漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

芸術文化センター

2013年04月22日 | はやり歌 文芸 漫画

もうずいぶん前の話になるが、

全国に12しかないプロ野球チームのうちの2球団もが、兵庫県の西宮市に本拠地を置いていた。

ひとつは阪神タイガースで、
阪神甲子園駅から見える所にある甲子園球場。

いま一つが阪急ブレーブスで、
阪急神戸線・西宮北口駅のすぐ前に球場があった。

いずれも電鉄会社が、
野球目当ての乗客を獲得する目的で駅前に建てたもの。

甲子園は今も、
知らぬ人とてない伝統ある球場として存在しているが、

もう一つの西宮球場は、
球団の身売りや駅前再開発と共に取り壊され、

今ではその名も西宮ガーデンズと改め、
デパートや専門店から、
映画館、音楽ホールまで備えた一大商業ゾーンとなっている。

ゆうべ、ひとりで温めたカレーを食い、
テレビを見てから、寝転んで本を読んでいた9時ごろ、

コンサートから、我が同居人ドノが上機嫌で帰宅した。

彼女のみやげ話によると、
バイオリニストの葉加瀬太郎氏が、
音楽演奏の合間にこんなことを語っていたそうである。

「いつか指揮者の佐渡裕さんと話したんですが、
 お金がイッパイあればこのホールを丸ごと買い取って思うように使いたいよね」と。

その夜のコンサート会場、兵庫県立芸術文化センターの大ホールは、
音響の良いことで、音楽家仲間に人気が高く、

人気者の葉加瀬氏と云えど、
なかなか公演日程が抑えられないのだそうで、

いっそ自分のものにして、
思う存分このホールで演奏をしたいと云うことらしい。

「ずっとこのホールで演奏会をして、
 日本全国の人に、ここへ来て僕のバイオリンを聴いて欲しい」とも語っていたそうで、

二千人収容の大ホールなのに、
その夜は、マイクやスピーカーをまったく使わぬ「アンプラグド」、

つまり、電気を使わぬからプラグ無用、
究極の生演奏会と云うわけで、

聞くほうはもちろん、
演奏者自身も認めるほど最高レベルの出来で、素晴らしかったとのこと。

我が同居人ドノの興奮冷めやらぬ口調を耳にしながら私メは、

ああ、あの懐かしい球場が、
今では一流音楽家が「極上」とたたえる音楽ホールになっているのか、と、

40年もまえの、
あのだだっ広いスタンドに、

パラパラとしか客の入っていない、
閑散とした球場風景を、頭の中に思い浮かべていたのであります。




  







コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。