ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【ミトコンドリア病】難波先生より

2015-12-14 16:11:39 | 難波紘二先生
【ミトコンドリア病】
 女性不妊症の一部は卵子のミトコンドリア異常に原因があり、患者卵巣から体細胞ミトコンドリアを取り出して、卵子に注入すると正常に妊娠できるらしい。
<腹腔(ふくくう)鏡手術により卵巣組織の一部を取り出し、ミトコンドリアを抽出。体外受精をする際に卵子に精子とともに入れると、卵子が活性化するとされる。海外では200例以上行われ、20例以上の出産が報告されているという。>
 「臨床試験」が始まると「読売」が報じている。
http://www.yomiuri.co.jp/osaka/news/20151213-OYO1T50009.html
 生殖医療がここまで進むと、ライフサインスの基礎知識がない文系倫理学者にはお手上げだろう。リベラルアート(教養)のカリキュラムに「生命科学」を必須とするべきだ。

 ミトコンドリアの構造・機能の異常により発生する病気を「ミトコンドリア病」と呼ぶ。いまはもう、50以上のミトコンドリア病が知られている。
 人体内で細胞膜に囲まれた構造物のうち、核がないものが2つだけある。赤血球と血小板である。このうち血小板は、骨髄にある「巨核球」という多核の巨大細胞の細胞質がちぎれて、末梢血中に出てくるので、普通の細胞と同じようにミトコンドリアがある。
 ところが赤血球は同じく骨髄で「赤芽球」が分裂、成熟する過程で細胞質内が作られたヘモグロビン分子により、いっぱいになる。その過程で、細胞内小器官(ミトコンドリア、粗面小胞体、ゴルジ装置など)は消滅してしまう。最後に、毛細血管に入り血流に乗る時に、残った核が細胞膜の外に押し出されて、無核の赤血球が誕生する。これは一種の「ヘルニア」であり、「椎間板ヘルニア」「鼠蹊ヘルニア」「小脳テント・ヘルニア」と同じ原理で生じる。
 ミトコンドリアのない赤血球はそのエネルギー(ATP産生)を「解糖系」つまりグルコースを分解することで得ている。赤血球の寿命(ライフスパン)は120日であり、その間に食後高血糖の影響を受けて、ヘモグロビンの糖化(タンパク質とグルコースの非特異的な結合)がすすむ。ヘモグロビン(Hb)には、胎児が母体内で呼吸するのに適した「F(Fetus=胎児)」と成人(アダルト=Adult)型の「A」とがあり、誕生後に遺伝子がHbF→HbAへとスイッチが切り替わる。ヘモグロビンは中心に鉄をもつ「ポルフィリン」という構造体に、一本のポリペプチド鎖が結合したものである。これが4個集合したものがヘモグロビン1分子を形成する(4量体)。従って1分子のヘモグロビンは4つの鉄を持ち、4分子の酸素を運ぶことができる。
 4量体のうち「十字形」をなす鎖の向きあう2本のポリペプチド鎖は同じものである(2量体=ダイマー)。ポリペプチドの遺伝子に4種類あり、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタと名づけられている。アルファにはα1、α2というよく似た二つの遺伝子がある。アルファ遺伝子は第16番染色体にあり、他の遺伝子は第11番染色体にある。ここには胚発生の初期にのみ使われる特殊なグロビン遺伝子「イプシロン(ε)」がある。
 成人ヘモグロビンのほとんどはHbAの遺伝子構造が(2α2, 2β2)であり、ごく一部が(2a2, 2δ2)という構造をもつ。後者をHbA2と呼び、前者をHbA1と呼んで区別する。
 糖尿病の場合、HbA1のグルコースとの結合体(HbA1c)の数値が絶対的重要性を持つのは、こういうわけである。いま、「糖尿病」の診断基準には国際基準として、「HbA1c、6.2%以上」が用いられている。

 さて、ミトコンドリアはTCAサイクルが回転する場で、多量のATPを産生する。赤血球にはミトコンドリアがないから、酸素との結合とその遊離には解糖系によるATPを利用するしかない。これはがん細胞のエネルギー代謝とそっくりである。
 生体系のガソリンであるATPを得る方法には、「解糖系」と「酸化的燐酸化」の2方法がある。後者は解糖系の20倍くらい高率がよい。解糖系はグリコーゲンとグルコースしか燃料として使用できないが、ミトコンドリア・エンジンは脂肪、ケトン体、糖質、エチルアルコール、アミノ酸を燃料として、膨大なATPを生産する。
 これが可能になるのは、もともとミトコンドリア(MT)は「好気性微生物」の一種で、二次的に「真核生物」と寄生関係に入ったものだからだ。だから「ミトコンドリアDNA」という独自な遺伝子がある。MT遺伝子の総数は37個で、うち13個がTCAサイクルの遺伝子だ。残り24個はMT-DNAの転写に必要な遺伝子であり、もとMTにあったが、進化の過程で大部分が核DNAに移住した。つまりミトコンドリアは、自己遺伝子と核遺伝子による「二重支配」を受けている。瀬名秀明の小説「ミトコンドリア・イブ」はこれを素材としたものだ。

 ミトコンドリアは鞭毛基底小体、中心体と同様に、固有遺伝子を持ち、細胞分裂とは別に自己複製ができる。だとすれば、「自己増殖」つまり癌の存在が想定される。「癌」は細胞レベルの異常増殖をいうが、細胞内小器官においてそれがあっても不思議でない。但し、血流及びリンパ流がないので、「遠隔転移」は考えられない。細胞内の数が異常に多くなるだけである。
 大学院生の時代にこのことに気づき、対応する病変を考えた。細胞質内に異常にミトコンドリアが増えると、細胞は大きくなり、その染色特性は赤くなる(好酸性となる)。この状態の腫瘍を「オンコサイトーマ、Oncocytoma=好酸性腫」といい、甲状腺、腎臓などによく見られる。これは「がんもどき」である。その後、mtDNAが発見され、リン・マーグリスの「細胞内小器官の共生説」が発表され、私の考えに基本的間違いはなかったことが判明した。

 さて、この事実と女性不妊症の関係だが、「ATPサイクル・エンジン」としてのミトコンドリアは、もともと他生物由来であり、同一細胞内にあっても遺伝子的にはヘテロであることが想定される。体細胞の核DNAとミトコンドリアDNAは突然変異が起こりにくいのに、卵子のmtDNAはモザイクになっていることがある。核DNAに比べるとmtDNAには突然変異が50倍もの高頻度で起こる。受精卵ミトコンドリアのほとんどは卵子由来だが、一部は精子に由来する可能性もある。
 このため卵子内のミトコンドリアがそもそも遺伝子多型をもち、表現型つまり機能型は多数派に依存していることは十分に考えられる。

 いま女性不妊症を取りあげれば、卵子の多数派ミトコンドリアが授精とその後の胚発育に不適切であり、人工的に卵巣の体細胞に由来するミトコンドリアを注入すれば、授精と胚発育が正常に進行するという結果が得られても、別に不自然ではない。
 遺伝学における「メンデルの法則」というのは、遺伝子が核内にあることを前提として成り立っているもので、核外遺伝子にはあてはまらない。ミトコンドリアは細胞内小器官であるけれども、起源を考えれば別生物であり、そもそも細胞内に存在しているミトコンドリアが遺伝的に均質であるとする考え方が成り立たない。ヘテロだと考えるのが妥当だろう。
 未受精卵がもつミトコンドリアは約500個、精子頭部にあるミトコンドリアは約50個どちらも母親由来だが、精の子核DNAとともに卵子内に入るミトコンドリアは数個にすぎない。だがここで「ミトコンドリア・モザイク」が生じる。卵子が卵母細胞から減数分裂で発生する過程ですでに「ミトコンドリア・モザイク」が生じている場合もある。

 「血液型モザイク」については比較的よく知られているが、「ミトコンドリア・モザイク」の存在については知識がほとんど普及していない。
 「女性不妊症」の一部が、欠陥ミトコンドリア・モザイクに由来する「ミトコンドリア不妊症」だとすると、体細胞ミトコンドリアの注入によってそれが是正されるという事実には、医学的にまったく不自然な点はないと思う。
 問題は、文系の生命倫理学者が、このこみ入った事情を理解した上で、生殖医療について生命倫理を論じることができるかどうか、だと思う。
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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2015-12-15 10:35:31
>最後に、毛細血管に入り血流に乗る時に、残った核が細胞膜の外に押し出されて、無核の赤血球が誕生する。

実は、脱核が先で、ミトコンドリアはその後にオートファジーで取り除かれると最近明らかにされた。

>これは一種の「ヘルニア」であり、「椎間板ヘルニア」「鼠蹊ヘルニア」「小脳テント・ヘルニア」と同じ原理で生じる。

おいおい。全然違うって。脱核は細胞分裂みたいな仕組みだよ。

>ミトコンドリアは鞭毛基底小体、中心体と同様に、固有遺伝子を持ち、
おいおい、ちゃんと調べてから書いてくださいな。めちゃくちゃだよ。
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