漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

車井戸と撥ね釣瓶

2010年08月09日 | Weblog
いま、水道の蛇口をひねれば、
きれいな水が限りなく出てくるのは当たり前の世の中になった。

しかも、最近は水質がよろしい、

私の住む市では、数年前より、
二・三片の氷を入れて客に差し出せば、
水道水よりはるかに高価なミネラルウォータと見分けがつかないほどになった。

私が生まれた山村では、
戦後しばらく経っても井戸水で、ガチャガチャと動かすポンプで水を汲んだ。

処が、当時の手押しポンプはよく壊れた。

こわれると仕方がないので
「釣瓶(つるべ)」で水をくみ上げる。

竿竹(さおだけ)や綱の先に、桶の付いたようなアレである。

と言っても、
いまではその「アレ」を知らない人の方が多かろうし、
また、知ってはいても、時代劇で見ただけで現物を使ったことはなかろうと思う。

私の生家の近所では、
まだ車井戸や撥ね釣瓶が生きていた。
   
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【車井戸】くるま‐いど
  滑車の溝にかけ渡した綱の両端に釣瓶(つるべ)をつけ、
  綱をたぐって水をくみ上げるようにした井戸。

【撥ね釣瓶】はね‐つるべ
  柱の上に横木を渡し、
  その一端に石を、他端に釣瓶を取り付けて、石の重みで釣瓶をはね上げ、水をくむもの。

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井戸水も、風呂を沸かすとなるとちょっとした重労働、
家族総出で風呂までバケツリレー、などと云う事もよくあった。

桂米朝師が、その著書でこんなことを書いておられる。
 
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「矢橋船(やばせぶね)」」を復活口演した時、
船中の無理問答のところ、、
「丸う四角で長し短し」の歌が、
豆腐買いと大小の鍔しかなかったので、もう一つ作ろうと、
 「車井戸、月汲みあげし角(かく)つるべ」
てなことを言ったら、
右之助師が
「車井戸に角つるべは用いない。
すれ違う時に角がぶつかって遣う時に不便、必ず丸いつるべを使う。
四角いのははねつるべに使用する。
水に打ち込む時の衝撃も強いし、汲みあげた時に手にとり易い」と言ってくれた。
なるほどと思って、
 「つるべ縄、井ゲタの中に月の影」と作り変えた。

こんなことはだんだんと誰も知らなくなる。
つるべは私も昔は使用した経験があるのだが、やはり教えて貰わぬと気のつくことではない

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私も知らなかった、
しかし、そんなことより、この文章を読んで意味の取れる人がどれだけいるか。

なにしろ、釣瓶だけでなく、
井戸さえも見かけない世の中なのだから、・・・ああ、昭和は遠くなりにけり。







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