りん日記

ラーとか本とか映画とか。最近はJ-ROCKも。北海道の夏フェスふたつ、参加を絶賛迷い中。

奇跡の人

2009-10-09 10:52:41 | ライブ・舞台・コンサート
舞台『宮城野』札幌公演を観てきました。

作:矢代静一
演出:鈴木勝秀
出演:草刈民代、安田顕


宣伝用ポスターを見ますと、草刈さんも安田さんもまーーー色っぽいのです。

     色っぽいお二人


ですから、その色っぽい二人、特に色っぽい安田さんに見とれるという目的で
見にいきました。

ところがお二人は、そんな私のヨコシマな目的など吹っ飛んでしまうほど、
緊迫感に満ちた濃密な世界をつくりあげていたんです。

以下、ネタバレ混じりの感想。






















*************************************************************************

まず草刈民代さん。

バレエを引退して女優に転身してから初の舞台作品に二人芝居を選ぶなんて、
なんというかこう、肝の据わった方でらっしゃるなぁと思いました。

やっぱり、やっぱりセリフは弱いです。
声の出し方、抑揚、間のとり方。
噛んだところも数ヶ所あったし、
のどに負担がかかるんじゃないかしらと心配になるような声の出し方だったし、
セリフを「言う」のに精一杯で自分の言葉になってない感じもあった。
二人芝居ではあるけど、
二人のやりとりではなく宮城野のモノローグの部分がたくさんあって、
そこは特に「ああ、大変そう」と観客に思わせてしまう感じだった。
公式HPやパンフレットによると、演出の鈴木勝秀さんは(「冬の絵空」の演出さんですねー)、
この作品では「声」そして「言葉」を特に意識して演出した、
という意味のことを言ってるんだけど、
その点については草刈さんは十分応えられたとは言い難い。

ただただ、だけど、それを補ってあまりある、あの表情。立ち居振る舞い。
……す、す、素晴らしかった!!

草刈さん演じる女郎・宮城野は、ものすごく哀しい女。
惚れた男のために、恨みも恋心も何もかもすべて呑み込んで、
ちがう女と幸せになるための逃避行に送り出してやる。

その哀しさが、最初に舞台に登場したときから最後の幕切れまで、
草刈さんの身体全体から一瞬も途切れることなく、漂い、流れ出し、あふれて、
会場全体を覆い尽くしていた。
矢太郎を見やるまなざし、突っ伏して泣きじゃくる矢太郎の背中に回した手、
矢太郎の描いた浮世絵を抱きしめる腕、
立っても、座っても、ふと微笑んだときですら、
哀しい。哀しい。圧倒的な、哀しさ。

すごかったねー
もうセリフなんかあんなになくてもよかったんじゃないかって思う。
そこにいるだけで十分だ。
最初に舞台に出てきたとき、舞台袖からゆっくり歩いてきて、
中央で立ち止まったかと思うとしばしそこで立ち尽くすの。
その立ち姿が、もうすでに、哀しいったらないのよ。
うわわわわー、こりゃすごい人出てきちゃったよ!!ってのっけから思わせる。
息を呑むほどでした。


そして相手役のニセ絵師・矢太郎を演じる安田さん。
安田さんもすごかったー

舞台では、チラシとちがって、目の下黒いし無精ヒゲ生えてるし月代も伸びてるし
きたない着物をだらしなく着てるしで、
全体的にもっと老けててやさぐれた風貌になっているの。
だからチラシの写真みたいな端正さは影を潜めて、色っぽさも減じてるんだ。

だけど、そんなことは全然気にならなかった。

最初は受け手に徹する感じで個性を押さえた演技だったのが、
写楽殺害の経緯を再現してみせるシーンで
どぎゃーんとお得意の「憑依演技」を披露してからはもう。もうもう。

嘘をつく。
本音を言う。
宮城野の話を聞きたくないと切り捨てる。
一転、やさしく聞いてやる。
宮城野に甘え、守ろうとし、寄り添う。
かと思えば踏み台にして自分だけ幸せになろうとし、
さらに次の瞬間には思い直す。

宮城野が、嘘をつくにしても本当のことを言うにしてもそれは終始一貫して
矢太郎のため、矢太郎の幸せのためなのに対し、
矢太郎は宮城野が何か言うたびに気持ちを揺らし、コロコロと態度を変える。
そしてその変化のたびに、舞台の上の二人のあいだにピンと糸が張りつめる。
その呼吸の見事さ。
スリリングでしたねぇ。たまらなかったですねぇ。

「憑依演技」のときは、ちょうど私のすぐ目の前が立ち位置だったの。
最前列の、少し上手寄りの席。
しかも舞台のフチまで出てきて、そこにあぐらかいて座っての演技だから、
なおさら近い。
前にさえぎるものが何もなく、直に、安田さんの奇跡パワーがガンガンぶつかってきて、
息が止まりそうだった。
ナックス公演DVDを見たことのある方はわかるでしょう、
彼のアップがしばし続く「安田さんの奇跡コーナー」。
かっと見開かれてるのにどこを見てるのか全然わからない瞳、
信じられないほどよく動く眉、
口の中でぬたりぬたりと動く舌。
劇場全体が、安田さんのパワーに圧倒され、覆い尽くされる。
あれを、生で、間近で、真正面で見たのです。
すー ごー かー っっっっっった、 よーーーーーー!!!
すごすぎて、笑いそうになっちゃったくらいです。
た、たすけて……って思った。
色っぽいどころの騒ぎじゃない。そんなんいってる場合じゃない。
って感じでした。


そして、二人のあいだの緊張が高まったとき、それをさらに盛り上げる音響もよかった。
舞台袖にヴァイオリンを手にした黒衣さんがいて、
音楽だけでなく効果音の一部もヴァイオリンで表現するの。
過剰でなく、絶妙なタイミングで絶妙な音で緊迫感を増長させる。

舞台上には、縦に、横に、斜めに、赤と黒に塗り分けられた細い糸が
何本か張り巡らされていて、
それを効果的に使う演出も素敵だった。
ラストシーンで、はらりはらりと糸が切られて落ちていく。
宮城野の悲しみ、辛さ、絶望感がその次々落ちる糸に象徴されているようで、
とてもよかったです。


見る前は長く感じるだろうなー、眠くなっちゃうだろなーと思ってたけど、
全然そんなことはなかった。
むしろずっと息を呑んで、ドキドキしながら舞台を見つめるという感じでした。
けっこう空席多かったんだよね~ もったいない。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« クド…カン…?マツ…ケン…? | トップ | ようやく届いた »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ライブ・舞台・コンサート」カテゴリの最新記事