ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【STAP問題と新聞社説】難波先生より

2014-12-29 15:09:13 | 難波紘二先生
【STAP問題と新聞社説】
 あきれた。言論の自由への抑圧うんぬんをいう前に、言える自由があるのに、新聞がいうべきことを言っていないではないか。STAP問題の責任についてだ。たまりかねて発言することにした。

 今年1月の記者会見では理研の野依理事長は、会見にしゃしゃり出てきて、あたかも自分の手柄であるかのように成果を強調した。安倍内閣の第三の矢、経済成長の柱として再生医療が位置づけられ、ポット出の小保方晴子は首相が議長を務める最高諮問機関、科学審議会への出席も予定されていた。

 メディアによる大々的な翼賛報道の直後に、ネット集合知がネイチャー論文に内在する矛盾や画像改ざん、文章や画像の盗用疑惑をつきつけると、理研は調査委を結成し「真相を解明するふり」をして、延々と調査を引き延ばした。論文そのものはあくまで正しいと主張して、実験手順の詳細を書いた、プロトコルなるものをネイチャーに追加発表すらした。

 しかし、小保方から渡された幹細胞でキメラマウスを作成した、山梨大若山教授が「STAP幹細胞」なるものはES細胞ではないかと疑い、生物遺伝子情報を専門とする理研の遠藤研究員が公開されたSTAP細胞に見られる染色体異常とそのゲノム配列をES細胞のゲノム塩基配列と比較し、若山疑惑を支持し、若山教授が論文撤回を呼びかけた3月の時点で、「分裂能力がないSTAP細胞が、胎児形成と胎盤形成能力を持ったSTAP幹細胞になったのは、細胞のすり替えが行われたためだ」ということは、幹細胞の専門家でなくても、現代生物学を根本のところできちんと理解している科学者たちには、ちゃんと分かっていた。
 3月末には物的証拠から、すでに「STAP幹細胞はES細胞」という結論は出ていた。

 それに気づいた(本来、竹市後任のCDCセンター長が内定していた)笹井芳樹は理研に対して、3月末に辞意を表明したが、竹市センター長を始め理研首脳部はそれを受け容れず、「再現実験」という政治的思惑がらみの「結論先送り」政策を続行し、笹井を自殺に追いこんだ。2013年度末に理研を離れた若山教授と死んだ笹井副センター長は、いまや理研外部調査委によって「STAP捏造事件」の責任者にされようとしている。
 眼を再生医療が政策に取り込まれた背景に転じれば、アベノミクスと第三の矢と再生医療の産業化を目論むベンチャー企業と理研の利害関係はまったく一致しており、調査委、外部調査委の調査発表時期が、安倍内閣の政治日程と見事に連動しているのは、明白ではないか。

 12/26の理研外部調査委の発表は、3月に分かっていたことの追認にすぎないが、「誰が細胞をすり替えたかわからない」という「曖昧決着」をはかろうとしている。そもそも「第三者委員会」なるものは、朝日の慰安婦問題検証の「外部委員会」がそうであるように、組織が自己防衛のために発足させるもので、航空機事故の調査委のような客観的で人命の安全のための調査を行う組織ではない。辞め判事の弁護士を委員長にしたのは権威付けのためで、判事にSTAP問題が理解できるはずがないのは常識ではないか。

 日本のメディは当初の無批判な「翼賛報道」で大いに信用を落とした。その後の報道で失われた名誉を回復するものと期待した。
 だが12/20〜12/28にかけての各紙の社説には一紙を除いて、まったく失望した。

 理研の最高責任者である野依理事長は、医学・生物学の素人であるにもかかわらず、STAP細胞が上手く時流に乗り、理研が特権的機関として政治的に位置づけられそうな間は、表にしゃしゃり出て自分の手柄のように振る舞っていた。だが、STAP細胞が虚構であることが明らかになり、戦局が敗色を濃くすると、前線に出なくなった。まるで比島の戦いで、「小官も必ず諸君の後に続くから」と督戦して、多くの特攻隊員を送り出しながら、自分は特別機に乗って台湾に無断脱出し、戦後もおめおめと生きのびた、陸軍の第四航空軍司令官冨永恭次(中将)と同じではないか。(冨永恭次は『コンサイス日本人名辞典』のような小さな人名辞典にも卑怯者として載っている。)

 野依良治もノーベル賞受賞者としてではなく、11年間も理研の独裁者として君臨したあげく、スキャンダルの決着を先送りすることで、理研と日本の科学に対する信用をがたがたに失墜させた人物として、語り継がれるだろう。
 国際的な科学社会において、日本が失った信用は「和田心臓移植」事件に匹敵する。あの後遺症で日本の移植医療は「失われた50年」が持続している。国際移植学会の指導者からは「日本は最初の心臓移植が殺人だったから、臓器移植が進まないのだ」と今でもいわれる。

 だが、12/27「毎日」が報じた如く、
「<理研幹部の責任は>:有信氏=理事長はすでに各理事に厳重に注意の処分をし、理事長と各理事を含めて自ら減給している。これで理事長、理事に関する処分は行われたと理解している。」そうだ。
 その理事長減給の内容たるや、たった「野依→3ヶ月間減給10%」(2CH、生物板スレ「STAP疑惑800」)だという!一旦は追われたアップルに復帰したスティーブ・ジョブズは、年俸1ドルで生命をかけて働き、会社の建て直しに成功した後、膵臓がんの肝転移に倒れた。彼の夢と無私の精神に人びとが感動するのである。

 この曖昧で、納得の行かない決着を、「調査委の調査打ち切りは、落ちが不出来のミステリーを読まされた感じだ」(12/27日経「春秋」)、「理研には(桜の木を切ったのは私ですと名乗り出た)正直者のワシントンはいなかった」(12/27「産経抄」)、「日本をおとしめた朝日とSTAP細胞問題に揺れた理研が駆け込みで会見したのも年神様にいい顔をするための<煤払い>だったか」(12/28「産経抄」)とコラムで皮肉る程度で、各紙社説のお粗末さには失望した。

 朝日は理研の外部調査委の発表前の12/20に気の抜けたような社説を1本載せたきり。読売も同日付で「STAP作れず、細胞の正体は何だったのか」という自らの軽信をそっちのけにした社説を載せたきり。12/27毎日社説は「STAP不正 科学研究の原点に戻れ」というピントはずれ。科学研究自体がいまや不正の温床になっていることへの洞察がない。
 12/27共同のSTAP問題「解説記事」(これは日下公人『<反日>地方紙の正体』、産経新聞社、が明らかにしているように、地方紙の社説ネタとして利用される。)は「厳しい眼、寛容さを失う社会を象徴か、騒動の背景に」という論調を展開している。論点のすり替えだ。
 12/27日経は「STAPが問う理研の責任」とまっとうな姿勢での論調だが、問い方が生ぬるい。
 http://www.nikkei.com/article/DGXKZO81412630X21C14A2EA1000/

 唯一、12/28産経社説「主張」の「STAP問題 <全容解明>を放棄するな」
 http://www.sankei.com/column/news/141228/clm1412280001-n1.html

 が、真正面から問題の所在と解決のあり方を論じていて、相対的に質の高い論評だといえよう。産経の政治的主張には個人的には異論も多く持っているが、一貫して事実を明らかにし、それに基づいて論理を組み立てようとする姿勢にはエールを送りたい。
 私は朝日新聞社と同様に、トップの首をすげ替えないと、巨大科学研究組織(年間800億円の国費が投入されている)の改革と事件の再発防止はできないと思う。繰り返して言ってきたことだが、「日本版ORI」の設立がぜひとも必要だ。それこそ若い科学者の雇用の場ともなる。
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7 コメント

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Unknown (Mr.S)
2014-12-30 03:41:23
ネット集合知のおかげで半年以上も前からSTAPの無い事が素人でも理解できたんで、有難いんですけど、誰がESを混入したかの部分は曖昧でも良いんじゃないかなと思いますよ。
私の中では曖昧ではないんで。
これ以上一般人を集団で苛めるのは良くないでしょう。
前にも書いたけど、小保方氏がタレントで成功するなら面白いと思うし、STAP問題も片付いたんでORIなんかどうでも良いんです。
不正する者なんかどうやったって不正しますしね。
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Unknown (Unknown)
2014-12-30 12:47:45
12/26に会見を行った外部調査委員会の委員長は、国立遺伝学研究所所長の桂氏です。

弁護士の渡部惇氏は、石井俊輔氏の後任で、理研「内部」調査委員会の委員長だったと思います。

その他「改革委員会」もありましたし、たかがサイコパスの小娘を追い出すために、いくつ委員会が作られ、どれだけの税金が無駄に使われたのだろうと考えると、非常にバカバカしい。
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Unknown (Unknown)
2014-12-30 12:55:12
MR.S様、

曖昧にしたのは、決定的な証拠に欠け、例のサイコパスがまた大弁護団を結成し、理研を訴えてくることをおそれたのだと思います。

生物や化学の知識の欠如(KC1と書いたりpHの計算ができない)や嘘の数々が白日の元に曝されたわけですから、社会的な制裁は受けるでしょう。支援者と結婚するなりして姓を変え、美容整形で顔を変えて生きていくことは十分可能でしょうが、科学の世界に居場所はもはやないでしょう。

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抑止力 (花職人)
2014-12-30 18:12:17
私達がコメント欄に書き込んでいるときも警察の存在が平和や秩序を多少なりとも保ってくれています。犯罪は無くならないけれど、警察がパトカー、バイクや自転車で巡回してくれていること、その警察を監視する公安や検察庁、警察内にも苦情相談窓口が設置されています。警察署員は心身ともに大変ですよ。日本の平和憲法を改正する動きがあるのも必要が迫っているからですし、科学界にも是正し抑止力となる機関、ORIは必要でしょう。不正捏造とまでいかなくてもモラル向上機能もありますし。
ハフィントンポストに「紛れ込んだブラックスワンを見抜けるか」との記述があり、何重にもフィルターがかかっている人材の場合、普通の人は信用してしまいます。見抜けたとしても排除は難しいです。
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Unknown (Mr.S)
2014-12-30 23:59:07
いくら頭脳の良い人たちが集まっていても、小保方氏一人裁く事に多くの時間を費やしたのは事実であるが、日本てのはマスコミも一般の人たちも全く聞き感てのが無いね。
そうこうしているうちに中国艦が尖閣に最接近したそうな。
みなさんもっとそういった方向に向けて驚いて怒りなさい。
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Unknown (Mr.S)
2014-12-31 00:01:10
訂正

聞き感→危機感

まったく注意力散漫で申し訳ない
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Unknown (Unknown)
2014-12-31 08:04:00
研究不正はやり得だって。

言論だの何だの言ったって、机上の空論。研究不正当事者は更に巧妙に不正をし、曖昧な対応ですます研究機関は更に詭弁で言い逃れするだけさ。

まっ、エライ先生方やエライ研究者達は、自分は安全などこで、不正はイケマセン等々、しごくまっとうな話をなさるだけ。

もう、いいじゃん。
何も変わらないんだからさ。
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