブック島は、
人口十万人、小さな島ですが風光明媚で平和な島です。
この島の主要産業は、
五〇年程前に発見され、今ではこの島の経済を支えている銀鉱山と、
昔からの伝統的な農業によるコメの栽培です。
近年は銀鉱山の経営が順調で島の経済は豊かですが、
現金収入を得た鉱山労働者は、
輸入した小麦で焼いたパンを食べるようになり、
熱心だが、小規模な農家が多くて、
効率の悪い生産を続けるコメの消費量が落ち込んでいます。
ただ、農業はこの国の伝統であり、
農民たちの組織力は選挙の時に大きな力を発揮するので、
島の政府は、選挙の時の農民票を目当てにコメ農家の保護に熱心です。
昨年の予算でも、
コメ余りのため低迷を続けるコメ相場を活性化しようと、
銀の輸出で得た税金から、
コメから小麦への「転作奨励金」を「三億円」も出したぐらいです。
処が慣れない麦作りとあって農民の意欲は薄く、
収穫も芳しくなく、これだけのカネをかけても、今年の小麦の生産は六百トン。
これには鉱山で働く人々から、
「俺たちの税金を使って、
何と云う馬鹿なことをするんだ」と、怒りの声が上がっています。
なにしろ、この国が今輸入している小麦は、
奨励金の三億円も出す気なら、その十倍の六千トンは買えるのですからネ。
島民の一部にしか過ぎない農民に、
こんな大金をバラ撒いていては、
マジメに税金を払っている労働者が怒るのもムリはありません。
なにしろ、肝心の農民たちでさえ、
「あのカネをそのまま現金で分けてくれたらいいのに」と、陰で言っているぐらいですから。
ただ、この平和なデイブック島も、二・三年まえから、
近くの大陸にあるセンターカントリー国から、軍事的な圧力が掛かっており、
その狙いはどうやら、デイブック島の地下資源らしいと、
“DAY・BOOK”人たちはウワサしていて、
今の処、転作奨励金より、そちらの方が気になっているようですが。