漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

【芋八とグニュグニュ】

2015年09月22日 | ものがたり

【芋八とグニュグニュ】

明石の芋八は、
名前の通り芋作りの名人で、

田んぼのほか、芋畑もたくさん耕していますが、
百姓のくせに大のタコ好き、

ヒマを見つけては近くの浜へ出て、タコを釣り、
持ち帰ると煮込んで、

「うまい、うまい」と言いながら、
自分で仕込んだ どぶろくを飲むのが、ただひとつの楽しみです。

だから村人は芋八と呼ばず、
だれもが親しみを込めて「タコ八」と呼びます。

その芋畑がこのごろ荒らされ、
夜のあいだにごっそりと芋を盗まれる被害が続きました。

朝、畑に出ると、
おきな穴があいて、芋が盗まれているのです。

「どこのどいつが芋盗っ人か確かめてやる」
怒った芋八は、

ある夜、
自家製のどぶろくとタコ飯を弁当代わりに、

芋畑の横にある松の木の脇に張り込みました。

しかし、泥棒はなかなかあらわれません。

とうとう、タコ飯を宛てに、
どぶろくをチビリチビリとやっているうちに眠ってしまいました。

うとうとしていると、
ガサゴソ、ガソッ、物音がした気がして、

さては芋盗っ人と飛び起きましたが、
あたりは真っ暗、わずかに星明りが残るだけです。

その闇のなかを透かして見ると、
近くでなにやら大きなモノがグニュグニュと動いています。

そのグニュグニュが、
どぶろくの入った一升どっくりをかたげて飲んでいるようです。

すわ化け物!、
芋八が身動きもできずにふるえていると、

そのうちにそのグュニュグニュは、
泥の塊のようになって、動かなくなりました。

芋八が恐る恐る近づいてみると、
人間の背丈ほどもある大ダコではありませんか。

タコは芋が好きで、
陸に上がって芋畑を荒らすと聞いたことはありますが、

まさかこんな大ダコが荒らしているとは思いませんでした。

はじめは恐ろしくて身動きできなかった芋八も、
相手がタコだと分かったことで、だんだん腹が立って来ました。

それにしてもこれだけ大きなタコなら、
「食ったら、さぞうまかろう」と、ふと思ったのは、

腹立ちもあったが、
まだ酒の酔いも残っていたのかもしれません。

芋八は、そ~とタコに忍び寄ると、
持っていた鎌で蛸の足を一本、先だけ切り取りました。

それを持ってそろりそろりとあとずさり、
もう十分離れたと思う所でふりむくと、

あとは後ろも見ず、一目散に逃げ帰りました。

あくる日、食べた大ダコの足は、
この世のものとも思えぬうまさで、忘れることができません。

「今夜もあのタコは来るだろうか」
二・三日も経って、そう思いだすと、じっとして居られません。

その夜も、どぶろくと鎌を持って、張り込みます。

こないだと同じように寝入ってしまうと、
ガサ、ゴソ、ガサッ、

「来たな」と思って薄目を開けると、例の大ダコです。

今夜はどぶろくも、
二升持ってきたので、

タコもぐびりぐびり一升空けると、もう一升と手を出します。

そのうちにまた、
タコは泥のようになって寝入ってしまいます。

「しめしめ」、

芋八は鎌を手に、
「こんどは多めに」と蛸の足を刈り取りにかかります。

その時いきなり、
大ダコが大きな目をむいて、

じっと芋八を睨みながら、

「タコの足はそんなにうまいか」と言ったのです。

芋八は飛び上がり、
真っ青になって逃げ帰りました。

その晩から芋八は寝付き、
「タコがもの言うた」、「タコが睨みよった」と、

うわ言をくりかえしながら亡くなったそうです。







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