日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

この季節の楽しみ 2014(5)

2014-06-20 23:25:22 | 野球
遅々たる歩みで列島を南下している高校野球の全国大会展望、本日は白河、もとい勿来の関を越えて関東に入ります。

関東の高校野球における最大の特徴を挙げるとすれば、まずは出場校の多さということになるでしょう。それは結果として試合数の多さにつながり、地方大会ならではの「大量得点差試合」が必然的に増えてきます。加えて、特定校が長きにわたって代表の座を独占するという現象も起こりづらくなり、近年の東北各県で生じている、あまりに筋書き通りで興ざめするという弊害とも比較的無縁です。強豪校が時代とともに移り変わる結果、「あの人は今」の高校野球版とでもいうべき話題が少なからずあるのは、関東ならではの特徴ではないでしょうか。

それでは、茨城から順に注目校を見ていきます。
茨城の強豪といえば「常総学院」と答えるのが十中八九で、「水戸商」と答えるのは一定以上の年代に限られるのではないでしょうか。特定校が長きにわたり君臨するという点で、関東の異端児といえるのが茨城大会です。しかし、春夏合わせて22回の甲子園出場と2回の優勝を誇る全国屈指の強豪も、宮城の二強ほどの絶対的な地位にはありません。今世紀こそ13大会中9大会で代表の座を占めてはいるものの、それ以前は11年間で3回しか甲子園に進めないなど、苦戦した時代はありました。選手権出場回数15回は歴代34位タイと、並み居る強豪の中ではごく平凡な数字にも見え、26回の松山商、23回の鳥取西、22回の広島商といった古豪の偉大さを思い知らされます。激戦区の関東地方で長きにわたり君臨することの難しさと、高校野球における伝統の重みというものを実感させられる数字です。
その常総学院を創立からわずか四年で甲子園に導き、全国屈指の強豪に育てたのは、かの名将木内監督でした。そして、その木内監督が率い、茨城県勢初の全国制覇を達成したのは、これもあまりに名高い取手二です。桑田・清原の両巨頭を擁する全盛期のPL学園を討ち果たし、不滅の伝説を作ったこのチームですが、その年を最後に名将が常総学院に転じて以来、甲子園の出場経験はありません。昨夏29年ぶりの選手権出場を果たした箕島、今春22年ぶりに甲子園へ返り咲いた池田など、かつて一世を風靡したチームの復活が話題となっている昨今とはいえ、初戦を突破できれば御の字という近年の取手二に、そのような復活劇を期待するのは難しそうです。しかし、この校名が紙面の片隅に人知れず登場しているのを見て、往年の名勝負に思いを馳せる瞬間こそ、茨城大会における最大の見所といっても過言ではありません。

ちなみに、取手二があるからには、当然ながら取手一があるわけです。知名度ではかなわないものの、取手一も選手権に三年連続三回の出場を果たしており、回数だけなら四回の取手二に引けをとりません。これらの二校を含め、同じ町の高校に第一、第二と機械的に校名を振るのは茨城の特徴でもあり、選手権の出場経験を有する茨城県勢19校のうち、該当するのが竜ヶ崎一、取手二、取手一、水戸一、鉾田一、土浦一、日立一、下館一、下妻二と9校あります。しかしながら二番手の宿命というべきか、二高は取手と下妻しかありません。先日紹介した盛岡一が「一高の中の一高」なら、取手二は神奈川の法政二と「二高の中の二高」を争う存在といってよいでしょう。
このように茨城の伝統ともいえる一高、二高の校名ですが、少子化の影響により、二校の維持が難しくなった地域もあります。その結果両校を統合して生まれたのが大子清流です。近年の市町村合併で軽薄きわまりない地名が数多く生まれた中、地元を流れる久慈川にちなんで「清流」と名付ける感性には心憎いものがあり、自身毎年注目している校名の一つです。同様に、近年の統廃合で生まれた新設校として磯原郷英、高萩清松などがあり、前者は王に756号本塁打を配給したことで語り継がれる鈴木康二朗の出身校、磯原の後身でもあります。

茨城でもう一校注目するのは霞ヶ浦です。北海道の注目校として、過去四度にわたり北北海道大会の決勝で敗退した遠軽を取り上げましたが、この霞ヶ浦も過去六大会中四大会で決勝に進出しながら、いずれも涙を呑んだという悲劇の主人公です。それにもかかわらず、遠軽ほどの思い入れが湧かないのは、過去に一度選抜出場を果たしているのに加え、旅した頻度が北海道よりはるかに少ない茨城であること、北海道の郡部の公立校と暖地の私立校では、条件の厳しさに格段の差があることなどに由来しています。しかし、これほどまで運に見放されたチームということになると、天の邪鬼としては必然的に興味が湧いてくるというものです。見事宿願を果たすか、またしても返り討ちに終わるか、このチームの戦いぶりに注目です。

最後に余談を一つ付け加えて終わりにしましょう。このネタをまとめていて気付いたのは、地図上でほとんど同じ広さに見える北関東の三県の中でも、茨城は突出して出場校が多く、当然ながら人口も多いということです。茨城の人口は三百万人に迫り、二百万をわずかに超える栃木、群馬両県の五割増です。北海道、福岡、静岡に次ぎ、京都、広島よりも多いというのですから大したものです。都心から40kmも移動すれば茨城との県境を越える一方、栃木も群馬も最低70kmほど距離があることからすれば、茨城の人口が多いのはある意味当然とはいえ、これほどの差があるとは知りませんでした。少なくとも今年に関する限り、岩手県勢の出場回数が埼玉県勢をも上回ると知ったのに匹敵する発見です。追えば追うほど新発見があり、初夏の夜は瞬く間に更けていきます。

北関東の三県を一日でさらうつもりが、茨城だけでかなりの字数に達しました。北海道と東北をまとめたときもそうだったのですが、一晩で一地域というのは能力の限界を超えているようです。全国縦断という目標はさておき、少なくとも平日は一日一県にとどめるのが現実的でしょう。他の二県は明日に回します。おやすみなさいzzz
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