中村勘三郎が逝って丸一年以上が過ぎた。
「天真爛漫」と云う言葉は、
この人のためにあるような芸と人柄だった。
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「一本刀土俵入りの時、
二階からお蔦(つた)が、
細ひもにカンザシとクシを結わいてくれて、茂兵衛のところにおろしてくれるよね。
あの場面で、
ほどこうとしてなかなかほどけなかったんで、
思い切り引っこ抜いたら、
ポキッてクシが折れちゃったって話。
「姐さん、すいません、
大事にしなすっていたクシを折っちゃいました」って、僕が言ったら、
大和屋のお兄さんが
「しょうがないわね、あんたはいつだって不器用なんだから」 (笑)。
そういうときはその役になりきってさえいれば、
何をしてもいいって親父にいわれてたから大丈夫だし、
いまでもどんなアクシデントがあったって、オロオロしないですむよ。
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まだ勘九郎だったころの「勘九郎ひとりがたり」にある話。
もうひとつ、この本から。
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「行っておいでやす、が良くないよね」と勘九郎は言う。
「ほんと、
この町には魔物が住んでるみたいに、気が付くとはしご酒だ。
とくに冬はいけないね。
京都の冬は寒い、
だから『行っておいでやす』に送られて外に出ると、
一瞬、夜の寒さで酒がさめちゃう。
そうすると、元気になったような気がするんだね。
で、朝起きると、これが元気じゃない。 (笑)
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