ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【書き込みを読んで4/20】難波先生より

2015-05-07 11:31:42 | 難波紘二先生
【書き込みを読んで4/20】
<Unknown (Unknown):2015-04-17 10:29=
横道にそれて申し訳ありません
「麻酔医」と「病理医」が非常に重要である旨が記載されておりますが、
1.なぜ重要なのか
2.どういう役割・資質が期待されるのか
3.日本での現状
につきまして、ぜひ難波先生ならではの切り口でご教示頂きたいものです。>
 これは日本の医師の掲げられる「看板」(標榜科)の基本を理解する必要があります。日本のシステムは「自由標榜科」といって、医師免許があれば何科の看板を掲げてもよいことになっています。法的には耳鼻科の医局で研修した医師が、「内科・外科・耳鼻咽喉科」の看板を掲げて開業しても問題がないのです。
 例外は麻酔科と「病理科」です。
 麻酔科については、もともとは外科医が余技として全身麻酔を行っていたのですが、日本痲酔学会による懸命な努力の結果、1960年2月に「厚生省医務局総務課長通知」として、初めて麻酔科の標榜が認められました。薬物の血管内注入や気管内挿管による吸入痲酔を行う麻酔科の業務は、きわめて専門性が高く、安全な全身麻酔手術だけでなく、救命救急医療にとっても欠かせないことは、よくご存知と思います。痲酔学会は日本で最初に「専門医認定制度」を始めた学会です。
 病理専門医あるいは病理医は、アーサー・ヘイリー『最後の診断』(新潮文庫、1959)をお読みいただければよくわかるように、病院の中で手術により摘出されたがんなどの臓器や、生検(肝、腎、肺、胃、腸など)により採取された組織を、顕微鏡で調べて最終診断(ファイナル・ダィアグノーシス)を下すのを業務としています。また治療が上手く行かなくて、入院中に死亡した患者の病理解剖を行い、死因や治療効果の程度を判定する仕事も行っています。
 欧米では早くから専門性が認められていたのですが、日本の場合、1980年代になってやっと日本病理学会が「標榜科」を目指して動きはじめ、2008年になって「病理診断科」の「標榜科」が認められました。
 漢方医学には病名がなく、すべてサイン(「証」)に基づいて投薬が決まりますが、西洋医学は客観的な証拠に基づいて病名が決まり、そこから治療が始まります。ですから「最終診断」を行う病理医の役割は決定的に重要なのです。
 日本でも大学病院や都市の基幹の公的総合病院なら、「病理診断科」が標榜科としてあり、病理医が常勤しています。
 逆にいうと、病院の良し悪しを判断するのに「病理診断科」があるかどうかは、重要な鑑別規準となります。まだ、日本の病理医は足りないので、学会は必死に病理医の養成につとめています。
 まあ、そんなところでしょうか…。

<病理解剖室の設置義務 (さざ波moo):2015-04-19 08:51=
> 医療法にいう「病院」には厳しい規程があり、例えば「病理解剖室」を設置しなければならない。

 これは病院の規模にも依るんでしょうか。医療法にいう病院と普通の病院は、どう違うのでしょう?>

  これは私の書き方にも問題がありました。
 「医療法」ではいわゆる「病院」は、ベッド数0〜19の「診療所」とベッド数20以上の「病院」とに2大別されます。
 今でも「病院」というと「お医者さんのいるところ」という意味で、前者の「医院」をも含めて使っている人もあるようです。
 旧「医療法」では第4条に「総合病院」という項があり、「100ベッド以上あり、内科、外科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科など」がある医療施設をそう呼ぶことになっていました。
 この「総合病院」には、「化学・細菌・病理の検査施設、病理解剖室、研究室、講義室、図書館など」を置くことが義務づけられています。(法22条)
 死体解剖は医師であればその都度、保健所長に届け出れば誰でもできますが、遺体が残したメッセージを、きちんと読み取るのはプロの病理医や法医解剖医でなければ無理で、実際には病院の病理解剖は「死体解剖資格」を持つ、病理専門医が行っています。この資格については「死体解剖保存法」という別の法律で詳しく定められています。

 厚労大臣が出すこの資格については、いま聖マリアンナの「精神科認定医」資格の虚偽取得が問題になっていますが、「死体解剖資格」を得るには、自分が主として行った20例以上の死体解剖について、報告書を出さなければなりません。病理の場合、インチキのしようがないのは、「病理剖検輯報」という全国で毎年行われた病理解剖例の全例を、日本病理学会が収集して、これに基本データベースとして掲載・出版しているからです。
 これは登録施設毎の連番で、患者年齢、性別、主たる居住地、臨床診断、(病理解剖による)主病、副病変など主な情報が掲載されています。もちろん各病院には「病理解剖台帳」、「病理解剖報告書(プロトコル)」がすべて永久保存されていますので、病理解剖を受けた限り、その記録はカルテが破棄されても残ります。
 その意味で病理医は「医療の裁判官」と呼ばれることもあります。病理情報は同僚である医師だけでなく、患者とその遺族にも等しく公開されます。

 さて「総合病院」ですが、平成5年の医療法改正の結果、旧法第4条の「総合病院」規程(名称)がなくなり、「病床数200以上」で、上記の設備・施設基準を満たし、「地域医療の中核となる病院」を「地域医療支援病院」と呼び、大学病院など、さらに高次の医療機能をもつものを「特定機能病院」と法的には呼ぶようです。
 この法改正と「死体解剖保存法」との対応関係は、私にはよくわかりません。「地域医療支援病院」に病理解剖室が必要なことは、法22条に規定されていますが、「120床の民間病院(KIFMEC)」の場合が、どうなるのか分かりません。
 今は医師または歯科医師でなくても、「都道府県知事の許可」があれば、診療所や病院を開設できるように法改正でなりました。その結果、神奈川ではある医師(元大学医学部教授が理事長)がスタッフを集めて病院を開設しようとしたら、「◯◯中央病院」という名前がすでにパチンコ業者により「商標登録」されていて、あえなく挫折、というような例が起こっているそうです。

 「総合病院」は米語の「ジェネラル・ホスピタル」の訳語で、ハーバード大医学部の附属病院が「マサチューセッツ・ジェネラル・ホスピタル」で、誇り高い名称なのですが、日本では「専門病院」ばかりが評価され「総合病院」は低くみられがちですが、この間の内視鏡手術や肝臓移植のスキャンダルをみて、すこしは一般市民にも視野狭窄の専門医がいかに危険かわかったと思います。しかし、結局のところ「医者を選ぶのも寿命のうち」と言いますからね…。

神戸の「KIFMEC病院」事件も病理医がいて、ちゃんと病理診断し、死後の病理解剖が行われていれば、連続4人も死ぬことはなかった、と思います。
 それにしても神戸新聞の
http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201504/0007944887.shtml
<インドネシアの成人患者は、手術の際にドナーに脂肪肝が見つかり、脂肪を切除して移植。結果的に移植した肝臓が十分機能しなかった可能性がある。>は、ひどいな。
 「脂肪肝」というのは、「肝細胞のなかに小さな脂肪滴がたくさん溜まり、結果として肝臓の腫大と肝機能の低下が起こるもの」をいうので、「脂肪の塊」があればそれは「脂肪腫」である。
 その程度の区別もつかない記者が記事を書きまくるのだから、読者が混乱するのは当たり前だろう。記事にする前に神戸大医学部か神戸中央市民Hの病理医にちゃんと内容をチェックしてもらうべきだろう。
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