漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

釣りギツネ・①

2010年05月28日 | Weblog

 【 釣りギツネ 】

●(伯蔵、実は狐)、
 (僧侶の姿、頭に頭巾、手に杖を持つ)

「それがしは、
 年古くよりこの山に住みつくキツネでござるが、

 近ごろ、人間どもの中に藤六と云う心のねじ曲がった者がおって、
 このあたり一帯にキツネのワナをしかけ、
 次から次へと捕りあさるほどに、
 危うくて、うかつにエサをさがしにも行けぬ始末でござる。

 なんとも迷惑なことなれば、
 どうにかならぬかと思案を致しおった処、

 藤六が伯父に、
 伯蔵(はくぞう)と申す坊主がござって、
 この者の申すことなれば、
 いっかなむつかしきことも素直に従うとのことを聞き及んだれば、

 このように伯蔵に化け、
 これより藤六の家へ参り、意見を申して悔い改めさそうと存ずる。」

(ト、自分の姿を水にうつし、のぞき込むようす)

「身がキツネとは云え、我ながらよう化けたものでござる。

 さてさて日も暮れた、
 ほどよい暗さなれば、まずはそろりそろりと参ろうと存ずる。」

(ト、歩き出し)

「それにしても、
 もし、藤六メが犬などを飼うておれば、
 このように化けてたずねて行くことなどなるまいに、

 犬を飼わぬが彼奴(きゃつ)メのとりえとりえでござれば、
 実に都合の良いことでござる。

 なにしろ犬と云う物は匂いで嗅ぎわける故、キツネには大敵でござるからな」

(ト、不意におびえて跳ね廻り逃げ腰になる)

「これは何としたことを、
 今、遠くで犬が鳴いたを、近くで鳴くかと聞き違えビックリいたした。」

(ト、また歩き出し)

「これと申すも、心に不安があるゆえ、
 遠くで鳴く犬の声にも怯(おび)えるのでござる。」

(ト、またしばらく歩いて、ツト立ち止まり)

「ヤァ、とやかく言ううちにもう着いた、
 ここじゃ、ここじゃ、この家じゃ、まずは案内を乞おう。」





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