漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

負くまじき すまひを

2010年03月12日 | Weblog
大相撲の春場所はあさってが初日。

春場所は、「荒れ場所」とも云われるほどに
番狂わせの多い場所ですが、さて今場所はどうなんでしょうか。

一人横綱となった白鵬が圧倒的な強さを見せるのか、
はたまた、思いもよらぬ力士が台頭するのか。

楽しみの多い場所ですが、
ただ、勝つ人があれば、
負ける人もまた、同じ数だけいると云うのが勝負の世界。

背中に砂をつけたまま、
花道を下がる力士の後姿には、
無念とくやしさが滲み出ていて、哀感さえ感じられるのです。

「負けまじき 相撲を寝物がたりかな」

負けてはならぬ相撲を負けた。

その悔しさは言葉にもならぬが、風呂へ入って土を落とし、
自宅へ戻って、
食事をし、

布団に入ったころになって、
やっと勝負を振り返るだけの冷静さを取り戻す。

立会いにああすれば良かった、こうすれば良かった、
それにしても、上手回しがとれていたらなぁ、・・・

しかし、そのあと、相手が慌て気味に出て来たから、
あそこで回り込めば、こちらにもチャンスがあったはず・・・などなど、

愚痴や後悔を訥々(とつとつ)と、・・・

いくら言っても未練でしかない、
そんなこたァ分かっちゃいるが、誰かに言わずにおられない。

しかし、そんな繰り言は、
関取衆はもちろん、部屋の弟弟子にさえ云えない。

勝負に懸ける力士は男伊達(おとこだて)、
不用意に弱みを見せては、敵から侮られるのです。

それを言えるのはただ一人、
自分にとって一番信頼できる味方であり、最大のファンでもある女房だけ。

言うだけ言ってしまえば、スッキリ、
あとはぐっすり寝むって、また明日の勝負、

そんなことは百も承知の女房ドノ、適当に相槌を打って気を鎮めておく。

そんな風景が浮かぶ句です、
与謝蕪村の、

「 負まじき 角力を寐物がたり哉 」 は。

「負まじき」は「まくまじき」と読み、
「角力」は「すまひ」である、と云うのが専門家の意見ですが、

句の意味についても解釈はいろいろ。

負けた後の寝物がたりではなく、
あすの負けられぬ相撲を寝物がたりしているのである、とか、

イヤ、コレ実は、
ファンがあすの相撲をアレコレ寝物がたりしているのだ、とか、・・・さまざま。

大阪での春場所は遠征ですから、
お寺の本堂などを借りて宿舎とするのが相撲界の伝統的なやり方。

広々とした本堂の片隅で、
貸し布団ににくるまった、フンドシ担ぎどうしがボソボソと、

今日負けた相撲を、
あれやこれやと語りあい、なぐさめあうのでしょうか。
 
「負くまじき、すまひを 寝ものがたりかな」
 と。


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【褌担ぎ】 ふんどしかつぎ
 [1] 相撲の位のごく低い力士の俗称。
    関取のふんどしを持ち運びすることからいう。
 






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